質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第一三二号

性同一性障害等の性的マイノリティに対する偏見や差別を助長しかねない教員採用試験における適性検査の実態とその改善等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年六月二十四日

尾辻 かな子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   性同一性障害等の性的マイノリティに対する偏見や差別を助長しかねない教員採用試験における適性検査の実態とその改善等に関する質問主意書

 我が国には、性同一性障害等の性的マイノリティに対する偏見や差別を助長しかねない社会の慣行や制度が少なからず存在する。特に、人々の幸福を追求する努力を支え、その実現に資するべき社会制度が、個人の人格権を危うくするなどの人権侵害を招いていては、本末転倒と言わざるを得ない。
 その一例に、教員採用試験における適性検査がある。教員としての能力や適性をみるためのはずの教員採用試験において、受験者の性自認、性的指向等を問う項目を含む適性検査が、複数の教育委員会によって実施されてきた事実が明らかとなっている。
 何よりも個人が尊重されるべき教育現場において、合理的な理由もなく職業選択の自由が妨げられるようなことがあってはならないと考え、今回は、特に教員採用試験の適性検査の在り方について、政府の見解を問うものである。
 この問題は、平成二十四年六月十五日の衆議院法務委員会における井戸委員による質問並びに平成二十五年三月十五日及び五月二十九日の衆議院法務委員会における西根委員による質問でも指摘されているところであるが、なお明らかでない点が少なくない。
 そこで、教員採用試験における適性検査の実態とその改善等に向けた政府の取組について、以下質問する。

一 教員採用試験におけるMMPI(ミネソタ多面人格目録)利用の実態について

 平成十九年以降、教員採用試験においてMMPIを用いていた都道府県及び政令市の教育委員会はどこか、実態を明らかにされたい。その際、年ごとにその数と具体的な都道府県名及び政令市名を示されたい。

二 教員採用試験にMMPIが用いられることになった経緯について

 MMPIが開発された目的は、「臨床的に役立ち、直接的には臨床診断に役立つ目録法を作成すること」である。当然のことながら、医療現場、精神鑑定の場での使用が前提とされている。そのMMPIが多くの教員採用試験に用いられることになった経緯につき、政府はどのように把握しているか。

三 MMPIを用いることの合理性と必要性の有無について

 教員としての適性をみるための教員採用試験の適性検査において、MMPIを用いる合理的な理由はあるのか、政府の見解を明らかにされたい。また、教員採用試験の適性検査において、MMPIを用いていない教育委員会があるとすれば、それはなぜか。わざわざMMPIを用いなくとも、教員としての適性を適切に評価できる証左と理解してよいか、政府の見解を明らかにされたい。

四 心理検査が提起した問題に対する政府の認識について

 平成二十四年六月十五日の衆議院法務委員会において、当時の滝法務大臣は「不用意にそういうことを導入することがどれだけ人を傷つけるか、こういうことについて、やはり認識が薄かった」と答弁している。また、法務省の平成二十五年度啓発活動年間強調事項には、(14)性的指向を理由とする差別をなくそう、(15)性同一性障害を理由とする差別をなくそうとある。
 さらに、法務省の人権擁護機関が平成二十四年中に救済措置を講じた具体的事例に、差別待遇事案として、次のような採用試験における不適切な取扱い事案がある。
 「(差別待遇事案)事例7 採用試験における不適切な取扱い事案 採用試験において、性同一性障害者に対する不適切な質問項目があるとの申告を受け、調査を開始した事案である。専門家からの事情聴取を行うなどして検討したところ、当該質問を含む試験を実施するに当たっては性同一性障害者に対する配慮が必要と認められたことから、その旨を当該試験を実施した者に伝えたところ、翌年度において、当該試験全体の見直しを検討する中で、当該質問項目についても改善の適否を検討するとの説明を受けた。そして、翌年度の当該試験において、当該質問は、性同一性障害者に配慮した方法で実施された。(措置:「援助」)」
 これらのことから、採用試験において、職務の適性とは直接関係のない性自認、性的指向などを尋ねる項目を含む心理検査が行われていた事実は、政府も承知していたと考えられるが、この事実が提起する問題について、政府の認識を明らかにされたい。

五 教員採用試験の適性検査からMMPIを除外すべきことについて

 特に問題となっているMMPIについては、教員採用試験の適性検査から除外し、性同一性障害等の性的マイノリティに対して配慮した方法で教員採用試験が適正に実施されるべきである。次世代を育成し今後の社会の根幹を基礎づける教育という現場の中で、そのうちの一制度が性同一性障害等に苦しむ人々に追い打ちをかけ、理不尽な差別や偏見を助長するようなことがあってはならないからである。
 事は教員を志す人間の尊厳の問題である。教育の現場で生じていることを重く受け止め、法務省、文部科学省等が連携して、教員採用試験の見直しや必要な改善を行い、人権侵害が生じることのないよう、その成果の周知徹底を図り、真摯に対応すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

六 教育現場等における適切な配慮の必要性と今後の対応について

 平成二十五年三月に関東地区私立大学教職課程研究連絡協議会が公表した実態調査によれば、教育実習の際の性同一性障害者に対するハラスメントの問題も深刻であることが指摘されている。性同一性障害等を有する教育実習生に対するハラスメント事案は、教育現場という職場風土には人権意識が希薄なのではないか、との疑いを人々に抱かせる可能性もある。
 教育に対する信頼が失われていくとき、希望が絶望に変わる。閉塞感の漂う現代の日本社会にあって、これまでお題目のように唱えられてきた「個性の尊重」や「多様性の重視」といった課題に対して、真剣な取組が求められている。未来の礎となる教育を担う現場においてこそ、こうした重い課題に率先して範を垂れるべきではないか。
 この問題に限らず、性同一性障害等の性的マイノリティに対する配慮の必要性については、政府においても認識があるものと考えられるが、改めて教育委員会、教育現場等における適切な配慮の必要性と今後の具体的な対応策について、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。