質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第一五三号

モザンビーク農業開発のための三角協力プロサバンナ事業に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年六月十八日

石橋 通宏   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   モザンビーク農業開発のための三角協力プロサバンナ事業に関する質問主意書

 現在、政府開発援助(ODA)を通じて実施されている「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるモザンビーク熱帯サバンナ農業開発プログラム(ProSAVANA-JBM)」(以下「プロサバンナ事業」という。)は、①研究・技術移転能力向上事業(ProSAVANA-PI)、②マスタープラン策定支援事業(ProSAVANA-PD)、③コミュニティレベル開発モデル策定事業(ProSAVANA-PEM)の三本の柱で構成されており、モザンビーク北部ナカラ回廊沿い地域の三州十九郡を対象として二〇一一年から開始されている。
 このプロサバンナ事業については、同年十月以来、モザンビーク最大の小規模農民(以下「小農」という。)の連合体である「全国農民連合(UNAC)」により、ステークホルダーとの対話の欠落と情報公開の欠如による不透明性及び土地収奪への懸念などにより、繰り返し疑義と懸念が表明されてきた。二〇一三年五月二十八日には、UNACをはじめとするモザンビークの広範な社会組織二十三団体と世界四十二団体によって、当該三か国首脳宛ての「プロサバンナ事業の緊急停止と再考を求める公開書簡」(以下「公開書簡」という。)が提出され、国内外で広く報道されたため、国際的な関心も高まっている。
 また、本年一月十一日から十三日にかけての安倍晋三首相のモザンビーク訪問時には、「両国首脳は、(中略)熱帯サバンナ農業開発プログラム(ProSAVANA)実施にあたっては、市民・農村社会と緊密な対話を継続し」、「持続可能な農業開発を通じた地域コミュニティの生活向上、及び小農の貧困削減を進めるために協力するとの約束を再確認した」との日本国とモザンビーク共和国との間の「友情」(AMIZADE)パートナーシップに関する共同声明が発表されているが、公開書簡が提出されてから一年が経過する現在も、公開書簡への回答は行われていない。
 右の背景・経過を踏まえ、以下質問する。

一 公開書簡が一年以上にわたり放置されている理由について、政府の見解を示されたい。また、公開書簡に対する回答が準備されている場合、いつまでに、誰の名前で回答がなされるのか、具体的に明らかにされたい。

二 本年六月二日、UNACを中心に、プロサバンナ事業対象十九郡の小農組織とその連合体を含む約二千二百組織が参加した小農・市民社会組織が「全国キャンペーン プロサバンナにノー」を首都マプトで開始したが、政府は承知しているか。承知している場合、「小農支援」を謳うプロサバンナ事業が、同国で最大の小農連合と市民社会諸組織によって明確に反対を表明されるに至った理由について、政府の見解と今後の対応を示されたい。

三 プロサバンナ事業の二本目の柱であるProSAVANA-PDは、当初二〇一一年末に開始し、二〇一三年八月に終了するものとして計画されたが、現地社会並びに国際社会での不信感の高まり等により、二度の事業延期を余儀なくされて現在に至っている。現地関係者からは、UNACはじめ、前記一のキャンペーン参加組織だけでなく、事業の最大対象地で十郡が集中するナンプラ州の市民社会プラットフォームとの対話も暗礁に乗り上げていると伝えられているが、その事実関係と、暗礁に乗り上げている理由及び今後の対応方針について、政府の見解を示されたい。

四 プロサバンナ事業の全体像が確定していないにもかかわらず、二〇一三年五月には事業の三本目の柱であるProSAVANA-PEMが開始されている。しかし、現地関係者からは、同事業に関するステークホルダーへの説明や対話は、全国のみならず、州レベルでさえ行われておらず、その目的や全容、計画は現在まで当事者に不透明なままであること、そして、ProSAVANA-PDが暗礁に乗り上げている中で突然、ProSAVANA-PEMが開始されたことに対して「プロサバンナ事業の既成事実化」の動きとして地域社会の不信感を強める結果となっていることが伝えられている。公開書簡に対する回答を行わず、マスタープラン策定が暗礁に乗り上げる中、現地社会に対する説明や協議も行わないままに一部でProSAVANA-PEM事業を推し進めている理由を明らかにされたい。

五 ProSAVANA-PEMの受益者として契約が結ばれる予定の団体には、ナンプラ州の「マリア・ダ・ルス・ゲブザ・アソシエーション」という現職大統領夫人の名前を冠した小農組織が含まれ、農薬・化学肥料・灌漑設備などが供与されることになっていると伝えられているが、その事実関係と、これらの農業資機材の供与は、日本のODA予算によるものか否か明らかにされたい。日本のODA予算による場合、そのスキーム名、全供与対象組織、物資、予算額と計画を明らかにされたい。現地では、本年十月に大統領・国政選挙が予定されており、ProSAVANA-PEMが現政権の「選挙対策」になっているのではないかとの疑念が広がりつつあると伝えられているが、この点に関する政府の見解を示されたい。

六 プロサバンナ事業の技術チームが拠点を置くナンプラ州農業局に派遣中の青年海外協力隊員に対し、プロサバンナ事業関係者より「プロサバンナ事業が支援する農家に対するサポート」が依頼されていると伝えられているが、事実関係を明らかにされたい。その上で、これに関連し、これまでプロサバンナ事業に直接的・間接的に関わる業務に従事した青年海外協力隊員の数、任期、職種・(プロサバンナ事業内の)業務の詳細を明らかにされたい。現地では、昨年十月から政府軍と最大野党の間で局地的な戦闘が継続しており、ProSAVANA-PEM事業地近辺でも武力衝突があったと伝えられている。隊員の安全管理のみならず、政治的にどのような配慮をもってプロサバンナ事業を進め、我が国の若者を青年海外協力隊員として派遣しているのか、政府の見解を具体的に示されたい。

七 プロサバンナ事業の一本目の柱であるProSAVANA-PIについても、二〇一一年四月の事業開始以来、現地農民組織や市民社会を対象とした説明会や協議は行われておらず、その不透明性に当事者から懸念が表明されてきたと理解している。本年四月に初めて「成果セミナー」への招待が一部団体に対して行われた模様であるが、同セミナーでは地元小農の大半が生産も消費もしない大豆にばかり焦点が当てられており、市民社会による聞き取り調査によれば、モザンビーク政府の技術者も同事業の大豆生産の奨励による投資促進が「小農の土地の収奪につながる」との見通しを述べたと伝えられている。政府は、この事実を承知しているのか。また、大豆生産の奨励が、現状においてナカラ回廊地域へのアグリビジネスの流入を招いている実態を踏まえ、プロサバンナ事業においてどのように地元小農を土地収奪から守るのか、具体的な方策を示されたい。

  右質問する。