質問主意書

第186回国会(常会)

質問主意書


質問第二四号

安倍総理の憲法に対する認識に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十六年二月二十四日

蓮舫   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   安倍総理の憲法に対する認識に関する質問主意書

 昨今の国会審議における、安倍晋三内閣総理大臣の答弁は、憲法や立憲主義について、一般的な理解と乖離があるように思われる。そこで、安倍総理の憲法に対する基本的な認識を確認するため、以下質問する。

一 安倍総理は、平成二十六年二月十二日の衆議院予算委員会において、「先ほど来、法制局長官の答弁を求めていますが、最高の責任者は私です。私が責任者であって、政府の答弁に対しても私が責任を持って、その上において、私たちは選挙で国民から審判を受けるんですよ。審判を受けるのは、法制局長官ではないんです、私なんですよ。」と、憲法解釈の最高責任者は総理である旨を答弁した。
 この答弁は、選挙で多数を得たら憲法解釈を自由に変更できると受け止められるものだが、憲法規範の特質は国家権力の制限であり、国家権力は憲法によって拘束される側である。そのような国家権力側が意図的に憲法解釈を変更することは許されないものであり、ひいては立憲主義を根底から破壊するものになるものと考えるが、安倍総理の見解如何。

二 政府はこれまでも、政府の憲法解釈は「論理的な追求の結果として示されてきたもの」であることを答弁してきている。一方、前記一の答弁は、選挙で与党が勝利することによって国民からお墨付きさえ得られれば、論理的な限界を超えて、いかなる憲法解釈の変更も行えると受け止められるものだが、安倍総理はそのように理解しているのか。そう理解している場合には、本来、憲法改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成と国民投票における過半数の賛成が必要なところ、それと同様の効果を、政府による憲法解釈の変更とその後の選挙における与党の勝利によって得られることになりかねない。これでは、本来の憲法改正手続によらずに実質的な憲法改正が行われてしまうことにならないか、政府の見解を明らかにされたい。

三 選挙で多数を得たら憲法解釈を自由に変更できるならば、内閣が交代するたびに憲法解釈が変更され、憲法秩序が不安定になってしまわないか、安倍総理の見解如何。

四 内閣には補助部局として内閣法制局が設けられているが、憲法解釈の最高責任者は総理であり、その総理が憲法解釈を変更するとなると、内閣法制局による法制的な補佐は必ずしも必要ではないことにもつながるが、そのように認識しているのか。内閣法制局設置法上、内閣法制局は、法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること等を所掌事務としているが、政府の憲法解釈における内閣法制局の役割をどのように考えているか、政府の見解を明らかにされたい。

五 安倍総理は、平成二十六年二月五日の参議院予算委員会において、「そもそも憲法には個別的自衛権や集団的自衛権についての明文の規定はない」、「集団的自衛権の行使が認められるという判断も政府が適切な形で新しい解釈を明らかにすることによって可能」であると答弁した。
 しかし、前記二で指摘したとおり、政府の憲法解釈は「論理的な追求」の結果として示されたものであり、政府が「新しい解釈を明らかにする」ことにより憲法解釈の変更を行うということは、論理的な追求の結果として積み重ねられたこれまでの憲法解釈は間違っていたということを意味するのではないか、安倍総理の見解如何。

六 平成二十六年二月十二日の衆議院予算委員会において、横畠裕介内閣法制次長は、政府の憲法解釈の変更について、一般論として平成十六年六月十八日衆議院議員島聡君提出政府の憲法解釈変更に関する質問に対する答弁書(内閣衆質一五九第一一四号。以下「答弁書」という。)を引用しつつ、集団的自衛権の問題についても「一般論の射程内」である旨を答弁した。
 しかし、集団的自衛権については、昭和五十八年二月二十二日の衆議院予算委員会において、「仮に、集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考え方があり、それを明確にしたいということであれば、憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」との答弁もある。
 政府の憲法解釈は「論理的な追求」の結果示されたものであることを考えると、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更は、前述の「一般論の射程内」には入らないのではないかと考えられるが、安倍総理の見解如何。

七 政府はかつて、答弁書において、「仮に、政府において、憲法解釈を便宜的、意図的に変更するようなことをするとすれば、政府の憲法解釈ひいては憲法規範そのものに対する国民の信頼が損なわれかねないと考えられる」と答弁している。民主党政権下でも、平成二十二年三月十六日の参議院内閣委員会において、枝野幸男国務大臣は「政権が替わったからといって憲法の解釈を恣意的に変更するということは私はあってはいけないことだと、許されないことだ」と答弁したところである。
 しかるに、安倍総理は平成二十六年二月三日の衆議院予算委員会において、「憲法について、考え方の一つとして、いわば国家権力を縛るものだという考え方はありますが、しかし、それはかつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方であって、今まさに憲法というのは、日本という国の形、そして理想と未来を語るものではないか」と答弁したが、このような安倍総理の憲法及び立憲主義に対する認識は、前記一及び五の二つの答弁にも通底するものと考えられるものである。そのような認識の下で憲法解釈を変更しようというのは、その重大性、危険性に対する認識を欠くものであり、ひいては、憲法解釈を「便宜的、意図的」に変更することにもつながるのではないか、安倍総理の見解如何。

  右質問する。