質問主意書

第181回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一三号

ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、子宮頸がんワクチン、不活化ポリオワクチンの接種事業に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年十一月一日

田村 智子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、子宮頸がんワクチン、不活化ポリオワクチンの接種事業に関する質問主意書

 ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、子宮頸がんワクチンは二〇一〇年度の補正予算によって造成された子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進臨時特例基金(以下「本基金」という。)によって接種費用の約九割が公費助成の対象となり、そのうち国が半分を負担し、残りの半分は地方交付税により措置されている。また、公費助成の対象とならない一割については自己負担を求めることができるが、実際には徴収していない自治体も多い。本基金による事業は今年度までとされており、来年度以降のヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、子宮頸がんワクチン接種事業の公費助成の枠組みがどうなるか明らかではない。
 一方、本基金の対象となっているヒブ、小児用肺炎球菌、子宮頸がん(以下「ヒブワクチン等」という。)については、厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会において定期接種とするという結論が得られており、厚生労働省も予防接種法の改正案を次期通常国会に提出すべく準備を進めている。しかし、現行と同じ財源の枠組みで定期接種化を行った場合、市町村の負担は数倍になることが予想される。保護者の自己負担無しで行っている自治体でも財政力が弱いところでは自己負担を求めるところが出ることも否定できず接種率の低下にもつながりかねない。
 NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会外七団体の患者団体、市民団体が本年十月三十日に直接、厚生労働大臣と面接をして「経済格差、地域格差、情報格差なく、平等に全ての子どもたちが必要な予防接種を国の財源で受けられるよう法体系の整備を早急に行なうこと」を求める要請を行っている。また、一般社団法人日本小児科医会も同日、厚生労働大臣に「すべての子どもが平等にワクチンを受けられるように、全国無料での接種」を求める要望書を手渡している。
 このように自治体の財政力によって接種率の格差、ひいては命の格差が生じないようにするというのは広く国民の声であり、政府としてもしっかりとした対応をとる必要がある。
 さらに、サノフィパスツール株式会社による単独不活化ポリオワクチンが本年九月一日に、阪大微生物病研究会(以下「阪大微研」という。)及び化学及血清療法研究所(以下「化血研」という。)によるDPT(ジフテリア・百日せき・破傷風)に不活化ポリオワクチンを加えた四種混合ワクチン(以下「DPT-IPV」という。)が十月三十一日に発売され、生ワクチンによるポリオ感染の危険性が無くなったことは重要な成果である。一方で、不活化ポリオワクチンの薬剤価格は非常に高価で、これまでの生ポリオワクチンと比較して薬剤費は二十倍程度、接種回数が増えたことを考慮すると四十倍程度となっている。この結果、自治体負担は大幅に上昇し、財政余力の乏しい市町村では自己負担の引上げや新たな自己負担を導入する自治体が出てくる可能性も否定できず、結果としてワクチン接種率に影響を与えかねない。
 右の点を踏まえ、以下質問する。

一 ヒブワクチン等は現在、交付税措置も含めて事業費の約九割を本基金によって国が財源措置をしている。予防接種法改正が間に合い来年度からヒブワクチン等の定期接種化が実現したとしても、現状と同じ財政支援の枠組みのままであれば、国の財政支援は低所得者減免に対する交付税措置に限定されることになりかねない。そうなると国の財政支援は現在の九割から三割程度に減少する。現在本基金による補助によって市町村の持ち出しは事業費の一割程度であり、市町村の持ち出し分について自己負担を求めることができるが、実際には徴収していない自治体も多い。一方で、少なくない自治体がヒブワクチン等の接種について自己負担を徴収している。
 定期接種化による国の財政支援の減少によって自己負担の引上げや新たな自己負担導入に踏み切らざるを得ない市町村が出てくることが否定できず、結果として接種率の低下を招きかねない。ヒブワクチン等の定期接種化によってこのような事態が生じることがあってはならないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 前記一で指摘した事態を生じさせないため、定期接種に対する国の負担のカバー割合を本基金並みに引き上げるなど必要な財源措置を含めた対策が必要と考えるが、政府の方針を明らかにされたい。

三 昨年十二月二十日に内閣官房長官、総務大臣、財務大臣、厚生労働大臣の四大臣で合意された「平成二十四年度以降の子どものための手当等の取扱いについて」(以下「四大臣合意」という。)において、本基金も含めた基金事業について「年少扶養控除の廃止等による地方増収であることに鑑み、平成二十五年度に平年度化する地方財政の追加増収分及び2.(1)④の暫定対応分は、平成二十四年度増収分に係る対応に代えて、基金設置による国庫補助事業の財源に代わる恒久的な財源として、子育て分野の現物サービスに活用することとし、その具体的内容は今後検討する。」とされている。これは基金事業の財源に年少扶養控除の廃止に伴う地方税増収分を充てる方針を示したものであり、本基金による事業を一般財源化する方向に他ならない。これまで指摘してきたようにヒブワクチン等の接種率を維持するために本基金と同水準の公費カバー割合を維持する必要があると考えるが、一般財源化では市町村がそのような措置を行う保証が無い。前記二で指摘した財源措置は、交付税措置も含めた国による公費負担によって行われるべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

四 本基金は先に指摘したように本年度で事業を終了する予定である。一方で、政府が目指している予防接種法改正が次期通常国会で必ず実現するとは限らない。また予防接種法改正案は前通常国会で提出が検討されていたが、政府部内の様々な事情で実現しなかったものであり、仮に次期通常国会に提出され成立したとしても施行準備に必要な期間を考えると来年四月実施は極めて厳しいと指摘せざるを得ない。
 本基金による財源措置の目処が立たず、市町村からも十二月議会に間に合わなければ来年度からの実施は難しいという声も聞こえてきている。このままでは、来年度からヒブワクチン等の自己負担を大幅に引き上げる市町村が出てきかねない。ヒブワクチン等は標準的な接種法では接種間隔が半年を超えており、当然ながら年度をまたいで接種を行うことが想定される。接種の一部は公費助成が行われたが、年度をまたいだ残りは公費助成の対象にならないというのでは、公平性の観点からも大きな問題がある。
 来年四月からの定期接種化とそのための予防接種法改正を言いながら予防接種法改正案の提出さえ行わず、さらに来年度の国の公費負担の割合についていまだに国の方針が示されていないため市町村や保護者、医療機関などの混乱と不安を生じさせている。先に指摘したようにヒブワクチン等を定期接種化する予防接種法改正法の来年四月施行は極めて厳しい状況であり、混乱と不安を払拭しヒブワクチン等の接種率を維持するためにも、本基金の継続若しくは本基金と同水準の国負担による公費接種事業を行うべきではないか。

五 不活化ポリオワクチンやDPT-IPVについて、政府は七月二十三日に藤田厚生労働大臣政務官(当時)名でメーカーへ販売価格の引下げを要請している。これは不活化ポリオワクチンやDPT-IPVの現在の価格設定が従前の薬剤価格と比べて非常に高いためである。
 サノフィパスツール株式会社の不活化ポリオワクチンである「イモバックスポリオ」は五千四百五十円(税抜き、以下全て同じ。)で、米国民間価格の二倍以上、CDC(疾病管理・予防センター)価格の五倍以上であることが同要請でも指摘されている。同要請にもかかわらず「イモバックスポリオ」については提示価格の引下げは行われなかった。また、DPT-IPVに関しては、今回発売される阪大微研の「テトラビック」の定価は六千六百円、同様に化血研の「クアトロバック」が定価六千五百円で、DPTワクチン価格は阪大微研が千四百五十円、化血研が千六百円となっており、DPT-IPVについても従前のDPTと比較して大幅に価格が引き上げられている。
 生ポリオワクチンの接種回数が二回だったのに対して不活化ポリオワクチンは四回に増加したことを考慮にいれると、市町村の負担は薬剤費だけで見ても六百四十円(二回分の定価)から、二万円強と大幅に増えることになる。この市町村の負担増によって厳しい財政状況の折、定期接種の自己負担の引上げや新たな自己負担の導入に踏み切る市町村が出てくる可能性も否定できず、結果として接種率の低下を招きかねないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

六 ワクチンはB型肝炎ワクチンを除き予防目的であることから公定価格としての薬価が定められておらず、基本的には製薬企業の希望小売価格(定価)と市場動向によって価格が決まるが、ポリオワクチンはその大多数が公費接種事業である定期接種によって使用されており、その価格は薬価と同様に公的管理の必要性が高いと考える。ワクチンで予防できる病気に対して公費を投入することは重要なことであるが、ワクチンそのものの価格が適正であるかの評価をしないことには、公費接種事業が特定の製薬企業の利益の温床になりかねない。既に藤田政務官名で要請も行われているが、引き続きメーカーに引下げの要請を行うとともに、その価格に算定されている費用の内訳や利益率の開示を求めるなどワクチン価格の透明性を高める努力をすべきではないか。

七 ポリオワクチン以外の公費接種事業で使用されるワクチンについても、薬価が定められていないワクチン価格については前記六で指摘したポリオワクチンと同様の構造があり、ワクチン価格に算定されている費用の内訳や利益率について開示を求めワクチン価格の透明性を高めるとともに、その結果必要な場合には、ワクチン価格の引下げの要請なども行うべきではないか。

  右質問する。