質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第五九号

原発再稼働に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年四月三日

山本 太郎   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   原発再稼働に関する質問主意書

 現在、日本における原子力発電所及び六ヶ所再処理工場に対しては、原子力規制委員会が実用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則(平成二十五年六月二十八日原子力規制委員会規則第五号)等(以下「新規制基準」という。)に係る適合性審査を行っている。その中の複数の原子力発電所については、今年中に再稼働が認められるかのような報道もなされている。しかし、原子力発電所を抱える自治体の住民の間には、「再稼働はとんでもなく危険なことである」との批判と不安が日々高まっており、彼らの生命と生活を脅かされる現状を、このまま一日たりとも放置することはできないので、三月二十四日、緊急に、私と原子力発電所を有する十三の道県の住民代理人の議員のグループ「原発立地自治体住民連合」百四十七人は共同で質問状を発表した。
 我々は、原発の再稼働に「賛同する」、あるいは「反対する」、あるいは「判断を保留する」、といういずれの意見を持った住民にとっても共通の願いである「原子力発電所の百パーセント無事故の保証」を求めるという目的を有しており、以下の質問の内容に対し政府が回答するよう求めている。東京電力福島第一原子力発電所事故(以下「福島第一原発事故」という。)の被災地である福島県大熊町では、現在も住宅街の中心で、毎時三百マイクロシーベルトを超える空間線量が測定されている。この数値は、三年同地に居住すれば、致死量の七シーベルトを超えることになるほどの値である。右の点を踏まえ、以下質問する。

一 現実に進行している放射能の危険性に鑑みて、安倍晋三内閣は、二〇一三年十二月二十日に、自宅に帰還できない避難住民に対して、避難先等での定住も積極的に支援する方針を閣議決定した。この事実は、一旦、原子力発電所事故(以下「原発事故」という。)が発生すれば、その時にたとえ住民が避難できたとしても、事実上は、自宅に帰還できないことを実証している。原発事故は、原子力発電所立地自治体(以下「原発立地自治体」という。)の住民にとって、それまでの郷里における生活基盤の全てを失い、突然に一生を棒に振ることにつながるものである。したがって、原発事故は百パーセント発生しないことが保証されなければ、原子力発電所の再稼働をしてはならない。
 ところが、今年一月二十日に行われた院内集会で、「新規制基準を満たした原発でも事故は起こるか」との質問に対して、原子力規制庁は「新規制基準を満たした原発でも事故は起こります。この基準は最低のもので、あとは事業者の責任です」と答えた。事故を起こす原子力発電所が、世界最高の安全基準であるとは、誰にも理解できない。
 いかなる科学的根拠をもって、原発事故は百パーセント発生しないということを原発立地自治体の住民に保証するのか、政府の見解を明らかにされたい。保証できない場合には、原子力規制庁の発言のように保証できないまま原子力発電所を再稼働するつもりなのか、併せて明らかにされたい。

二 現在、再稼働申請がなされた原子力発電所について、新規制基準の適合性の審査が行われているが、原子力規制委員会は、大事故発生時におけるベント(放射能放出)設備の設置を義務付け、大事故発生時における住民の避難の可能性の検討を進めている。つまり、前記一で述べたとおり、原発立地自治体の住民にとって百パーセント絶対にあってはならない大事故を明確に「発生すると予想して」審査していること自体が許されないことである。この大事故発生の根拠として考えられる最大の要因は、耐震性の欠如である。
 兵庫県南部地震(一九九五年一月十七日に発生した阪神・淡路大震災、マグニチュード七・三)の発生後、電力会社は「原子力発電所は直下型地震ではマグニチュード六・五まで耐えられるように設計している」と説明し、六ヶ所再処理工場でも、「直下型地震ではマグニチュード六・五まで耐えられる」として、「安全である」と主張してきた。これは驚くべきことだが、マグニチュード六・五とは、通常の地震であって、大地震ではない。したがって、この数字で充分な耐震性があると考える住民はいない。その点を追及すると、余裕率があると言って、明確な数字を答えないまま、二〇〇六年九月十九日に「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」等の耐震安全性に係る安全審査指針類(以下「耐震指針」という。)を改訂して、直下型地震に対する耐震性そのものの文言さえ消されてしまった。耐震指針との関係さえ説明されていない現在の新規制基準において、一体、どの程度の直下型地震に耐えられる設計を電力会社に求めているのか、個々の原子力発電所ごとに異なる場合には、現存する原子力発電所(とりわけ再稼働申請中の原子力発電所)及び建設途中にある全ての原子力発電所について、直下型地震発生時に耐えることのできるマグニチュードの最大値を明確に示されたい。

三 耐震指針に適合するかどうかのバックチェックを義務付けられた原子力発電所が、まともにチェックされないままであったところ、二〇〇七年七月十六日に発生した新潟県中越沖地震(マグニチュード六・八)によって柏崎刈羽原子力発電所が大きな被害を受け、耐震指針に重大な欠陥のあったことが露顕したことから、全国の原子力発電所の耐震性見直しが行われてきた。しかし、その途上の二〇一一年三月十一日に東京電力福島第一原子力発電所が、ついに大事故を起こしてしまった。その結果、原子力安全・保安院と原子力安全委員会に代わって、二〇一二年九月十九日に原子力規制委員会が発足し、二〇一三年七月八日に新規制基準が施行された。ところが、事業者である電力会社が提出した再稼働申請資料について、同基準に対する適合性の審査を行っているのは、驚くべきことに原子力規制委員会の傘下に入ったJNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)のメンバーであり、JNESもまた福島第一原発事故を起こした当事者(責任者)である。このように事故当事者が行う審査結果について、第三者によるクロスチェックがないままの再稼働は、絶対に認めることができない。クロスチェックをする組織が必要不可欠であると考えるが、いつまでに設立するのか、政府の見解を明らかにされたい。

四 原子力規制委員会が行っている再稼働に向けた耐震性の審査では、原子力発電所の敷地内に「活断層があるか、ないか」という調査や検討のみをもって、その原子力発電所の立地の適性を判断している。しかし、ほんの六年前の二〇〇八年六月十四日に岩手・宮城内陸地震(マグニチュード七・二)が発生した際には、震源断層の真上において、揺れの最大加速度四千二十二ガルという驚異的な数値が観測された。この数値は地表最大加速度の世界記録としてギネスに認定された。ところが、この震源断層は当該地震発生前には全く知られていなかった。つまり、活断層がない場所で、世界一の揺れを記録したのである。
 この事実は、日本全国のどのような場所においても、直下型の大地震が発生し得ることを意味し、前記二で尋ねたマグニチュードの数値であっても原子力発電所の大事故が起こり得ることを新たに実証している。これでも、前記一で尋ねたとおり、原発事故は百パーセント発生しないということを原発立地自治体の住民に保証できるのか、政府の見解を明らかにされたい。
 さらに、現在、九州電力株式会社の川内原子力発電所(以下「川内原発」という。)が再稼働候補のトップに挙げられ、川内原発の再稼働が容認されることが既定の事実であるかのように一方的な報道がなされていることは、信じがたい。川内原発の場合は、二〇〇九年以来、桜島の噴火が続き、毎年千回を超える異常噴火が止まらない状況にある。大量の火山灰が送電線に降り積もっただけで、川内原発の外部電源は、完全に送電不能となる。加えて、そうした事態に備えた非常用ディーゼル発電機は、フィルターに火山灰が詰まることで、発電不能になる。その結果、東京電力福島第一原子力発電所と同じ恐怖のステーション・ブラックアウト(全交流電源喪失)が発生することが分かっている。火山灰よりもっと恐ろしいのは、火砕流である。桜島の姶良(あいら)カルデラは、二万九千年前に巨大噴火を起こし、東京ドーム三十六万個分という驚異的な火砕流が噴出して、南九州全域を壊滅させている。川内原発近くでは、数メートルから十メートル以上の火砕流堆積物が見つかっているので、高さ数十メートルの火砕流が襲ったと推定されている。ところが、原子力規制委員会は、十二万年以内に動いた活断層を問題にしながら、一万年単位の火山活動を無視している。
 火山学者が一様に、川内原発は最も危ないと警告しているにもかかわらず、原子力規制委員会は、たった一回の会合で「周辺の火山が噴火しても、原子力発電所に影響はない」とする九州電力のいい加減な報告を了承する始末である。一体、どのような科学的根拠をもって、川内原発について火山灰と火砕流の危険性がないと判断しているのか、政府としての責任ある根拠を示されたい。

五 原子力発電所を再稼働することは、使用済み核燃料を新たに原子炉内に生産することを意味する。運転中に生ずるこの使用済み核燃料には、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムを始めとする膨大な放射性物質が含まれる。日本の原子力政策では、この危険な使用済み核燃料を再処理して、プルトニウム、ウランから、セシウム、ストロンチウムなどの高レベル放射性廃棄物を分離して、ガラス固化体とした後、それを最終処分場に搬入して、地下三百メートルより深い地層に処分することにしている。しかし、この最終処分場が四十七都道府県のどこに設置されるのか決定していない。現在まで使用済み核燃料及び高レベル放射性廃棄物を受け入れてきた青森県も、「我が県は最終処分場ではない」と明言している。このことから、今後新たに原子力発電所を再稼働する際には、このセシウム、ストロンチウムなどの高レベル放射性廃棄物の搬入先が、存在しない状況にある。再稼働を例えて言えば、着陸する飛行場がないまま、飛行場を離陸する飛行機のようなものである。二〇一四年現在、既に原子力発電所を有する全国十三の道県の原子力発電所及び六ヶ所再処理工場の敷地内には、大量の使用済み核燃料が貯蔵されており、事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所四号機と同じように、今もって大地震や大津波の脅威にさらされている。原子力発電所再稼働によって更に大量の高温度の使用済み核燃料が発生すれば、これら十三の道県にますます危険物が累積し、原発立地自治体の住民への危険性が高まるだけである。高レベル放射性廃棄物の最終処分場を決定せずに、使用済み核燃料の危険性を高める原子力発電所再稼働は、絶対に許されない事態を迎えている。政府は、大量発生する行方の決まらない使用済み核燃料及び高レベル放射性廃棄物の最終処分場の地名を示さずに、なぜ原子力発電所の再稼働を認めるのか、その理由を明確に示されたい。

六 日本政府は、「原子力発電所は重要なベースロード電源である」と位置付けようとしているが、既に二〇一三年九月十五日に福井県の大飯原子力発電所が運転を停止し、日本全国で原発ゼロ状態になってから、電力不足は全く起こっていない。今後も、コジェネ技術を含めたエネルギー効率の向上と、その他の電源の利用普及によって、ますますこの電力余裕率が高まることはあっても、下がることは決してない。このことは、日本社会の動きによって明白に実証されている。それでもなお政府が、不要と思われる原子力発電所の再稼働を推進する目的は、電力会社の経営悪化の防止にあることは明白である。
 この電力会社の経営悪化の要因は、火力発電の燃料費増加にあると報道されてきたが、事実は異なる。火力発電の燃料費増加分は、原子力発電所フル稼働時の二〇一〇年度と比較して二〇一三年度(二〇一四年三月までの推定)は三兆六千億円増との試算を資源エネルギー庁が出しているが、二〇一一年と比較した二〇一三年の原油価格・天然ガス価格の上昇分を引いて計算すれば、二兆八千七百億円である。さらに、為替レートにおける円安の影響は、三千六百億円であるから、それを計算に入れると、二兆五千億円となる。
 これに対して、原子力発電所再稼働に向けた二〇一二年度の原子力発電所維持・管理費は九電力会社合計が一兆二千億円で、新規制基準で求められている防潮堤建設など膨大な安全対策費が一兆六千億円を超え、合計二兆八千億円に達する。
 燃料費増加分二兆五千億円より、原子力発電所経費二兆八千億円のほうが高額であることは、誰が見ても明白である。ほとんど未着工である安全対策が今後必至となる状況では、その経費が激増するのであるから、電力を一ワットも生んでいない原子力発電所の方がはるかに高額の出費となる。
 加えて今後は、火力発電の最大の燃料費上昇要因となってきた旧式発電所のリプレースが大量に実施されることで大幅なコスト削減が行われ、三年後の二〇一七年からはアメリカから安価なシェールガスの輸入が始まる。
 それとは別に、福島第一原発事故の後始末(汚染水処理・除染・廃炉・賠償)に必要な金額は、政府の楽観的なシナリオでさえ十一兆円を超えるとされ、独立行政法人産業技術総合研究所及び公益社団法人日本経済研究センターの試算では、日本の一年間の税収をはるかに超える五十四兆円に達すると見られる。それらが全て税金又は電気料金という国民負担によって賄われることは必至である。火力発電の燃料費増加とは桁違いの出費こそが、国民にとって最大の問題である。政府が保証したいのは、電力会社の経営なのか、それとも国民の安全な生活・生命なのか、明確に示されたい。

七 福島第一原発事故では、一号機の爆発の後、続いて三号機、さらに二号機、四号機と四基の連続爆発を食い止めることができず、福島県を始めとする東日本の広大な地域に悲惨な放射能汚染の結果を招き、日本の原子力産業が全世界に例のないほど未熟な技術しか持たないことが明白になった。更に深刻なことに、今もって福島第一原発事故現場における大量の高濃度放射能汚染水の海洋流出を食い止めることができずに、汚染を拡大し続けている。最大の問題は、この事故を誘発した最初の原因として、地震の揺れによる配管などの破損による可能性が東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(以下「国会事故調」という。)の報告書で鋭く指摘されているにもかかわらず、津波による全電源喪失だけであると決めてかかり、多くの技術者から、再稼働の結論を導く前に、福島第一原発における事故原因の究明がなされなければならないと強い批判を受けていることにある。地震の揺れが真の原因であった場合には、日本全国全ての原子力発電所が地震に耐えられない、したがって再稼働は危険すぎて不可能になるという理由で、政府が津波原因説を主張していることは明白である。原発立地自治体住民にとって、事故の真因の追究・解明は、当然の「必須の要求」である。なぜ福島第一原発事故の原因が、津波による全電源喪失だけであると断じて、国会事故調の報告書を否定しているのか、その科学的根拠とともに政府の見解を明らかにされたい。また、東京電力株式会社が全データを公開せずに事故の真因を証明していない理由について、政府の承知するところを示されたい。
 その一方で、なお、政府がこの危険な原子力発電の技術を海外に輸出しようとしていることは、信じがたい状況である。原子力発電の技術の輸出は、一説に原子力発電の技術を維持するためとも言われている。
 しかし、今後の日本に原子力発電所が不要と判断される現在、原発立地自治体に必要な技術は、原子力発電所の廃炉・解体の技術である。原子力発電所建設を目指す原子力発電の技術の輸出は、その廃炉技術の向上には全く役立たない。一体、何のための輸出であるのか、原子炉メーカーや鉄鋼業界の要求のためであるのか、その目的について、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。