質問主意書

第186回国会(常会)

答弁書


答弁書第一四〇号

内閣参質一八六第一四〇号
  平成二十六年六月二十四日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 山崎 正昭 殿

参議院議員林久美子君提出民法第七百七十二条をめぐるいわゆる「無戸籍問題」に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員林久美子君提出民法第七百七十二条をめぐるいわゆる「無戸籍問題」に関する質問に対する答弁書

一について

 戸籍に記載がない者(以下「無籍者」という。)の数については、政府として把握していない。
 なお、法務省は、平成十九年五月七日、離婚後三百日以内に出生した子が年間三千人近く存在する可能性があると発表したものであり、無籍者について、お尋ねのように「年間約三千人と試算した」事実はない。

二について

 お尋ねの「調査」については、無籍者の全員を正確に把握することは困難であるものの、現在、法務省において、その存在を可能な限り把握する調査方法について検討を行っているところであり、その調査予定時期も未定である。

三について

 出生した子は出生の届出に係る届出義務者とされていないところ、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)第四十九条第一項は、「出生の届出は、十四日以内(国外で出生があつたときは、三箇月以内)にこれをしなければならない。」と規定し、また、同法第百三十五条は、「正当な理由がなくて期間内にすべき届出・・・をしない者は、五万円以下の過料に処する。」と規定しており、出生した子に過料の制裁の下に届出義務を課することは相当ではないことから、出生した子を出生の届出に係る届出義務者とする予定はない。
 なお、無籍者につき、出生の届出に係る届出義務者が全て死亡しているなどの場合において、市区町村長は、当該無籍者の申出等を契機として、同法第四十四条第三項で準用する同法第二十四条第二項の規定により、管轄法務局又は地方法務局の長の許可を得て、職権で当該無籍者を戸籍に記載することができることとされている。

四について

 御指摘のように「「父未定」として出生届が受理される」場合は、嫡出推定が重複する場合に限られ、お尋ねのように「外国籍の者との間に子どもが生まれた場合、母の離婚後三百日以内に生まれたとしても、その子は調停・裁判を経ず、とりあえず「父未定」として出生届が受理される」事実はない。

五について

 民法(明治二十九年法律第八十九号)第七百七十二条第二項が「婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と定めている理由は、懐胎期間にはある程度の幅があること等を考慮したものであって、御指摘のように「DNA等で子の生物学的父が判明する時代において」も、なお合理性があるものと考えている。
 御指摘の「生まれた子が前夫に対して認知請求が出来ることは変わりがないことを前提と」することの意味するところが必ずしも明らかではなく、また、お尋ねの「離婚届の中に、今後生まれる子の嫡出推定を外す欄を設けることを検討するべき」との趣旨が必ずしも明らかではないが、嫡出推定は、同条の規定に基づくいわゆる「法律上の推定」であり、離婚の届出に係る届出人の意思によって嫡出推定を受けるか否かが左右されることはないから、「離婚届の中に、今後生まれる子の嫡出推定を外す欄を設けることを検討する」ことは考えていない。

六について

 お尋ねの「裁判コスト」の意味するところが必ずしも明らかではなく、また、裁判に要する費用は、調停の申立手数料、弁護士報酬等様々なものがあることから、御指摘の「離婚後懐胎について、医師の証明書の添付で調停・裁判を経ずして出生届を提出」する取扱いにより、どの程度裁判に要する費用が削減されたかをお答えすることは困難である。

七について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、父母が共に死亡している場合に、家庭裁判所において無籍者について新戸籍を編製して就籍をすることが許可された例などがあるものと承知している。

八について

 母子関係は、出産という客観的な事実により当然に成立すると解されていることから、戸籍事務の処理に際し、母が認知の届出をすることは想定されていない。
 お尋ねの「無戸籍児支援ファンド」の意味するところが必ずしも明らかではないが、無籍者であっても、日本国民であることなどが確認されれば、日本司法支援センターが行っている民事法律扶助事業を利用して援助を受けることが可能であることから、その他に、「公的資金で裁判のサポートを行うための」組織を設置する必要はないものと考えている。
 戸籍の有無については、御指摘の「学齢簿」の記載事項とされておらず、「学齢簿に掲載されている無戸籍児の数」については、政府として把握していない。
 政府においては、これまで、嫡出否認の訴え、実親子関係の存否の確認の訴え又は認知の訴え等の法律上の親子関係を確定するための各裁判手続の内容等について周知を図ることにより、「戸籍取得を促し」てきたところであり、今後ともより一層の周知に努めてまいりたい。

九について

 お尋ねの「無戸籍のままで婚姻をした者の人数」については、政府として把握していない。なお、平成二十年から現在までに、無籍者の婚姻の届出が受理された事案が三件確認されていると承知している。
 お尋ねの「無戸籍者の望む姓(推定を受ける姓ではない)を名乗ること」の意味するところが必ずしも明らかではないが、婚姻をしようとする者の一方が無籍者である婚姻の届出については、夫婦が称する氏を戸籍に記載されている他の一方の氏とすることが可能である。