質問主意書

第185回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一三号

高血圧症治療薬バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験の不正疑惑の真相究明に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年十月十八日

川田 龍平   


       参議院議長 山崎 正昭 殿



   高血圧症治療薬バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験の不正疑惑の真相究明に関する質問主意書

 高血圧症治療薬バルサルタン(商品名ディオバン)に関する医師主導臨床研究の論文において不正が疑われる事件について、既に平成二十五年五月二十八日に厚生労働委員会で質問を行ったところであるが、八月に厚生労働省は「高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」(以下「検討委員会」という。)を設置し、関係者からヒアリングを行って、十月八日に「高血圧症治療薬の臨床研究事案を踏まえた対応及び再発防止策について(中間とりまとめ)」を公表した。これを踏まえ真相究明について以下、質問するので、項目ごとに答弁されたい。

一 検討委員会においては、現物資料の提出を求めることもなく、単に関係者からのヒアリングから事実の経緯を記述し、防止策を取りまとめているが、関係者が虚偽証言を行った可能性を否定できないのではないか。

二 関係者の証言が矛盾している点について、厚生労働省はこのまま放置するつもりか。

三 本件は臨床研究における不正の「氷山の一角」であって、データ捏造が各方面で頻繁に行われているのではないかという疑念が、国民に広がっている。立入り調査権限などのない外部有識者の検討委員会の中間とりまとめでお茶を濁すのではなく、厚生労働省ほか管轄当局が調査権限を駆使して真相究明に当たるべきと考えるが、いかがか。

四 中間とりまとめによれば、京都府立医科大学の研究者は、「主要論文やサブ論文含め、全ての図表に関しては、元社員から提供を受けて論文の作成を行った。事務局の医局員は最近まで最終論文の解析データセットを持っていなかった。当該医局員から元社員に出してくれと言ってもなかなか出してもらえなかったと聞いている。」と述べている。一方、ノバルティスファーマ株式会社(以下「ノバルティス社」という。)の元社員(以下「元社員」という。)は、「東京慈恵会医科大学、京都府立医科大学における最終解析データの作成」について、「副本として納められたCD-Rを用い、研究者からの依頼に応じて論文作成用に解析を行った。」と述べ、このCD-R副本は「返却している」と述べている。このように両者の証言には明白な食い違いがあり、京都府立医科大側には、元社員から提供された図表と、最近になって元社員から受け取った最終論文の解析データセットを提出させ、その経緯を記述させ、元社員に対しては大学から提供されたCD-Rの様式や形状、大学から収められた形態等を記述させ、照合することによって、どちらが虚偽の証言をしているかを明らかにすることができるはずである。しかも、本来このような検証は検討委員会というような場所ではなく、責任ある当局が虚偽証言を許さない状況で、現物を提出させ、または、差押えにより行わない限り、不可能である。こうした証言の食い違いに対する検証は中間とりまとめを受けて、証拠の隠滅等が行われないうちに、厚生労働省が可及的速やかに行うべきであると考えるが、いかがか。

五 元社員は、「東京慈恵会医科大学では、私が終了時点で作成し研究者に示したカプランマイヤー曲線とは計算方法の違うものが論文になっていたことなどから、私以外に研究者を含めた解析施行者が存在する。」と述べている。そうであるならば、元社員に、「研究者に示したカプランマイヤー曲線」を提出させ、改ざんが行われる前の「大学保有データ」と比較することによって、元社員の証言を検証できると考えるが、いかがか。

六 元社員は、パソコンは頻繁に買い換えているためメール記録は残っていない旨述べているが、自ら解析を行ったデータ全てを抹消してしまったとは述べていない。Jikei Heart Studyの成果が二〇〇七年四月に発表された後、二〇一二年四月に京都大学の由井芳樹氏の懸念がLancet誌に掲載されるまでの間に、国内で同成果に関して議論されていたはずであり、ノバルティス社がプロモーションに活用しようとしたデータの根拠となる解析データを保管していなかったと元社員が主張するのであれば、そのこと自体が証言の虚偽性を疑わせることになるのではないか。

七 本件以外にも、複数の臨床研究について倫理指針違反や科学的不正の事例、治験におけるデータ操作の事例が報道されているが、検討委員会では、これら社会問題化された事例について触れることなく、新たに臨床研究実施機関に対して自主点検による問題事例を報告させ、これに対し何ら具体的な対策を示さずに終わっている。個々の事例の検証を行うことなく、臨床研究の法制化や倫理審査委員会の強化に向けた政策を議論しても、実効性のないものとなるおそれがあると考えるが、いかがか。

八 欧米諸国では、問題のあった事例についてはその事例の実質について政府が設置する委員会等で十分に検討し報告書を作成した上で新たな制度設計を行っていることも踏まえ、今回自主点検で提示された事例、臨床研究の指針違反及び科学的不正に関する報道事例について、政府は事実を調査し、検証を行うべきと考えるが、いかがか。

九 今後、治験ではなく臨床研究のデータを承認申請や効能拡大に活用しようとする動きが懸念されるため、日本の研究者が主導した医薬品の大規模臨床試験としてこれまでに英文誌に発表された論文を検証するべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。