質問主意書

第187回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七六号

いわゆる「女性活躍推進政策」と我が国における性差別に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年十一月十四日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   いわゆる「女性活躍推進政策」と我が国における性差別に関する質問主意書

 安倍政権は、我が国の成長戦略の一環として「二〇二〇年までに管理職等の指導的な地位に占める女性比率を三十パーセントとする。」との政府目標(以下「政府目標」という。)の達成に向け企業に対し様々な要請を行い、企業における女性活躍推進の取組である「ポジティブ・アクション」を国内外に示している。第百八十七回国会(臨時会)においても、企業等に積極的な女性の登用を促す法案の提出、成立を目指しているとされるが、その一方で、政権与党である自由民主党所属議員らを主として、女性蔑視若しくは女性の人権を無視するようなセクシュアル・ハラスメント発言が、国会及び東京都議会等地方議会の場において公然となされている現状もある。
 さらに、一九五八年の国際労働機関(以下「ILO」という。)第四十二回総会で採択された「雇用及び職業についての差別待遇に関する条約」(ILO第百十一号条約)は、これを批准する加盟国が雇用及び職業につき、人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身又は社会的出身に基づく差別をなくすため、雇用又は職業についての機会及び待遇の均等を国内事情及び慣行に適した方法により促進するための国家の方針を明らかにすること、この方針の実施のための措置を執ることを規定するものであり、ILOが労働者の基本的人権を守る八基本条約の一つとして最も重視している条約であるが、百八十五加盟国中、百七十二加盟国がすでにこの条約を批准しているにもかかわらず、我が国は本条約採択から半世紀以上経過した現在においても、未批准のままである。
 これら我が国における女性を取り巻く社会環境及び労働環境の現状、さらに国際社会における我が国の立ち遅れた振る舞いをも鑑みれば、安倍政権の目指す積極的な女性の登用政策を実現するに当たっては、取り除くべき様々な障壁と未解決の問題が、我が国には今なお根強く存在していると思われる。以上の点を踏まえ、安倍政権の進めるいわゆる「女性活躍推進政策」と我が国の抱える性差別問題に関する政府の認識を確認すべく、以下質問する。

一 政府目標に関して、日本経済団体連合会の榊原定征会長は、平成二十六年九月十二日に開催された「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」において、「国として数値目標があるのはいいが、一律的に数字を決めるのは現実的ではない。二〇年までに三十パーセントという目標は現実からすれば相当遠い数字ではないか。」との見解を早くも示している。また、安倍首相は平成二十六年九月二十九日に行われた第百八十七回国会における所信表明演説(以下「所信表明演説」という。)の中で「真に変革すべきは、社会の意識そのものです。上場企業では、女性役員の数について情報公開を義務付けます。国、地方、企業などが一体となって、女性が活躍しやすい社会を目指します。」として、政府も積極的に企業の女性登用に関わっていく決意を示したが、安倍首相がこの自身の発言に責任を持ち、我が国の企業の女性差別体質を根本的に改善する覚悟があるのであれば、女性活躍推進を促す法律等を制定する際には、当該法律等に数値目標とともに、違反に対する措置等も明記し、企業に数値目標を徹底させるべきと考えるが、政府の見解如何。

二 前記一に関して、安倍首相は上記の如く「女性管理職の数値目標」は掲げているが、男女共に管理職候補はごく一部の者に限られることは言うまでもなく、女性労働者は管理職候補どころか正規社員にもなれない非正規労働者であることが多い。平成二十六年八月十二日に総務省統計局により公表された「労働力調査(詳細集計)」によれば、正規の職員・従業員は三千三百三万人と、前年同期に比べ十四万人減少し六期連続の減少を示しているのに対し、非正規の職員・従業員は千九百二十二万人と四十一万人増加し六期連続の増加を示している。この非正規従業員のうち男性は六百十四万人であるのに対して、女性はその倍以上の千三百八万人で、実に非正規従業員の三分の二以上が女性であることが明らかにされた。さらにこの女性非正規従業員の「現職の雇用形態についた主な理由」を見ると、「正規の職員・従業員の仕事がないから」とした者が前年同期比で十一万人減少した一方、「自分の都合のよい時間に働きたいから」とした者が三百二十七万人と、前年同期に比べ二十六万人の増加となっており、一見、自らの自由意志によって働き方を多様に選択しているかに見えるが、このデータが示しているのは、企業が正規労働者に多様な働き方を許していない現状に他ならない。もし女性が「自分の都合のよい時間に働きたい」との希望を持っているのであれば、その背景には、正規の男女労働者の長時間労働が改善されていないこと、男性や職場の性別役割分担(「男は仕事、女は家庭」という性別に基づく役割分担)意識が固定化されていて、家事、育児あるいは介護などの家族的責任が女性に偏重となっていること、妊娠、出産、育児中の女性や介護責任を担う労働者(主として女性)に対する職場における差別や嫌がらせが存在すること、などがその理由としてあると考えねばならない。
 政府が本気で女性活躍推進政策を実行していくつもりならば、これらの問題を改善するために、(一)正規労働者の長時間労働の制度や慣行を是正する、(二)全ての労働者に対して、平等を保障する法制度を確立する、①ILO第百十一号条約を批准する、②ILO第百七十五号条約「パートタイム労働に関する条約」(一九九四年採択)を批准しパートタイム労働者に対する衡平賃金等の平等施策を推進する、③ILO第百八十三号条約「一九五二年の母性保護条約(改正)に関する改正条約」(二〇〇〇年採択)を批准しマタニティー・ハラスメント等の「母性を理由とする差別」を禁止する等の措置を推進し、管理職のみならず、むしろ多数を占める女性非正規労働者への対策を講じることが緊要と考えるが、政府の見解如何。

三 平成二十六年六月十九日、石橋通宏参議院議員より提出された「国際労働機関(ILO)の条約・勧告適用監視メカニズムに関する質問主意書」(第百八十六回国会質問第一五六号)に対する答弁書(内閣参質一八六第一五六号)の二についてで、「ILO第百十一号条約については、国内法制等との整合性について検討すべき点があることから、その批准については、慎重な検討が必要であると考えている。」とあるが、当該条約批准に当たって、整合性について検討を要する国内法制等とは、いかなる法律を指しているのか。それらの法律を全て具体的に列挙するとともに、その検討を要する理由及び根拠についても併せて明確に示されたい。
 加えて、前記二に関して、ILO第百七十五号条約及びILO第百八十三号条約についても、我が国が未批准である理由を明確な根拠に基づいて明らかにされたい。

四 昨今我が国においては、国会を始め東京都議会等の地方議会においても、女性議員に対してセクシュアル・ハラスメント発言を公然と行う男性議員が頻出しており、国内の社会問題となっているばかりか、国外のメディアでもこの問題が取り上げられるなど、我が国は国際社会において、まさに恥辱的状況となっている。しかしながら、我が国においては、セクシュアル・ハラスメントに関する法律は、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(昭和四十七年法律第百十三号)第十一条第一項「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」しか存在しない。加えて、この法律自体もセクシュアル・ハラスメントを明確に禁止するものでなく、罰則もない。国会議員については、国会法(昭和二十二年法律第七十九号)において、第百十六条「会議中議員がこの法律又は議事規則に違いその他議場の秩序をみだし又は議院の品位を傷けるときは、議長は、これを警戒し、又は制止し、又は発言を取り消させる。命に従わないときは、議長は、当日の会議を終るまで、又は議事が翌日に継続した場合はその議事を終るまで、発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。」及び第百十九条「各議院において、無礼の言を用い、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない。」とされており、平成二十六年四月十七日の衆議院総務委員会における自由民主党大西英男衆議院議員の日本維新の会上西小百合衆議院議員に対する「早く結婚して子どもを産まないと駄目だぞ。」との発言は、正に本規定に抵触するものであることは明らかと考えるが、それにもかかわらず何ら懲罰されることもなく、所属する自由民主党内においても石破茂幹事長(当時)による厳重注意のみで処分はなかったとされる。このように我が国では、セクシュアル・ハラスメントについては、企業ばかりか国権の最高機関たる国会においても、極めて「寛容」であると言わざるを得ず、人権保護の観点からセクシュアル・ハラスメントを禁止し厳しく罰している欧米諸国と比較して、極めて立ち遅れていると言わざるを得ない。政権与党である自由民主党の議員から、このような国際社会ではおよそ通用しない言動が頻発している事態について、政府の見解を示されたい。また、現在政府としてセクシュアル・ハラスメントについて、いかなる対策を講じているのか、また、今後いかなる対策を講じていくつもりなのか、政府の見解を具体的に明示されたい。

五 今なお我が国の社会に根強く残る、家庭、学校、職場及び社会一般における性別役割分担意識が改善されなければ、安倍政権の目指す女性活躍推進政策も、文字どおり「絵に描いた餅」となる。この性別役割分担意識を改善するために、現在政府が行っている施策を、省庁別、国及び自治体別に具体的に示されたい。

六 安倍首相は所信表明演説の中で「家事支援に携わる能力あふれる外国人の皆さんに、日本で活躍してもらえる環境を整備します。」と述べたが、女性の就業を促進するために、国外から家事労働者を我が国に雇い入れることについて、政府の見解を示されたい。また、国外から家事労働者を国内に雇い入れる場合、我が国は、前述のようにILOの基本条約である第百十一号条約を批准しておらず、またILO第百八十九号条約「家事労働者の適切な仕事に関する条約」(二〇一一年採択)も批准していないが、このような国外からの家事労働者は、労働諸条件や福利厚生が適正に保障され、また、その基本的人権は保障されるのか、国内法に基づく具体的根拠とともに政府の認識を示されたい。

七 安倍首相が所信表明演説でも言及したように、政府は成長戦略の一つとして、女性の活躍の場を拡大させるよう企業に働きかけるとともに、国家戦略特区を活用して雇用における「岩盤のように固い規制」にも果敢に挑戦していくなどとして、いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」に代表される労働法制の規制緩和を目指していると認識している。しかしながら、このような政府の目指している雇用や労働時間における規制緩和が推し進められた場合、女性も男性と同様の低賃金労働と成果を重視する働き方を求められることになり、いまだ家事労働や育児あるいは介護に時間と体力を割かざるを得ない多くの女性は、むしろ厳しい労働環境に身を置くことになるのではないかと懸念される。家事労働を始め育児あるいは介護の責任を担う男女の労働者がワーク・ライフ・バランス及びディーセント・ワークを達成するために整備されるべき、家事サービス、保育サービス、介護サービスのインフラがいまだ整備されていない現状においては、それらのサービスを買うことのできる、ごく一部の限られた稼げる女性、恵まれた環境にある女性しか、輝くことができないのではないか。これらの点を踏まえて、政府の目指す女性活躍推進政策と今後政府が行おうとしている労働法制の規制緩和との整合性及び政府が今後解決すべきとして認識している問題点について、政府の見解を明確に示されたい。

  右質問する。