質問主意書

第187回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一四号

内閣参質一八七第一四号
  平成二十六年十月十日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員荒井広幸君提出原子力損害賠償紛争解決センターによる死亡慰謝料の算定に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員荒井広幸君提出原子力損害賠償紛争解決センターによる死亡慰謝料の算定に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 平成二十六年八月二十日に、原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)第十八条第二項第一号に規定する原子力損害賠償紛争審査会の和解の仲介の手続(以下「和解仲介手続」という。)を実施するための組織として設けられた原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)において調査を行ったところ、複数の職員が毎日新聞のホームページに公開されているものと同じ文書(以下「本件文書」という。)を保有していることを確認した。関係職員からの聞き取り等を行った結果、本件文書は、平成二十四年十二月当時、東京電力株式会社の福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の事故(以下「本件原発事故」という。)による避難に伴う死亡慰謝料の支払に係る和解仲介手続が行われた事案について、複数の仲介委員(原子力損害賠償紛争審査会の組織等に関する政令(昭和五十四年政令第二百八十一号)第七条の二第二項に規定する仲介委員をいう。以下同じ。)の間で意見交換が行われた際に、出された意見等を整理するために作成されたものであると認識しているが、本件文書の作成及び配布に係る経緯の詳細については特定できなかった。

三、六、七及び十一について

 仲介委員が和解案を作成するに当たっては、類似の事例における和解契約の先例や、民事訴訟における実務慣行等、様々なものを参考にしていると承知しているが、仲介委員が一律に参照すべき基準としては、原子力損害賠償紛争審査会が原子力損害の賠償に関する法律第十八条第二項第二号の規定に基づき策定した指針(以下「本件指針」という。)及び原子力損害賠償紛争審査会に設置された総括委員会が策定した総括基準以外には存在しないと承知している。
 御指摘の「利用」の意味するところが必ずしも明らかではないが、和解仲介手続は、仲介委員が、中立・公正な立場から、申立人の個別具体的な事情に応じて判断するものであり、また、本件原発事故に係る生命・身体的損害を伴う精神的損害の額については、本件指針において、「生命・身体の損害の程度等に従って個別に算定されるべきである。」とされており、御指摘の死亡に対する本件原発事故の影響の割合についても、個別具体的な事情に応じて仲介委員が適正と判断した割合が採用されていると認識している。

四及び八から十までについて

 本件文書は、複数の仲介委員の間で意見交換が行われた際に、出された意見等を整理するために作成されたものであると認識しており、本件文書における個々の記述について、政府としてお答えする立場にない。また、通常の民事訴訟における死亡した被害者本人の死亡慰謝料の額の算定に当たっては、死亡の態様や被害者の家庭における地位等諸般の事情が考慮されるところ、被害者の年齢についても考慮の対象となり得るものと承知している。

五について

 お尋ねの死亡慰謝料の支払に係る和解の仲介の申立件数については、お尋ねのような観点からの統計はなく、調査に膨大な作業を要することから、お答えすることは困難である。また、死亡慰謝料の支払について和解が成立した件数についても、同様の理由から網羅的にお答えすることは困難であるが、死亡慰謝料を和解対象の損害項目に含む事案として文部科学省がこれまでに把握できたものは百三十七件あり、これらを当該和解において勘案された死亡に対する本件原発事故の影響の大きさにより区分すると、当該影響が五十パーセントより大きいとしたものが約一割、五十パーセントとしたものが約四割、五十パーセント未満としたものが約四割、不明なものが約一割である。

十二について

 仲介委員は、中立・公正な立場から、申立人の個別具体的な事情に応じて和解仲介手続を実施しているものと認識している。また、原子力発電については、国際原子力機関(IAEA)が中心となって策定した基本安全原則においても、「施設と活動の存続期間全体を通して安全の一義的な責任は許認可取得者にあり、この責任は委任することができない。」とされているように、その安全確保の第一義的責任は事業者が負うべきであるという考え方が国際的な共通認識であると承知している。その上で、本件原発事故の反省の上に立って、国がこれまで原子力政策を担ってきたことに伴う社会的責任については重く受け止め、今後、安全の確保を最優先として、全ての関係者が安全性の追求に終わりはないとの姿勢で取り組んでいくことが重要と考えている。

十三について

 東京電力株式会社が和解案の受諾を拒否したことにより和解仲介手続が打ち切られた事案の件数は、平成二十六年十月六日現在で四十六件であり、いずれも同社の社員又はその家族が申立てを行った事案である。また、同日現在で和解仲介手続が進められている事案のうち、同社が和解案の受諾を拒否する旨の回答をしている事案の件数については、引き続き和解仲介手続が進められている段階であることから、お答えすることは差し控えたい。

十四について

 仲介委員は、一般に、当事者間において和解が成立するよう、提示した和解案の合理性、妥当性について引き続き説明していくものと承知している。また、和解仲介手続は、仲介委員が中立・公正な立場から行うものであり、個々の事案について政府から仲介委員に指導等を行うことはない。

十五について

 御指摘の「この間に発生した諸問題」の意味するところが必ずしも明らかではないが、「東京電力が和解案の受諾を拒否する事例」については、十四についてで述べたとおり、仲介委員は、当事者間において和解が成立するよう、提示した和解案の合理性、妥当性について引き続き説明していくものと承知している。また、「センターにおける死亡慰謝料に関する内部文書の存在」に関しては、一及び二について及び三、六、七及び十一についてでそれぞれ述べたとおり、本件文書は、複数の仲介委員の間で意見交換が行われた際に、出された意見等を整理するために作成されたものであると認識しており、死亡に対する本件原発事故の影響の割合については、個別具体的な事情に応じて仲介委員が適正と判断した割合が採用されていると認識している。

十六について

 本件原発事故に係る生命・身体的損害を伴う精神的損害の額については、本件指針において、「生命・身体の損害の程度等に従って個別に算定されるべきである。」とされていることから、現時点において、御指摘のような「新たな指針」を策定するよりも、引き続き、本件指針に基づき、個別具体的な事情に応じて和解仲介手続が実施されるべきものと考えている。

十七について

 和解仲介手続において、本件原発事故と死亡との間に相当因果関係があるかどうかを判断するに当たり、どのような資料を用いるかについては、和解仲介手続を実施する仲介委員が個々の事案に応じて適切に判断すべきものと考える。

十八について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、東京電力株式会社は、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(平成二十三年法律第九十四号)第四十五条に基づく特別事業計画において、センターから提示された和解案を尊重するとしている。また、和解仲介手続は、平成二十六年十月六日現在で、和解仲介手続を終えた一万四百六十七件のうち八千五百九十五件で和解が成立するなど、その役割を果たしているものと考えていることから、現時点において、御指摘のような新たな仕組み等が必要であるとは考えていないが、引き続き、公平かつ適切な賠償が迅速に行えるよう取り組んでまいりたい。

十九について

 御指摘の「原子力事故に起因する「直接死」」及び「原子力事故「直接死」」の意味するところが必ずしも明らかではなく、お答えすることは困難であるが、被災者の方々の死亡と本件原発事故に伴う避難との間に相当因果関係が認められ、原子力損害の賠償の対象となる事案があると認識している。