質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第九〇号

原子力発電所の安全審査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年五月一日

福島 みずほ   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   原子力発電所の安全審査に関する質問主意書

 二〇一一年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震とその後に来襲した津波により、東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「福島第一原発事故」という。)が発生し、現在まで甚大な被害を与え続けている。二〇一四年三月十三日現在、復興庁が公表している福島県の避難者数は十三万千九百四人(県内避難者八万四千二百二十一人、県外避難者四万七千六百八十三人)となっている。
 国及び電力会社は、福島第一原発事故以前は、三重の多重防護によって、原子力発電所(以下「原発」という。)の安全性は絶対に確保されていると説明し、宣伝していた。すなわち、①異常の発生防止、②異常の拡大及び事故への発展の防止、③周辺環境への放射性物質の放出防止と説明されてきた。原発は、止める、冷やす、閉じ込めるの機能で安全が保たれており、閉じ込める機能については、燃料ペレット、燃料被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器、原子炉建屋の五重の壁で放射性物質が閉じ込められているので、放射性物質が外部に多量に放出されることは絶対にないとも説明されていた。福島第一原発事故は、これらの説明が当てはまらない事故が原発において発生することを明らかにし、これまでの国及び電力会社の説明は、原発の安全神話であると強く批判された。国もこれらの説明が安全神話であったことを認めた。万が一にも起きてはならない福島第一原発事故が起きたということは、旧安全指針類に欠陥があったか、旧安全指針類に適合するとした審査に誤りがあったからである。
 そして、この欠陥及び審査の誤りは、福島第一原発に限定的なものではなく、広く全国の原発に適用された旧安全指針類の欠陥及び審査の誤りであり、全国の原発の設置許可処分は違法な状態にあると考える。福島第一原発事故後の二〇一二年九月、新たに規制機関として原子力規制委員会が設置され、同委員会によって実用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(平成二十五年六月二十八日原子力規制委員会規則第五号)等(以下「新規制基準」という。)がごく短期間で策定されて二〇一三年七月八日に施行された。
 福島第一原発事故を踏まえて基準を策定するのであれば、福島第一原発事故の原因が明らかになっていることが必要であるが、いまだ全貌は明確になっていない。国は、福島第一原発事故の原因として津波だけを強調し、地震による損傷を考えようとしないが、外部電源は明らかに地震により喪失しており、非常用電源喪失についても津波だけではなく、地震もその原因の一つと考えられること、冷却材喪失や水素漏えいの原因として地震による配管の損傷が考えられることとする有力な見解が存在する(「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会報告書」東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)二〇一二年六月二十八日。「福島原発一号機の全交流電源喪失は津波によるものではない」伊東良徳・岩波書店「科学」二〇一三年九月号、「福島第一原発一号機原子炉建屋四階の激しい損壊は何を意味するのか-改めて、地震動によるIC系配管破損の可能性を問う」田中三彦・岩波書店「科学」二〇一三年九月号)。福島第一原発事故の原因がいまだ明確ではないのであるから、現時点における基準の策定はそれだけで安全確保として不十分とならざるを得ない。しかしながら、次に述べるとおり、新規制基準でも、旧安全指針類の不備、欠陥は是正されておらず、新規制基準では安全性は確保されない。
 原発の設置許可処分の有効性について争われた伊方発電所原子炉設置許可処分取消訴訟(最高裁判所第一小法廷平成四年(一九九二年)十月二十九日判決(以下「伊方最高裁判決」という。)、民集四六巻七号一一七四頁)では、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和五二年法律第八〇号による改正前のもの。)第二十四条第一項について、「原子炉設置許可の基準として、右のように定められた趣旨は、原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力並びに申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき、科学的、専門技術的見地から、十分な審査を行わせることにあるものと解される」と判示している。
 この判決によって、原発の重大事故は万が一にも起こしてはならないものであり、審査の目的は、安全性の確保のために行われるものであることが確認されている。裁判所の具体的な判断は誤り続けてきたが、原発の重大事故は万が一にも起こしてはならないものであり、審査の目的は、安全性の確保のために行われるものであるという伊方最高裁判決の考え方は、重大事故による住民への生命健康に対する被害を未然に防止するため、今後も堅持されるべきものであると考える。
 一方で、原子力規制委員会の田中俊一委員長は、二〇一四年三月二十六日の記者会見において、記者から、「先程も質問の中でもあったのですけれども、基本的に原発の安全性については規制委員会で判断して、安全と認定されたら再稼働するというような文言を最近でも見聞きするのですけれども、規制委員会の審査というのが、基本的には基準への適合性を見ているわけで、安全そのものを認定するということではないというか、安全だと認める、認めないという話なのでしたか。確認ですけれども。」と問われ、「あなたの理解で結構です。新しい規制基準、現行の規制基準に適合しているかどうかだけを判断しているのであって、絶対安全という意味で安全ということを言われるのでしたら、私どもは否定しています。」と発言している。
 伊方最高裁判決は、原発に係る審査について「(原子力)災害が万が一にも起こらないようにするため」としているが、田中委員長の発言は、審査は絶対安全を確認するものではないとしており、互いに矛盾しているようにも見受けられる。よって、以下質問する。

一 原子力規制委員会は、原発に係る審査についての伊方最高裁判決の考え方を踏襲するのか、踏襲しないのか。

二 前記一に関して、踏襲する場合には、伊方最高裁判決と田中委員長の発言の関係について、明らかにされたい。

三 前記一に関して、踏襲しない場合には、踏襲しないでよいとする理由を明らかにされたい。

四 審査によって安全が確保されるものではないとすれば、原発は安全が確認されなければ運転は認められないと考えているか。

五 審査によって安全性が確保されるものではない場合には、審査によって許可がなされても、原発の運転は認められるべきではないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

六 審査によって安全性が確保されるものではない場合には、原発の安全性は誰が、あるいはどの機関が最終的に判断するのか。

  右質問する。