質問主意書

第180回国会(常会)

答弁書


答弁書第八号

内閣参質一八〇第八号
  平成二十四年二月十日
内閣総理大臣 野田 佳彦   


       参議院議長 平田 健二 殿

参議院議員上野通子君提出東京電力福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故に伴う修学旅行先の見直しに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員上野通子君提出東京電力福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故に伴う修学旅行先の見直しに関する質問に対する答弁書

一について

 日光国立公園の戦場ヶ原等にある国立公園の保護又は利用のための施設(以下「公園施設」という。)及びその周辺の計四十一か所で、平成二十三年十二月に、自然放射線を含む空間放射線量を地上高一メートルで測定したところ、測定結果は毎時〇・〇五マイクロシーベルトから〇・一三マイクロシーベルトまでであった。当該測定結果について、一日のうち屋外に八時間、屋内(放射線の五分の三を遮蔽する効果がある木造家屋)に十六時間滞在するという生活パターンを仮定し、年間当たりに換算すると約〇・二六ミリシーベルトから約〇・六八ミリシーベルトまでとなる。
 国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)は、放射線に関する専門家から構成される国際組織であり、我が国においても、従来から、その勧告を放射線防護対策を講ずる上での基礎として取り入れているものであるが、ICRPの平成十九年の勧告等においては、放射線による人体への影響について、疫学的な研究では、百ミリシーベルトより高い線量ではがんのリスクの可能性が高くなるとされるが、およそ百ミリシーベルトまでの線量ではがんのリスクが高まることは明らかにされていないとしている。
 また、原発事故の収束及び再発防止担当大臣の下に開催されている放射性物質汚染対策顧問会議の下で開催された、有識者から構成される「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の報告書においても、「広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果からは、被ばく線量が百ミリシーベルトを超えるあたりから、被ばく線量に依存して発がんのリスクが増加することが示されている。」とし、「国際的な合意では、放射線による発がんのリスクは、百ミリシーベルト以下の被ばく線量では、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため、放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる。」としている。
 さらに、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成二十三年法律第百十号)第三十二条は、環境大臣が同法第一条に規定する事故由来放射性物質による環境の汚染状態が環境省令で定める要件に適合しないと認められ、又はそのおそれが著しいと認められる場合にその地域を汚染状況重点調査地域として指定するものと規定しているところ、当該要件は汚染廃棄物対策地域の指定の要件等を定める省令(平成二十三年環境省令第三十四号)第四条により毎時〇・二三マイクロシーベルト未満と定められている。
 これらに照らし、前記の測定結果が公園施設を利用する修学旅行生等の健康に影響を与える水準の放射線量に当たるとは考えていない。

二について

 学習指導要領における特別活動に位置付けられる修学旅行の行き先等の内容については、地域や学校の実態及び児童・生徒の心身の発達の段階や特性等を十分考慮して、各学校において定めるべきものであり、お尋ねのような特定の地域を対象とした「修学旅行生の増減」や各学校を対象とした「旅行先の変更」についての調査を行う考えはなく、また、その結果を踏まえてお尋ねのような指導を行う考えもない。
 なお、文部科学省としては、平成二十三年八月に、各都道府県教育委員会等に対して通知を発出し、今後の修学旅行の実施に当たっては、風評に惑わされることなく、現地の正確な情報に基づき、できる限り予定どおりの実施が望まれる旨の観光庁の意向の周知を行うとともに、平成二十四年一月に、各都道府県教育委員会の生徒指導担当者が参加する会議において、予定どおり東日本大震災の被災地への遠足を実施した例や予定を変更して被災地への研修旅行を実施した例を紹介したところである。

三について

 お尋ねの「政府・・・の観光業に対する賠償基準」が具体的に何を指すのか必ずしも明らかではないが、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(平成二十三年八月五日原子力損害賠償紛争審査会決定。以下「中間指針」という。)においては、「原賠法により原子力事業者が負うべき責任の範囲は、あくまで原子炉の運転等により与えた「原子力損害」であるから(同法三条)、地震・津波による損害については賠償の対象とはならない。」、「観光業における減収等については、東日本大震災による影響の蓋然性も相当程度認められるから、損害の有無の認定及び損害額の算定に当たってはその点についての検討も必要である。」としている。
 東京電力株式会社は、中間指針を踏まえ、東京電力株式会社福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所の事故(以下「原子力事故」という。)の発生に伴い風評被害を受けた福島県、茨城県、栃木県、群馬県及び千葉県の一部に事業所が存在する観光に関する事業を営む者(以下「観光業者」という。)に対する賠償金額の算定に当たり、観光業者の実際の売上高の減少率から、原子力事故以外の原因による売上高の減少率を控除することとしているが、平成二十三年九月二十一日に、同年三月十一日から同年八月三十一日までの原子力事故以外の原因による売上高の減少率の基準(以下「減少率の基準」という。)を二十パーセントと設定したところ、観光庁が同年十月二十五日に発表した「宿泊旅行統計調査」等を踏まえ、同月二十六日に、減少率の基準を、同年三月十一日から同年五月三十一日まで二十パーセント及び同年六月一日から同年八月三十一日まで零パーセント、又は同年三月十一日から同年八月三十一日まで十パーセントの選択制とし、同年九月一日以降の減少率の基準を零パーセントに改めることとしてこれを発表し、従前の請求分にもこれを適用することとしているところである。
 政府としては今後とも東京電力株式会社に対して被害の実態に沿った適切な賠償金の支払を促してまいりたい。