質問主意書

第183回国会(常会)

答弁書


答弁書第一三九号

内閣参質一八三第一三九号
  平成二十五年七月二日
内閣総理大臣 安 倍 晋 三   


       参議院議長 平 田 健 二 殿

参議院議員川田龍平君提出環境基本法に基づく厳正な「放射性物質による環境汚染防止のための措置」と関連個別法の整備に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員川田龍平君提出環境基本法に基づく厳正な「放射性物質による環境汚染防止のための措置」と関連個別法の整備に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の「汚染の防止の措置」としては、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。以下「原子炉等規制法」という。)に基づく製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する規制並びに放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和三十二年法律第百六十七号)に基づく放射性同位元素の使用、販売、賃貸、廃棄その他の取扱い、放射線発生装置の使用及び放射性同位元素又は放射線発生装置から発生した放射線によって汚染された物の廃棄その他の取扱いに関する規制等のほか、大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)に基づく放射性物質による大気汚染の状況の監視、水質汚濁防止法(昭和四十五年法律第百三十八号)に基づく放射性物質による公共用水域等の水質汚濁の状況の監視、環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)に基づく放射性物質による大気汚染等に係る環境影響評価の制度の整備等が挙げられる。このうち、大気汚染防止法に基づく放射性物質による大気汚染の状況の監視及び水質汚濁防止法に基づく放射性物質による公共用水域等の水質汚濁の状況の監視については、平成二十五年度中に実施する予定である。
 また、放射性物質に係る環境基準については、従来の環境汚染物質に対する環境基準の仕組みを放射性物質による環境汚染の防止のために活用できるかを含め、現在、検討を行っているところである。

二について

 環境省においては、環境の保全の観点から、環境中の放射性物質の状況について監視を行っており、原子力規制委員会においては、原子力利用における安全の確保の観点から、環境中の放射性物質の状況等について監視を行っている。

三について

 御指摘の「原発事故における放射性物質排出行為」が人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(昭和四十五年法律第百四十二号)の罰則の構成要件に該当するか否かについては、個別具体的な事実関係に即して判断されるべき事柄であり、お答えすることは困難である。また、現時点において、同法における罰則の強化を行うことは考えていない。

四から六までについて

 原子力発電施設並びに再処理設備及びその付属施設(以下「再処理施設」という。)から放出される放射性物質については、国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)の勧告を踏まえ、原子力発電施設及び再処理施設の周辺監視区域外における一般公衆の被ばく線量が年間一ミリシーベルト以下となるように放射能濃度等の限度を定めており、その上で、施設からの放出形態や核種の種類に応じた規制を行っている。施設からの放出形態に応じた規制としては、例えば、再処理施設について、液体の放射性廃棄物が海洋放出施設から放出されることを踏まえ、海産物の摂取等も含めた一般公衆の被ばく線量の限度を定めており、また、再処理事業者に対し、海洋放出施設の放出口周辺の海域の海水、海底土、海産生物、漁具等に係る放射性物質の濃度等を三月ごとに記録し、国に報告する義務を課している。また、核種の種類に応じた規制としては、例えば、原子力発電施設について、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示(平成十三年経済産業省告示第百八十七号。以下「線量限度告示」という。)において、トリチウム、セシウム一三四、セシウム一三七等の核種の種類に応じて、排出される放射性物質に係る放射能濃度の限度を定めている。原子力安全規制については不断の見直しが必要であると考えており、これらの規制についても、引き続き、ICRPの勧告等を踏まえた検討を行うこととしている。
 また、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成二十三年法律第百十号。以下「特措法」という。)第二十四条第一項に規定する特定一般廃棄物処理施設について、同法施行規則(平成二十三年環境省令第三十三号)において、核種の種類に応じて、線量限度告示において定めているものと同じ水準で、放出される放射性物質に係る放射能濃度の限度を定めている。政府としては、定常運転状態にある原子力発電施設の周囲における疫学調査は実施していない。
 御指摘の「濃度規制方式」は、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(昭和五十三年通商産業省令第七十七号)に基づき、原子力発電施設における通常時の放射性物質の廃棄に際し、周辺監視区域外の放射性物質の放射能濃度について、線量限度告示に定める限度以下とするよう求めるものである。これに関して、原子力災害が発生し、原子炉等規制法に定める危険時の措置が実施されている状況下における空気中の放射性物質の濃度(以下「空気中濃度」という。)と線量限度告示に定める空気中濃度の限度を単純に比較することは適切ではないと考えている。
 なお、東京電力株式会社の福島第一原子力発電所の事故後、同社においては、同発電所の敷地境界の周辺における空気中濃度を日々測定しており、例えば、平成二十三年三月二十七日の測定では、ヨウ素一三一、ヨウ素一三二、セシウム一三四、セシウム一三七、テルル一二九、テルル一二九m及びテルル一三二が検出され、そのうち、ヨウ素一三一、ヨウ素一三二、テルル一二九、テルル一二九m及びテルル一三二については、空気中濃度が線量限度告示に定める放射能濃度の限度を上回っていた。

七について

 廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約(昭和五十五年条約第三十五号。以下「ロンドン条約」という。)は、海洋汚染の原因の一つである廃棄物等の海洋投棄を国際的に規制するため締約国がとるべき措置について定めるものである。お尋ねの「罪刑法定主義の概念の誤用」の意味するところが必ずしも明らかではないが、ロンドン条約は、海洋汚染の原因として、前文のパラグラフ五において、「投棄」と「大気、河川、河口、排水口及びパイプラインを通ずる排出等」を書き分けた上で、ロンドン条約の適用対象を「投棄」に限定し、第三条1(a)において、「投棄」を、「海洋において廃棄物等を船舶等から故意に処分すること及び海洋において船舶等を故意に処分すること」と定義している。したがって、ロンドン条約の適用上、陸上からの排出は「投棄」に含まれず、ロンドン条約第四条1(a)は陸上からの排出を禁止していないと解されるものであり、「「投棄」の概念をいたずらに狭く解する」との御指摘は当たらないものと考える。
 なお、我が国は、ロンドン条約に基づく海洋汚染の防止措置を一層強化するために作成された、千九百七十二年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の千九百九十六年の議定書(平成十九年条約第十三号)も締結しているところ、同議定書においても、第一条4において、「投棄」は、「廃棄物等を船舶等から海洋へ故意に処分すること及び船舶等を海洋へ故意に処分することに加え、廃棄物等を船舶等から海底及びその下に貯蔵すること、及び故意に処分することのみを目的としてプラットフォーム等を遺棄等すること」と定義されており、同議定書の適用上、陸上からの排出は「投棄」に含まれないと解される。

八について

 お尋ねの「焼却処理の工程における放射性物質の除去率」については、例えば、バグフィルターを設置している焼却施設である福島県福島市に所在するあらかわクリーンセンター並びに電気集じん器を設置している焼却施設である同県須賀川市に所在する須賀川地方保健環境組合須賀川地方衛生センター及び同県伊達市に所在する伊達地方衛生処理組合清掃センターにおいて、焼却により発生する排ガス中の放射性セシウムのバグフィルター又は電気集じん器による除去率の調査を行い、バグフィルターによる除去率については九十九・九パーセント以上、電気集じん器による除去率については九十六・六パーセント以上との結果を得ており、当該結果については、環境省ホームページに掲載している。さらに、事故由来放射性物質(特措法第一条に規定する事故由来放射性物質をいう。以下同じ。)により汚染された廃棄物の焼却処理については、同省が設置した災害廃棄物安全評価検討会において検討を行い、十分な能力を有する排ガス処理装置が設置されている施設で焼却処理が行われる場合には、安全に処理を行うことが可能との評価を得ている。
 お尋ねの「放射性物質取扱いの教育」については、平成二十五年七月一日より、改正した電離放射線障害防止規則(昭和四十七年労働省令第四十一号)第五十二条の八の規定において、事業者は、事故由来廃棄物等(事故由来放射性物質に汚染された物であって、セシウム百三十四及びセシウム百三十七の濃度の場合はその合計が一グラム当たり十ベクレルを超えるものに限る。)の処分の業務に労働者を就かせるときは、当該労働者に対し、当該業務に係る作業の方法等について、特別の教育を行わなければならないこととしている。
 また、お尋ねの「暫定法」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、特措法については、特措法の附則第五条の規定に基づき、特措法の施行後三年を経過した場合において、特措法の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとされている。

九について

 お尋ねの「放射能汚染防止基本法」及び「関連個別法」の具体的な内容が必ずしも明らかではないが、原子力規制委員会設置法(平成二十四年法律第四十七号)附則第五十一条の規定により環境基本法(平成五年法律第九十一号)第十三条の規定が削除されたことを踏まえ、政府としては、放射性物質による環境の汚染の防止のための関係法律の整備に関する法律(平成二十五年法律第六十号)により、大気汚染防止法等を改正し、放射性物質による環境の汚染等を同法等の適用の対象とする等したところであるが、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)等については、今後、特措法の見直しと併せて検討することとしている。