質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第一四二号

一般用医薬品のインターネット販売の解禁に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年六月二十五日

辻 泰弘   


       参議院議長 平田 健二 殿



   一般用医薬品のインターネット販売の解禁に関する質問主意書

 平成二十五年六月十四日の閣議において決定された日本再興戦略、規制改革実施計画及び経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)には、「一般用医薬品を対象とするインターネット販売」が盛り込まれている。これに関して以下質問する。

一 人間の存在の基本に関わる医療、生命、安全、環境、衛生、労働などについての規制は社会的規制と言うべきものであるが、それらについての規制は人体、人間生活、社会全体にもたらす影響を十分吟味してなされているものであり、単純な規制緩和の論理で律せられるべきものではないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 薬事は、人間の存在の根本に関わる健康の回復・維持を目的とするものであり、営利性、収益性を第一義とする「金儲け」が本質となるものであってはならないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。また、様々な副作用の懸念が伴う医薬品の人への投与においては、医薬品の入手の利便性よりも安全性が優先されるべきものと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 平成二十五年六月十四日の閣議において「一般用医薬品を対象とするインターネット販売」が決定されたが、この政策の目的は何か。

四 医薬品のインターネット販売は成長戦略の中に位置づけられ、しかも、そのための政策手段である規制緩和の代表格として位置づけられているが、市販の医薬品市場のパイはおのずと限られているはずである。インターネット販売の解禁だけでは、従来の店舗販売分がインターネット販売に置き換わるだけであり、市場の拡大に直ちに結びつくとは考えにくい。インターネット販売の解禁がなぜ「成長戦略」となり得るのか、直ちに経済成長と結びつくのか、その根拠を具体的に示されたい。

五 インターネット販売を成長戦略に位置づける政府は、国民が医薬品をより多く必要とし、より多く購入するようになる状態が好ましいと考えているのか。

六 インターネット販売の推進は、結果として、薬局の店舗数の減少を伴うことが必至である。量販店の出現などにより、シャッター通りと化した商店街の状況が多く見られる昨今、この政策はますます商店街をさびれさせ、地域社会をさらに疲弊させる結果をもたらすのではないかと懸念されるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 現在、第一類及び第二類医薬品については、副作用のリスクが高いため薬剤師等による対面販売がなされているところであるが、政府は成長戦略の一環として、リスクの高い医薬品のインターネット販売を解禁しようとしている。過去の様々な「薬害」の例を引くまでもなく、医薬品の販売に当たっては国民の健康と安全性の確保が最優先に考慮されるべきであり、もっぱら成長政策の観点から判断すべき性質のものではないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

八 医薬品のインターネット販売に係る問題についての方向性を導くべく設置された厚生労働省の「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」(以下「検討会」という。)では、全ての第一類医薬品及び第二類医薬品の一部についてのインターネット販売の解禁については合意が得られなかった。それにもかかわらず、今次の日本再興戦略等においてインターネット販売を認めることとした理由は何か。専門的知見を有する有識者を結集して議論した上での検討会のとりまとめの意味するところは、どのように政府の政策決定に反映されたのか。

九 医薬品のインターネット販売を解禁する場合、インターネット販売を行う薬局・薬店の把握や無届け事業者に対する監視のための体制をどのように整備するつもりなのか。解禁の結果、インターネット販売により医薬品による健康被害が発生・拡大した場合、また、インターネットを通じて偽造医薬品の販売が行われた場合、その責任の所在はどこにあるのか。国としてどのように責任を取るのか。政府の見解を明らかにされたい。

十 六月五日の産業競争力会議に提出された成長戦略の素案では、「インターネット販売を認めることとする」と記されていたが、今次閣議決定においては、その後に「その際、消費者の安全性を確保しつつ、適切なルールの下で行うこととする」が加筆されている。それが加筆された理由は何か。加筆される前と後とではいかなる差が出てくるのか。今後の対応にいかなる差をもたらすことになるのか。

十一 今回のインターネット販売解禁の政策決定については、産業競争力会議の民間議員であり本件の利害関係者でもある楽天株式会社会長兼社長の三木谷浩史氏らの主張が、厚生労働省の検討会の議論よりも優先された感が否めない。安倍総理は、辞任をほのめかして決断を迫った三木谷氏からのメールに対して、「これからも一緒に頑張りましょう」と返信したといわれているが、総理は厚生労働省の検討会の議論を十分吟味することなく、産業競争力会議の民間議員の意見を受け入れたのではないか。このような総理と民間議員との間の個人的な関係・連携が支配する形で重大な決定が下されることは、民主的な政策決定を甚だしく軽視したことになるのではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。