質問主意書

第183回国会(常会)

答弁書


答弁書第一四七号

内閣参質一八三第一四七号
  平成二十五年七月二日
内閣総理大臣 安 倍 晋 三   


       参議院議長 平 田 健 二 殿

参議院議員川田龍平君提出石綿健康被害者の救済に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員川田龍平君提出石綿健康被害者の救済に関する質問に対する答弁書

一について

 「Asbestos,asbestosis,and cancer:the Helsinki criteria for diagnosis and attribution.Scand J Work Environ Health.1997;23:311-6」に示された石綿へのばく露により発症する疾患(以下「石綿関連疾患」という。)に係る見解については、様々な医学的知見の一つであると認識しているが、お尋ねの「信頼性」の意味するところが必ずしも明らかでなく、お尋ねについてお答えすることは困難である。
 また、御指摘の認定基準は、医学等の専門家からなる厚生労働省の「石綿による疾病の認定基準に関する検討会」が当該見解を含む最新の医学的知見等を基に、平成二十四年二月に取りまとめた報告書等を踏まえ、定めたものである。

二及び三について

 お尋ねの件数については、いずれも集計を行っておらず、お答えすることは困難である。

四について

 石綿へのばく露に係る事実関係については、労働基準監督署において、本人からの職業歴の申立てを基に、事業主の証明、同僚等の証言その他のばく露に係る情報等を総合的に勘案した上で、判断している。

五について

 労働者災害補償保険制度(以下「労災制度」という。)は、労働者の業務上の負傷、疾病等に関する使用者の災害補償責任を担保するための保険制度であり、労働者に発症した石綿関連疾患が業務上の疾病であると認定するためには、石綿へのばく露を伴う作業の従事歴を確認する必要がある。
 一方、石綿健康被害救済制度(以下「救済制度」という。)は、個々の原因者の特定が困難である等の石綿による健康被害(以下「石綿健康被害」という。)の特殊性に着目し、民事上の賠償責任とは離れて社会全体で石綿健康被害を受けた者(以下「石綿健康被害者」という。)等の迅速な救済を図ることを目的として、石綿健康被害を受けたが労災制度による補償を受けられない者を対象に、石綿へのばく露歴(以下「ばく露歴」という。)を厳密に確認することなく、画像所見や石綿小体・繊維数等の所見等に基づく医学的判定を経て、石綿健康被害に係る認定を行い、救済措置を講じている。御指摘の「作業従事歴十年以上の胸膜プラーク」については、労災制度における石綿による肺がんの認定に係る基準の一つを指すものと考えられるが、救済制度については、労災制度による補償を受けられない石綿健康被害者を対象としており、当該者のばく露歴については、使用者や同僚等の第三者による文書等の客観的な資料により裏付けることが困難であることから、当該者の十年以上前のばく露歴を確認するために必要な予算・人員について、一概にお答えすることは困難である。
 なお、独立行政法人環境再生保全機構では、現在、救済制度において、石綿健康被害に係る認定の参考として、石綿健康被害のうち著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺及び著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚(以下「石綿肺等」という。)に係る申請については、申請に係る者のばく露歴を確認しているところ、平成二十四年三月から平成二十五年二月までの一年間に審査された石綿肺等の事案については、認定された二十四件のうち、ばく露歴に関して第三者による証明書が提出されたものは一件もなく、いずれも自己申告等の客観性に乏しい情報しか提供されなかったものと承知している。
 また、御指摘の「等」に含まれるものを全てお示しすることは困難であるが、例えば、石綿による肺がんは石綿へのばく露から発症までの潜伏期間が三十年から四十年と非常に長期にわたること、石綿は建築物や自動車など極めて広範な分野で利用されてきていることが挙げられ、このような石綿健康被害の特殊性から、ばく露歴と個別の健康被害に係る因果関係を立証することは極めて困難であると考える。

六について

 御指摘の意見等は、今後の石綿健康被害対策の進め方について幅広く寄せられたものであると承知しており、必要に応じて参考にしてまいりたい。

七について

 石綿繊維計測体制整備事業については、石綿による肺がんの認定に係る申請において、本来は画像所見等だけでは不認定となる事案であって、認定するためには肺内石綿繊維数の計測が必要であると判断された事案について、幅広く救済する観点から、申請者が希望する場合に、これを漏れなく実施することとしており、「審査側があたかも率先して救済の間口を閉ざす選択肢を提示する」との御指摘は当たらない。