質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第一四六号

独立行政法人水資源機構に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年六月十八日

吉田 忠智   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   独立行政法人水資源機構に関する質問主意書

 水資源開発促進法は、我が国の産業の開発又は発展及び「都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水の供給を確保する」(第一条)ために昭和三十六年に成立した法律である。
 国土交通大臣は第一条で規定する地域について「広域的な用水対策を緊急に実施する必要があると認める」ときに、「水資源の総合的な開発及び利用の合理化を促進する必要がある河川の水系を水資源開発水系として指定する」(第三条)。
 独立行政法人水資源機構(以下「機構」という。)は、同法に基づいて指定された水資源開発水系として指定された地域について決定された「水資源開発基本計画」を遂行する組織である。
 しかし、機構は、水資源開発公団から平成十五年に改組された際に、「水資源の開発又は利用のための施設」を新築する際は、「水の供給量を増大させないものに限る」と業務が限定された。それからさらに十年以上が経過し、経済、財政、社会、自然環境もさらに変容した中で、機構の存在意義が問われていると考えることから、以下質問する。

一 機構は「広域的な用水対策を緊急に実施する必要がある」ときに指定された水資源開発水系における基本計画に基づく事業を実施するため誕生したにもかかわらず、その業務では「水の供給量を増大させないものに限る」と限定されたことは矛盾しているのではないか。

二 「広域的な用水対策を緊急に実施する」の「緊急」とは期間で言えば、どの位の期間のことを意味するのか。

三 平成十五年の改組時から現在に至るまで継続中の未完成事業には、南摩ダム、川上ダム、丹生ダム、小石原川ダム、木曽川水系連絡導水路がある。各事業の予備調査が開始されて以来、それぞれ何年が経過しているか明らかにされたい。

四 平成二十年に国土審議会水資源開発分科会調査企画部会は、国土交通大臣に対し、総合水資源管理への転換の必要性を訴え、「総合水資源管理について(中間とりまとめ)」を答申し、「従前の水資源開発による量的な充足を優先する開発を主とする方策」から「多くの課題の解決を図る総合的なマネジメントへと施策を転換する」とした。その後、機構において、同答申をいかし、総合的なマネジメントによって、新たな水資源開発事業を中止した事例はあるか。ある場合は事業名を明らかにされたい。ない場合は開発からマネジメントへと転換できなかった理由を示されたい。

五 機構が三重県において進めている川上ダム事業では、今日までに水道の利水計画から、奈良県、西宮市が撤退、伊賀市が縮小し、三重県も発電事業から撤退したため、唯一残った利水計画は、縮小された伊賀市の水道のみである。同じ水系内での水利権の調整など総合的なマネジメントによって利水計画を中止できない理由を明らかにされたい。

六 機構は、前記五の川上ダム事業の目的として、砂のたまった他の既存のダムの長寿命化対策を挙げている。他のダムの長寿命化を行うために新しいダム建設を行うとすれば、その受益は誰が受け、負担は誰が負うのか、具体的に明らかにされたい。

七 前記六に関して、既存のダムの長寿命化対策のためのダム建設は、独立行政法人水資源機構法の第何条に基づいて行っているものか。

八 機構の現在の理事長である甲村謙友氏の最終官歴は国土交通技監であり、副理事長の岩村和平氏の最終官歴は農林水産省農村振興局付である。水資源開発公団の設立時の総裁から、機構に改組されてから現在の甲村理事長に至るまでの歴代全ての総裁及び理事長の最終官歴を明らかにされたい。また、機構(及びその前身)を退職した後に、国の事業を受注している公益法人及び民間事業へ再就職している場合は、各総裁及び理事長ごとにその公益法人名又は民間事業者名を明らかにされたい。

九 機構は河川官僚の天下り組織であり、その維持温存のために存在する組織ではないかとの批判がある。前記八の実態を明らかにした上で、その批判に対する政府の見解を明らかにされたい。

十 機構(及びその前身)が支出してダム建設費を支払い始め、完成後に受益が発生した年から自治体が利息付きで償還をする際に生じる利ざやは「利益剰余金」又は「経営基盤強化積立金」(以下「経営基盤強化積立金」という。)と称されている。経営基盤強化積立金の累積額を明らかにされたい。

十一 経営基盤強化積立金の残高は平成二十一年度末の時点で千三十三億円あるとされ、平成二十二年十月に行政刷新会議(当時)からは、国庫に返納すべきものと要請されたが、現在までに機構が国庫に返納した額を明らかにされたい。

十二 機構が平成二十五年六月に公表した「平成二十四事業年度業務実績報告書」(以下「報告書」という。)によれば、機構は経営基盤強化積立金の使途として、中期計画に「新築及び改築事業並びに管理業務等に係る負担軽減を図るなど、利水者等へのサービスの向上や機構の経営基盤の強化に資する業務とする」と記した。国庫へ返納せずにこうした使途へと変更した理由を明らかにされたい。

十三 報告書によれば、機構は、平成二十四年度だけでこの経営基盤強化積立金から約十三億千二百万円を支出したことになっている。
 その使途は多岐にわたっており、その一つが「国際会議への参加、海外の水資源に関する情報収集等」である。「国際会議への参加」及び「海外の水資源に関する情報収集」に支出した総額をそれぞれ明らかにされたい。

十四 前記十三で明らかにした「国際会議への参加」については、合計で何か国へ何人で出向き、機構としてどのような成果を得られたのか明らかにされたい。

十五 「国際会議への参加」と「海外の水資源に関する情報収集」は、中期計画で記した「利水者等へのサービスの向上」のために行ったものか、それとも「機構の経営基盤の強化に資する業務」として行ったものか。

十六 「国際会議への参加」と「海外の水資源に関する情報収集」は、独立行政法人水資源機構法の第何条に基づいて行ったものか明らかにされたい。また、「広域的な用水対策を緊急に実施する」こととの関係について明らかにされたい。

十七 機構の在り方については、国土交通省の独立行政法人評価委員会と総務省の独立行政法人評価分科会が評価を行っているが、それぞれの評価の機会に、経営基盤強化積立金の使途に関する評価を詳細に行ったことはあるか。ある場合には、「国際会議への参加」や「海外の水資源に関する情報収集」がどのようにして機構の設立目的に合致し、必要であると判断したのか、その判断基準を示されたい。

十八 報告書で明らかにされた経営基盤強化積立金の支出内容には、「ダム貯水池の堆砂対策技術に係る調査、検討等」、「施設の耐震性向上のための検討」、「緊急時における水の供給手法の検討等」、「貯水池における富栄養化対策等の水質対策技術の検討」、「ダムの設計、堤体材料に関する調査、検討」もある。これらは、国土交通省でも行っているため、納税者から見れば、二重行政である。これらは国土交通省と機構の両者で行う必要があるのか。

十九 機構に限らず、独立行政法人の評価は、第一に独立行政法人独自の評価、第二に監督官庁の独立行政法人評価委員会での評価、第三に総務省政策評価・独立行政法人評価委員会における評価と何重にも渡っているが、このようなことが毎年行われていることを知る国民も少なく、マンネリ化している。行政改革と住民参加の点から、評価制度の抜本見直しが必要だと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。