質問主意書

第187回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七五号

原子力発電所の「事故の真実」と「負の遺産」等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年十一月十三日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   原子力発電所の「事故の真実」と「負の遺産」等に関する質問主意書

 本年五月二十一日、福井地方裁判所(樋口英明裁判長)は関西電力株式会社大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という。)の、現在定期検査中の第三号機、第四号機の再稼動を、大飯原発の安全技術や設備を「確たる根拠のない楽観的な見通しで成り立つ脆弱なもの」と厳しく批判し、東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の事故での被害・避難状況を念頭に、二百五十キロ圏内の原告百六十六人に対し、「具体的な危険があり人格権が侵害される」とその再稼動差止めの訴えを認容した。
 下級審の判決ではあっても、その判示は多数の識者が支持するものであり、九州電力株式会社川内原子力発電所(以下「川内原発」という。)をはじめ、全ての再稼動を計画中の原子力発電所(以下「原発」という。)の、道理に反する計画を真正面から否定する内容である。
 しかしながら安倍内閣は右判決や各種の世論調査に示された過半数の、再稼動反対の国民世論に背を向け、とりかえしのつかない愚行に走っている。
 右の点を踏まえ、以下質問する。

一 福島第一原発の大事故に関し、現時点における政府の統一見解を以下求める。

1 一ないし四号機について、以下具体的に示されたい。
① 爆発当時、各号機内にはいかなる核物質がどの程度存在したのか。
② 各号機の爆発の主原因はそれぞれ何であったのか。
③ 爆発の結果、各号機から環境に排出された放射性物質の総量及びヨウ素百三十一、セシウム百三十四、セシウム百三十七、ストロンチウム九十、プルトニウム、トリチウムの各量は今日までの間、それぞれどの程度か。
④ 現時点で各号機内の核物質の状態及び放射線量の状態は、それぞれどうなっているか。
⑤ 各号機から、環境に放射性物質が全く放出されなくなるまで最悪の場合、あと何年を要すると推定しているか。
2 福島第一原発から排出された放射性物質による汚染水は地下水脈を通じて関東地域をも汚染しているとの指摘もあることから、以下具体的に示されたい。
① 二〇一一年三月十一日以降二〇一四年九月三十日に至る間に環境に放出された汚染水の総量はどの程度か。
② 東京都区内、埼玉県内、神奈川県内、千葉県内、茨城県内及び福島県内の河川水及び井戸水からそれぞれ測定された最も高い放射線量及びその測定年月日を明らかにされたい。
3 前記一の1及び2に関して、仮に二〇二〇年の直前(例えば二〇一八年三月末)に至っても環境に対する放射性物質の放出及び汚染水の放出がなくならない場合、世界中の識者や一流のアスリート達の中からも東京オリンピックの開催を速やかに他の国に譲ることを求める声が出るような最悪の事態に陥る前に、むしろ日本政府の判断として、世界中のオリンピックを愛する人々に対する最低限の責任として、東京オリンピックの開催を辞退する選択も想定しているのか。

二 国内の原発の稼働が全機停止して以降、今日に至る間に、電力の供給不足が原因で発生した停電があれば、その日時、場所を全て示されたい。

三 ①使用済み核燃料の処理費用、②廃炉費用、③環境汚染の原状回復費用、④苛酷事故における一件百兆円規模の経済的損失、⑤原発周辺住民に与える物質的精神的負担等を正しく計算するならば、営利を目的とする正常な株式会社が正当な経済的利益を発生させる目的では原子力発電事業に手を出せるわけがない、と識者たちは指摘している。
 政府は世論の過半数が反対しているにもかかわらず正常な経済活動のルールを無視して再稼動を強行するのであるから、原子力発電に伴って発生する前記①ないし⑤の各コストを一キロワット毎時当たり、各何円と試算しているのかを明らかにした上で、他の電源による発電コストとの比較及び直近のデータによる日・米・独三ヶ国の電源別発電コストはどうなっているか示されたい。

四 福島第一原発の事故では、放射性物質の九割は海側に流れ、陸側を汚染したのは全体の一割に過ぎないと言われている。

1 前述の見方について、政府の見解を示されたい。
 右政府見解の根拠となる実測データが有るのか、又は実測データを入力したシミュレーションがあるのか、併せて明らかにされたい。
2 仮に、全ての放射性物質が陸側を汚染していたとすれば、どのような状態になっていたと想定されるか、①避難者の数、②被曝の範囲や程度、③各種被害額について右想定の結果を、根拠を示して明らかにされたい。
3 国の機関である原子力規制委員会の田中委員長は、川内原発の再稼動の審査合格を出すに当たり「安全であるとは申しません」と明確に発言している。そうであれば、川内原発で事故が起った際、最悪の場合どうなるのかを政府は明確に想定していなければならない。川内原発で事故が起きれば、それから発生する放射性物質は福島とは異なって、通常の風向きから考えて大部分は陸側に流れると想定しなければならない。川内原発一号機、二号機が事故を起こし、全て(若しくは九割)の放射性物質が陸側に流れた場合、どのような想定となるかシミュレーションしているのか示されたい。

五 最後に未来世代に対し、私達の世代が残すことになる「負の遺産」について尋ねたい。

1 停止中の全原発を一機も再稼働させない場合、既に存在する使用済み核燃料は各原発の敷地内及びその他の施設内に各何体存在するのか。また、それを人や生物に対して無害なものにするにはおよそ何年の歳月及び処理費を要するのか、具体的に示されたい。
2 「三・一一」以降、福島第一原発を人や生物に対し無害な状態にするために、今日までおよそいくらの費用を要し、さらに今後、どの程度の歳月と費用を要するのか、最悪の場合を具体的に示されたい。
3 政府は福島第一原発の事故発生から三十年後の二〇四一年三月の時点における日本の人口、日本人の健康状態、日本国の経済状態等に関して、最悪の場合、いかなる形でその影響を示すものと予測しているのか。可能な限り数字で示されたい。
4 日本国内の全原発を廃炉にし、人や生物に無害な状態にするには、最悪の場合およそ何年の歳月及び処理費を要するのか。具体的に示されたい。

  右質問する。