質問主意書

第183回国会(常会)

質問主意書


質問第六八号

利根川・江戸川河川整備計画の策定に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十五年四月一日

大河原 雅子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   利根川・江戸川河川整備計画の策定に関する質問主意書

 国土交通省関東地方整備局は利根川・江戸川河川整備計画を早期に策定しようとしている。去る三月十八日の第十一回利根川・江戸川有識者会議で、議論すべき課題がまだ多く残されているにもかかわらず、関東地方整備局は意見は出尽くしたと一方的に決めつけて会議を打ち切る方針を示した。関東地方整備局は利根川・江戸川河川整備計画原案を近々のうちに計画案とし、関係都県知事の意見を聴いた上で利根川・江戸川河川整備計画を策定することを企図している。
 しかし、利根川の河川整備計画は利根川の今後三十年間の河川整備の内容を定めるものであるから、現在及び将来の利根川流域住民の生命と財産を本当に守ることができ、且つ、利根川の自然環境にも十分に配慮した計画が策定されなければならない。利根川流域住民にとってきわめて重要な意味を持つ計画が拙速に策定されれば、将来において大きな禍根を残すことになる。しかも、今回の策定は利根川水系の直轄区間全体ではなく、利根川・江戸川という本川だけの河川整備計画の先行策定であり、一級水系では今まで例がなく、科学的に見ても問題がある策定が行われようとしている。
 以下、現在、策定作業が進められている利根川・江戸川河川整備計画に関して質問するので、真摯に答弁されたい。

一 利根川・江戸川河川整備計画の策定を急ぐ理由

1 利根川・江戸川河川整備計画の策定スケジュール
 関東地方整備局は利根川・江戸川河川整備計画をいつまでに策定しようとしているのか、策定までの具体的なスケジュールを示されたい。
2 利根川・江戸川河川整備計画の修正原案についての意見聴取及び議論
 本年二月以降におけるパブリックコメント、公聴会及び利根川・江戸川有識者会議で対象となったのは関東地方整備局が一月二十九日に示した利根川水系利根川・江戸川河川整備計画原案である。今後、パブリックコメント、公聴会、利根川・江戸川有識者会議の意見に基づいて修正した原案について、パブリックコメントや公聴会で意見を再度聴き、さらに利根川・江戸川有識者会議で審議することは行わないのか。
3 平成十八年十二月十八日の有識者会議で関東地方整備局が言明したこと
 平成十八年十二月十八日の第二回利根川・江戸川有識者会議で関東地方整備局が次のように言明した。
 「その河川整備計画の原案につきましては、全体の意見を取りまとめて整理させていただいた上で、その後の有識者会議になろうかと思いますが、そこの段階でお示しさせていただければと思っております。その段階におきまして、また関係住民の方々にもインターネット等での意見募集、それから公聴会、そういったものを開かせていただいて、再度意見をいただいて、また、その整備計画の原案を修正させていただく。で、また修正したものにつきましても、再度ご提示させていただいて、また学識の先生方、それから関係住民の方々からご意見をいただくと、そういったことを何回か実施させていただきまして河川整備の案を取りまとめていきたいと思っております。」(同有識者会議の議事録五ページ)
 関東地方整備局は自ら言明したとおり、河川整備計画原案を修正した上で、その修正原案について利根川・江戸川有識者会議、パブリックコメント、公聴会で意見を聴き、さらにそのことを何度か繰り返さなければならないはずである。関東地方整備局は自ら言明したことについての責任をどうとるのか、政府の見解を明らかにされたい。
4 利根川・江戸川河川整備計画の策定を急ぐ理由
 関東地方整備局は前述のとおり、三月十八日の利根川・江戸川有識者会議において会議を打ち切る方針を示したが、なぜそのように利根川・江戸川河川整備計画の策定を急ごうとするのか、理由が不明である。きわめて重要な意味を持つ河川整備計画なのであるから、十分な議論を積み重ねた上で策定されるべきであるにもかかわらず、策定の期限が切られているかのように、関東地方整備局はこの河川整備計画の策定を急いでいる。利根川・江戸川河川整備計画の策定を急ぐ理由を明らかにされたい。
5 八ッ場ダム本体関連工事との関係
 民主党政権下では、平成二十三年十二月二十二日の藤村修官房長官(当時)裁定により、八ッ場ダム本体工事費の予算計上は利根川水系河川整備計画の策定が条件であった。この裁定により、平成二十四年度予算案では計上された八ッ場ダムの本体工事費約十八億円の執行が凍結された。国土交通省はこの官房長官裁定をクリアするため、平成二十四年度に入って利根川・江戸川河川整備計画の策定作業を急ピッチで進めてきたが、昨年十二月に政権が交代し、状況は不明瞭になっている。
 そこで、八ッ場ダム本体工事との関係で次の三点を明らかにされたい。
(1) 昨年十二月の政権交代に伴って、八ッ場ダム本体工事費に関わる平成二十三年十二月二十二日の藤村修官房長官裁定はどのように取り扱われているのか。
(2) 平成二十五年度の予算案では、八ッ場ダム本体関連工事費約十八億円が計上されている。これは、平成二十四年度予算案で計上された八ッ場ダム本体工事費約十八億円と同規模である。その内容は資材置き場や工事用道路の建設、調査などであり、本体工事に入るための準備工事と調査である。なぜ平成二十四年度予算案では本体工事費とされていたものが、平成二十五年度予算案では本体関連工事費という名称に変わったのか。
(3) 利根川水系河川整備計画は、八ッ場ダム建設計画の上位計画であるから、八ッ場ダム本体工事に入るならば、その上位計画である利根川水系河川整備計画による八ッ場ダム建設事業の位置付けがされるべきであり、平成二十三年十二月の藤村修官房長官裁定はごく当然のことを求めたものであった。関東地方整備局が現在、利根川・江戸川河川整備計画の策定を急いでいるのは、同様な考え方により、八ッ場ダム本体関連工事を早期に進める前提条件として同計画の策定が必要と考えているからなのか。

二 利根川水系全体の河川整備計画の策定

1 通達(河川法の一部を改正する法律等の運用について)との関係
 平成十年一月二十三日の通達(河川法の一部を改正する法律等の運用について)は、河川整備計画の策定単位は一級河川の指定区間外は水系ごとを基本とすべきこととしている。利根川には大きな支川がいくつもあるから、それらの支川も含めて、水系全体の直轄区間の河川整備計画が策定されなければならない。支川と本川は相互に関係しているから、当然のことである。平成十八年十一月から二十年五月に行われた河川整備計画の策定作業では、利根川水系を利根川・江戸川、鬼怒川・小貝川、霞ケ浦、渡良瀬川、中川・綾瀬川の五つのブロックに分け、本川だけでなく、支川のブロックそれぞれにも有識者会議を設置し、水系全体の河川整備計画の策定が進められようとした。しかし、今回策定されようとしているのは本川だけの河川整備計画である。利根川・江戸川という本川だけの河川整備計画の先行策定は平成十年一月二十三日の前記の通達に違反しているのでないか。このことに関して政府の見解を明らかにされたい。
2 全国の一級河川の事例
 全国の一級河川の直轄区間で河川整備計画が策定されてきている。一級河川の直轄区間で今までに河川整備計画が策定された水系の数、及びそのうち、水系を支川と本川に分離して本川の河川整備計画を先行して策定した河川があれば、その水系名を明らかにされたい。
3 利根川水系で先行して本川の河川整備計画を策定する理由
 関東地方整備局は利根川水系において、なぜ、利根川・江戸川という本川だけの河川整備計画を策定しようとするのか。また、平成十八年十一月から二十年五月には利根川水系全体の河川整備計画の策定作業が行われていたのに、なぜ、平成二十四年度から利根川・江戸川という本川だけの河川整備計画の策定作業に変わったのか、それらの理由を明らかにされたい。
4 水系全体の河川整備計画の策定時期
 鬼怒川・小貝川、霞ケ浦、渡良瀬川、中川・綾瀬川を含めて、利根川水系の直轄区間全体の河川整備計画をいつ策定する予定なのか。策定予定時期を明らかにされたい。
5 利根川・江戸川河川整備計画と各支川の河川整備計画との齟齬
 支川と本川は相互に関係しており、特に支川の状況が本川に影響するので、本川だけの河川整備計画を先行して策定すれば、支川の河川整備計画を策定する段階で支川と本川との関係で齟齬が生じることが予想される。利根川水系において後で策定する支川の河川整備計画と、本川の河川整備計画との間に齟齬が生じた場合、どうするのか、本川の河川整備計画を策定し直すのか、このことについて政府の見解を明らかにされたい。

三 治水安全度と治水目標流量の引上げ 

1 治水安全度と治水目標流量の一方的な引上げ
 平成十八年十一月からの利根川水系全体の河川整備計画の策定作業で示された河川整備計画のメニューでは治水安全度は本川五十分の一、支川三十分の一であった。この治水安全度を前提としたメニューに対して五つの有識者会議で議論がされ、パブリックコメントと公聴会による意見聴取が行われた。八斗島地点の治水目標流量は明示されていないものの、当時の委託調査報告書を見ると、毎秒一万五千立方メートル程度で設定されていた。
 ところが、平成二十四年度からの策定作業では利根川本川の治水安全度は七十分の一から八十分の一に引き上げられ、それに伴って、治水目標流量は毎秒一万五千立方メートル程度から一万七千立方メートルへと、約二千立方メートルも大きくなった。
 有識者会議で議論され、且つ、パブリックコメントと公聴会で意見を聴取したメニューの前提条件を関東地方整備局の思惑だけで、しかも、何の説明もなく、変えてしまうことが許されるのであろうか。このことについて政府の見解を示されたい。
2 治水安全度に関する埼玉県の発言
 利根川・江戸川有識者会議で、治水安全度引上げの理由を示してほしいという委員からの要求を受け、関東地方整備局が昨年十月四日の第六回会議で示した八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場(第一回幹事会、平成二十二年十月一日)の議事録では、「〇埼玉県県土整備部長代理 同じく埼玉県の高沢でございます。利根川は、過去にカスリーン台風の洪水でも本県を含めまして重大な被害をもたらしております。また、現在でも一旦決壊をすれば、首都圏に大きな被害が生じると思っております。また、本県につきましては、本県の東側の地域でございますが、利根川よりも低いところに人と資産が集中しております。このため、利根川の治水安全度は埼玉県にとりましても非常に大切でございますので、このようなことから適切な治水安全度を設定するように検討していただきたいということでございます。よろしくお願いいたします。」とあるが、埼玉県は適切な治水安全度の設定をと述べているだけであって、引き上げるべきだという趣旨のことは一言も言っていない。この埼玉県の発言がなぜ、治水安全度引上げの理由になるのかを説明されたい。
3 治水安全度引上げの真の理由
 前記三の1及び2を踏まえれば、治水安全度が五十分の一から現在示されている七十分の一から八十分の一まで引き上げられたのは、関東地方整備局の思惑だけで行われたものであると考えざるを得ない。関東地方整備局がどのような理由で治水安全度を引き上げたのか、その真の理由を明らかにされたい。なお、利根川流域は人口と資産が集中しているから、治水安全度を引き上げたということならば、平成十八年十一月からの策定作業の段階でそのことはすでに考慮されていなければならなかったはずであるから理由にならないことを申し添えておく。

四 カスリーン台風の実績流量

1 カスリーン台風実績流量に関する新たな資料
 利根川・江戸川河川整備計画原案の治水目標流量毎秒一万七千立方メートルは、国土交通省が利根川洪水流出計算の新モデルを使って七十分の一から八十分の一の治水安全度に相当する流量を算出したものと説明されている。この新モデルで昭和二十二年カスリーン台風の再来計算流量は毎秒二万一千百立方メートル(八斗島地点)であり、同台風の実績ピーク流量の公称値毎秒一万七千立方メートルと比べて、毎秒四千立方メートル以上も過大であることから、新モデルの科学性の有無が利根川・江戸川有識者会議の議論で大きな争点となってきた。
 さらに、本年二月二十一日の第九回利根川・江戸川有識者会議で「治水調査会利根川小委員会及び利根川委員会の議事録」が委員からの要求により配布された。これはカスリーン台風直後の昭和二十二年十一月から二十四年二月までの建設省内の委員会の議事録である。この議事録から、カスリーン台風洪水実績流量の公称値毎秒一万七千立方メートルは政治的に決められたものであり、実際の実績流量はそれより小さい数字で、毎秒一万五千立方メートル以下であったことを読み取ることができる。
 その結果、新モデルによるカスリーン台風の再来計算流量毎秒二万一千百立方メートルと実績流量との差は毎秒六千立方メートル以上にもなり、新モデルは、過大な洪水流量を算出する非科学的な洪水流出計算モデルであることが一層明白になったと考えられる。このことについて政府の見解を明らかにされたい。
2 カスリーン台風実績流量に関する関東地方整備局の事実歪曲の回答
 昨年九月二十五日の第五回利根川・江戸川有識者会議の配布資料三-三で、カスリーン台風実績流量に関するパブリックコメントの意見に対する回答として、関東地方整備局は昭和二十五年の群馬県「カスリン颱風の研究」における安芸皎一東京大学教授の論文を引用した。その引用部分だけを読むと、安芸教授が実績流量として毎秒一万六千九百立方メートルが正しいと主張しているように受け取れるが、引用した文章には続きがあり、次のように安芸教授は毎秒一万六千九百立方メートルより十から二十パーセント少ない数字が妥当だと結論付けている。
 「約一時間位毎秒一万六千九百立方メートルの最大洪水量が続いた計算になる。しかし之は合流点で各支川の流量曲線は変形されないで算術的に重ね合わさったものとして計算したのであるが、之は起こり得る最大であり、実際は合流点で調整されて十パーセントから二十パーセントは之より少くなるものと思われる。川俣の実測値から推定し、洪水流の流下による変形から生ずる最大洪水量の減少から考えると此の程度のものと思われる。」(二百八十八頁)
 安芸教授は合流点での調整を考えれば、毎秒一万六千九百立方メートルより十から二十パーセント小さい値、すなわち、毎秒一万三千四百立方メートルから毎秒一万五千三百立方メートルが妥当だと判断しているにもかかわらず、関東地方整備局はその結論部分をカットして、安芸教授が毎秒一万六千九百立方メートルが正しいと言っているように誤解させる恣意的な引用を行った。関東地方整備局がこのように事実を歪曲した回答を行ったのは由々しきことである。このことについて政府の見解を明らかにされたい。

五 利根川・江戸川河川整備計画原案の治水対策に要する費用

1 治水対策に要する費用の内訳
 本年二月二十一日の第九回利根川・江戸川有識者会議で関東地方整備局は「河川整備計画原案の治水対策の具体的なメニューとして、現時点で想定している費用は約八千六百億円である」と答えた。この約八千六百億円の整備項目別の内訳を示されたい。なお、整備項目は、首都圏氾濫区域堤防強化対策、築堤、高潮堤防、河道掘削、樹木伐採、浸透対策、稲戸井調節池、田中調節池、烏川内調節施設、行徳可動堰、江戸川水閘門、江戸川分派対策、高規格堤防、防災関係施設、ダム再編、八ッ場ダムなどに分けて示されたい。
2 総額八千六百億円の整備費用への疑問
 平成二十三年度に行われた八ッ場ダム建設事業検証の開示資料の中に、八ッ場ダムを含む治水対策案の概算事業費として利根川本川の整備項目別費用が示されている。その総額は八千三百四十九億円で、前記五の1の八千六百億円と同等の費用となっている。その内訳を見ると、高規格堤防の費用は八十二億円だけである。本年三月十八日の第十一回利根川・江戸川有識者会議において、河川整備計画原案では約二十二キロメートルの高規格堤防を整備することになっているのであるから、八十二億円はあまりにも過小ではないかと、委員から指摘があった。それに対して、関東地方整備局は八千六百億円には高規格堤防は含まれていないと答えた。第九回会議では総額が八千六百億円と説明したのに、追及されれば、実は高規格堤防は含まれていないと答えるのはあまりにも無責任である。関東地方整備局の説明は信頼性が欠如していると言わざるを得ない。このことについて政府の見解を示されたい。
3 高規格堤防(スーパー堤防)の整備費用
 河川整備計画原案では約二十二キロメートルの高規格堤防を整備することになっているが、この高規格堤防の整備に要する全費用の概算を示されたい。因みに、高規格堤防は一キロメートルあたり数百億円以上の整備費用がかかるとされているから、約二十二キロメートルの高規格堤防の整備費用を加算するだけで、河川整備計画原案の治水対策の総額は一兆数千億円になると予想される。
4 首都圏氾濫区域堤防強化対策事業
 前記五の2で述べた八ッ場ダム建設事業検証の開示資料では首都圏氾濫区域堤防強化対策事業の事業費は千六百八十七億円となっているが、一方、首都圏氾濫区域堤防強化対策事業の開示資料では事業費の総額が二千六百九十億円で、約一千億円も大きい。河川整備計画原案における首都圏氾濫区域堤防強化対策事業の費用は実際にいくらなのかを明らかにされたい。
5 増額の可能性がある整備項目
 ここでは高規格堤防と首都圏氾濫区域堤防強化対策事業を例にとって、河川整備計画原案の治水対策の費用が関東地方整備局が述べた約八千六百億円より大幅に膨れ上がることを示した。この二つの例の他に、費用の過小見積もりになっている整備項目はないのか、その可能性がある整備項目があれば、その項目と実際の整備費用を明らかにされたい。

  右質問する。