質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第一四〇号

民法第七百七十二条をめぐるいわゆる「無戸籍問題」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年六月十六日

林 久美子   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   民法第七百七十二条をめぐるいわゆる「無戸籍問題」に関する質問主意書

 民法第七百七十二条の嫡出推定の規定により、子の出生届を提出することができずに無戸籍児・無戸籍者となる例が、少なくとも年間七百二十六件(無戸籍で住民票を発行している数・平成二十五年度総務省調べ)存在していることが明らかになっている。
 また、様々な事情から調停・裁判に至らない二十歳を越えた「成人無戸籍者」が少なからず存在することも、報道等で明らかになっている。
 無戸籍児の抜本解決に向けて、政府の現状認識と同問題の解決策につき、以下質問する。

一 法務省は年間約三千人と試算したが、現状では、何人の無戸籍者がいると考えるのか、政府の見解を明らかにされたい。

二 無戸籍者のうちの多くは、調停・裁判まで行き着かず、福祉の対象からも外れている可能性が高い。そうした人々の存在を把握する調査について、どのような検討がされているのか。調査を行う場合には、いつを目途に行うのか。

三 「成人無戸籍者」の場合、当事者(母の前夫、事実上の父、母、出産時に担当した産科の医師・助産師等)が死亡等の理由で出生届を提出できないケースがある。出生届の届出義務者に本人は想定されていないが、今後本人にも拡大する予定はあるか。

四 外国籍の者との間に子どもが生まれた場合、母の離婚後三百日以内に生まれたとしても、その子は調停・裁判を経ず、とりあえず「父未定」として出生届が受理される。母が父欄の嫡出性を否定する場合、同様に「父未定」とする出生届が提出できれば、無戸籍問題は一気に改善する。「父未定」の運用を拡大することを検討する考えはあるか、政府の見解を明らかにされたい。

五 DNA等で子の生物学的父が判明する時代において、また、懐胎期間は予定日に生まれたとしても二百六十五日であることに鑑みて、前記四の三百日の日数の合理的理由を示されたい。
 生まれた子が前夫に対して認知請求が出来ることは変わりがないことを前提とし、離婚届の中に、今後生まれる子の嫡出推定を外す欄を設けることを検討するべきと考えるが、いかがか。

六 離婚後懐胎について、医師の証明書の添付で調停・裁判を経ずして出生届を提出した件数は二〇〇七年から二〇一四年三月末までで二千二百十五件である。おおよその裁判コストを計算し、どれ程の裁判コストが削減されたのか、明らかにされたい。

七 父母が誰かが分かっていながらも「就籍」にて戸籍が作成されたケースがある。どのようなケースがあるのか、示されたい。

八 成人無戸籍者の中には出生証明書を紛失し、母の分娩の事実が証明されないため、母子関係存在確認もしくは母の認知をしなければ、そもそも父子関係の調停・裁判を行うことができないケースも多い。現行の認知届は父の記載欄しかないが、母の認知をする場合の要件を明らかにされたい。
 調停・認知にはコストがかかる。成人無戸籍者とその親たちは何度も行政に掛け合い、裁判所にも行き相談を行っているものが多いが、結果的に戸籍は作成できないケースが多い。その理由の一つには経済的なものがあり、母親の経済力では調停・裁判を起こせないケースが多い。なぜなら、裁判のためには最低裁判所に三回は足を運ばねばならず、弁護士費用なども含めると数十万円、相手が非協力的で長引けばそれ以上かかることもあるからである。この負担に直面し、母親が裁判を諦め、子どもの無戸籍状態が長引いてしまうケースが少なくない。法テラス等の公的支援制度はあるものの、無戸籍者にとってはハードルが高く、利用するのは現実的に無理な状態である。
 公的資金で裁判のサポートを行うための「無戸籍児支援ファンド」のようなものを設置し、戸籍取得を促す考えはあるか、政府の見解を明らかにされたい。学齢簿に掲載されている無戸籍児の数と、そうした無戸籍児について行政としてどのような対応をしているのか、親に対し戸籍取得を促しているか、また、裁判手続の支援などを行っているかも含め明らかにされたい。

九 無戸籍のままで婚姻をした者の人数を示されたい。また、無戸籍者の望む姓(推定を受ける姓ではない)を名乗ることについて、可能か否か明らかにされたい。可能な場合には、どのような方法があるのか。

  右質問する。