質問主意書

第187回国会(臨時会)

質問主意書


質問第九三号

東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故による、福島県以外の放射性物質汚染地域の健康調査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年十一月十八日

福島 みずほ   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故による、福島県以外の放射性物質汚染地域の健康調査に関する質問主意書

一 「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(平成二十四年法律第四十八号)」(以下「原発事故子ども・被災者支援法」という。)第十三条において、国は放射線による健康への影響に関する調査などに関し、必要な施策を講ずることを明記している。
 原発事故子ども・被災者支援法を踏まえた「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(以下「専門家会議」という。)が既に十二回(二〇一四年十月二十日時点)開催されているが、福島県以外の「汚染状況重点調査地域」について、十分な議論がなされていないのはなぜか。

二 専門家会議が開催され、委員や外部専門家からの情報提供や提案があるにもかかわらず、主催する環境省は積極的にそれら情報の収集と検証をせず、限られたデータのみで中間とりまとめに持ち込もうとしている。十分な情報に基づいて検証しているとは言えないのではないか。
 また、例えば、第八回専門家会議における、専門家意見聴取で、森口祐一教授(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻)から、「事故後三年余りの間に、多分野にわたる調査研究の成果が蓄積されてきたが、様々な個人や団体が測定した未公開データの中には、動態評価や線量評価に有用なデータが存在している可能性があるため、その収集・発掘、アーカイブ化が必要」と提言されている。
 この提言に従い、環境省及び関係省庁は、同研究データを収集、発掘及び分析し、低線量被ばくの健康影響評価に生かしていく考えはあるか、明らかにされたい。

三 全国の都道府県が設置している大気汚染監視システムのうち、福島県を始め、宮城県、岩手県、茨城県、千葉県など九都県の九十一地点にある測定局の測定用ろ紙に付着していた資料を解析したデータにより、二〇一一年三月十五日と二十一日をピークに放射性プルームが関東に向けて幅広く拡散していたことが改めて確認され、三月十六日午前中、茨城県南東部沿岸地域と千葉県北東部沿岸地域で、セシウム百三十七の濃度が上昇していたこと、三月二十日の十二時以降、茨城県から関東中部、埼玉県北西部に放射性プルームが移動し、夜には山麓地帯に滞留していたことなどが新たな事象として確認されている。
 環境省が専門家会議で示した福島県以外の内部被ばくの実測値は、ホールボディカウンタ(WBC)により測定した、茨城県東海村在勤者のわずか三名のみである。福島県同様に、茨城県、千葉県、埼玉県全域においても健康調査を実施すべきではないか、政府の見解を明らかにされたい。

四 専門家会議では、線量把握と線量評価を行ってから健康調査について議論するとしている。東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故から三年半が経過したにもかかわらず、いまだ原発事故子ども・被災者支援法第一条にもあるように、「放射性物質が広く拡散していること、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと」から、被害を最小限化するための施策として、福島支援に留まらず関東での健康調査を同時進行的に行うべきではないか、政府の見解を明らかにされたい。
 また、関東における放射性物質汚染地域では、市民による甲状腺エコー検査や、自治体での市民の要望に応じた甲状腺エコー検査の一部助成などを行っている例があるところ、国としても、これらの取組を支援すべきと考えるが、いかがか。

五 山本太郎参議院議員による「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故による被ばく者の健康調査に関する質問主意書」(第百八十五回国会質問第六四号)の「政府が原発事故による被ばく者として健康影響を把握すべきと考える調査対象範囲を、その根拠とともに明確に示されたい」という質問に対し、答弁書(内閣参質一八五第六四号)は、①福島県以外の地域については、岩手県、宮城県、茨城県、栃木県及び群馬県において、各県が主体となって開催された有識者会議等において、被ばく線量の把握も含め、特段の健康調査は必要ないとの結論が出ていること、②世界保健機関(WHO)や原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)においても、がんなどの健康影響の増加が認められる見込みはないと評価されていると承知していることを根拠にあげ、「政府としては、現在、福島県が行っている被ばく線量を把握するための調査等を着実に実施していくことが重要と考えており、御指摘のような検査を無料で受診可能とする体制が必要とは考えていない」としている。
 福島県以外の地域のうち、千葉県及び埼玉県において有識者会議が行われていない理由を示されたい。

六 二〇一四年八月十七日の朝日、毎日、読売、産経、日経の全国紙と、福島民報、福島民友の二紙、翌十八日の夕刊フジに掲載された政府広報「放射線についての正しい知識を」には、「百ミリシーベルト以下の被ばく量では、がんの増加は確認されていません」、「福島では最大でも約三十五シーベルト未満(中略)甲状腺がんは増えない」、「わずかな被ばくを恐れることで、運動不足などにより、生活習慣が悪化し、かえって発がんリスクが高まる」という中川恵一氏のコメントが掲載されている。
 一方、公益財団法人放射線影響研究所はホームページで、被曝者の遺伝的影響について、今後の追跡調査が必要と明記している。また、専門家会議においても、まだ議論されている段階である。それにもかかわらず、「福島でがんは増えない」と広報する根拠を示されたい。

七 首相官邸のホームページで、「福島県の皆さんへ(仮訳 長瀧重信)」として、バロノフ氏(元国際放射線防護委員会(ICRP)委員、世界保健機関(WHO)顧問、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)顧問)のメッセージを掲載している。これを政府の正式見解とするつもりか、明らかにされたい。

  右質問する。