質問主意書

第180回国会(常会)

質問主意書


質問第二四九号

幌延における高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発の中止に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年九月五日

紙 智子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   幌延における高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発の中止に関する質問主意書

 北海道幌延町にある独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)幌延深地層研究センター(以下「深地層研」という。)は、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が成立(二〇〇〇年五月)した翌二〇〇一年に設立され、地下坑道を掘り進めながら高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究を行っている。今年四月には地底三百五十メートルまで立坑が貫通した。
 幌延には「放射性廃棄物を持ち込まない」とする協定を核燃料サイクル開発機構(原子力機構の前身。以下「核燃」という。)は、北海道、幌延町と二〇〇〇年に結んでいる。しかし、幌延町長が昨年の町議会で我が党議員の質問に、国から最終処分場の建設地選定の「文献調査」の申入れがあった場合は「検討課題」と答弁した(後に撤回)ことなどもあり、研究受入れから、やがては最終処分場を受け入れるのではないかとの警戒感は消えない。札幌市議会は今年六月、このような幌延の動きに関連し、「北海道を高レベル放射性廃棄物の最終処分場にしないことを求める意見書」を賛成多数で可決している。
 歴史的には、一九八〇年代初頭の幌延町の原子力関連施設誘致が発端とされるが、八四年には動力炉・核燃料開発事業団(原子力機構の前身。以下「動燃」という。)が「貯蔵であって処分ではない」として放射性廃棄物「貯蔵工学センター」を提案し、八六年には機動隊に守られながらのボーリング機械搬入、ヘリコプターでの深層ボーリング用機材搬入など、動燃の相次ぐ「立地環境調査」強行策があった。
 当該幌延の地質学的環境は、八〇年代の反対運動の広がりの中で調査を進めた地質学などの専門家が、新しい地質時代の堆積岩で地下水・ガスの含有があり、割れ目が多いことなどから核廃棄物処分場の建設はあり得ないという警告を発し、海外の専門家からも支持された経過がある。
 こうしたことから、以下、幌延の地質、地殻変動帯の現状について政府の認識をただすとともに、深地層研の研究の現状及び幌延の適地性について、政府の見解等を質問する。

一 幌延の地質学的環境について

 政府が進めようとしている高レベル放射性廃棄物の地層処分とは、地下の安定な地質環境に、人工バリア(ガラス固化体・オーバーパック・緩衝材)と天然バリア(天然の地質環境)からなる多重バリアシステムを構築して、廃棄物からの放射能を何十万年という長期にわたって人間の生活環境から安全に隔離するというものである。地下の深さ三百メートルから千メートル程度の地中に、二~三キロメートル四方の水平的な地下空間と処分坑道を掘削し、四万本のガラス固化体を埋設することが考えられている。
 ガラス固化体からの放射能が人間環境に影響するのは、主に地下水によって放射性核種が溶け出して地表まで運ばれることによるため、人工バリアの性能とともに天然バリアの地質(地層)の適切さが必須要件となり、地下水・ガスの含有があり、割れ目の多い地質は不適である。
1 幌延の地質の大半は新第三紀(二千三百万年前~二百六十万年前)及び第四紀(二百六十万年前~現代)からなる新しい地層である。地層は泥岩を主体とした堆積岩であり、それは東西に圧縮を受けて褶曲し、断層・割れ目も多く、割れ目伝いには上から地下水の浸透もある。かつて幌延炭鉱では立坑が掘れないほど地盤が安定せず、斜坑や素掘りが一般的であった。こうした地質環境は一般的に放射性廃棄物の最終処分場には不適ではないか。
2 堆積岩を地層処分の対象として検討しているスイスのモン・テリ地下岩盤研究所では国際共同研究が行われており、原子力機構も参加している。その対象となる堆積岩の地質時代はジュラ紀(二億年前~一億四千五百万年前)であり、幌延の実験サイトの堆積岩(新第三紀後期中新世から鮮新世一千万年前~二百五十万年前頃の声問層・稚内層)と比べはるかに古くかつ硬い岩石である。モン・テリサイトでは水が移動し難く、割れ目も少ないこと、卓越した不透水性の条件にあることが、地下科学実験プロジェクトが実施された理由である。
 こうした事例からみても、割れ目の少ない不透水性の地層(地質)が存在し、かつ、周囲からの地下水の流入が少ない土地を選ぶことが最終処分場の必須要件で、その研究が求められているのであり、割れ目が多く、水・ガスの移動があり得る幌延は研究地としても不適で、幌延のデータは無用なのではないか。また、他の地域での地層処分に活かせるとするならばその理由は何か。
3 その他ヨーロッパ大陸では、白亜紀(一億四千五百万年前~六千六百万年前)堆積岩の中の泥岩・頁岩(けつがん)を地層処分の研究対象としているドイツの処分場候補地ゴアレーベンの事例がある。ここでは、泥岩・頁岩そのものではなく、それらの中の岩塩ドーム構造中に封じ込めようというものであり、割れ目がほとんどない均質な岩塩層という特殊な環境を利用しようというものである。フランスの地下研究所ビュールはジュラ紀、スイスのモン・テリ地下岩盤研究所、グリムゼル試験サイトもジュラ紀など、幌延と比べはるかに古い地質時代の安定した地層を処分地対象として検討している。
 アメリカ合衆国の処分サイトとして二〇〇二年に決定したネバダ州ユッカマウンテンは凝灰岩、地質時代は新第三紀で、〇八年九月から処分場の建設許可に関する安全審査が行われていたが、一〇年三月に許認可申請の取下げ申請が行われ、今年二月現在、中止の方針となっている。
 欧米諸国その他の中で、幌延のように新第三紀、第四紀の堆積岩で、地層処分の研究地及び最終処分場(候補地を含む)と決定している場所があるか。その国名・地名について、政府の承知するところを示されたい。

二 北海道北部の地殻変動と地下構造の将来の変化について

 北海道は現在、太平洋プレート、ユーラシアプレート及び北米プレートの三大プレートの衝突の場にあるとされ、北海道北部は更に細かくとらえると、ユーラシアプレートの一部のアムールプレートと北米プレートの一部であるオホーツクプレートが衝突し東西に圧縮を受ける地域であるとされている。その影響で南北に延びる数列の活断層帯、いずれも逆断層が分布している。北海道北部の豊富町から幌延町を経て、天塩町に至る長さ約四十四キロメートルのサロベツ断層も主要活断層の一つであるとされている(『北海道の地震と津波』二〇一二年、笠原稔ほか編著)。
 文部科学省地震調査研究推進本部は二〇〇五年、「主要活断層」の十二カ所の追加指定にサロベツ断層帯を加え、二〇〇七年の評価で「この断層帯は長さからみてマグニチュード七・六程度の地震が発生する可能性があり、断層帯近傍の地表面では、三~四メートル程度の隆起が生じる可能性がある、今後三十年間に地震が発生する可能性が、我が国の主な断層帯の中では高いグループに属する」としている。
1 活断層調査が進む中で、調査手法が新たな課題となっている。震源断層である低角度の逆断層は地下に隠れていることが多く、これらは、地表では「地形の高まり」や「たわみ」などと認識されるが、地下に隠れた断層の評価は現在の調査手法だけでは難しいとされる。調査の精度が悪く信頼度の低い断層もあり、専門家からは断層帯全体の地史や地下構造を考慮した研究を推進する必要性が指摘されている。
 サロベツ断層帯周辺、すなわち深地層研周辺の地下にも隠れた逆断層が多数存在する可能性があり、これらは直下型地震の震源となる可能性もあるものだが、今後どのように調査していくのか。また、この断層帯の南北にはそれぞれ海底に延びる活構造も知られているが、その調査はどう進めているのか。
2 中国東北部からロシア極東にかけて広がるアムールプレートが日本列島北部~サハリン(オホーツクプレート)に衝突するプレート構造運動は、サハリンから新潟にかけてのプレート境界上に連続して大地震を起こしており、日本海東縁変動帯(地震帯)とも呼ばれている。最近では、一九八三年の日本海中部地震(M七・七)、九三年の北海道南西沖地震(M七・七)、九五年の北サハリンネフテゴルスク地震(M七・五)、二〇〇〇年のウゴレゴルスク付近(サハリン)地震(M七・一)、〇四年新潟県中越地震(M六・八)、留萌支庁南部地震(M六・一)、〇七年新潟県中越沖地震(M六・八)などがある。これらは南北に一直線に並んでおり、その線上で北海道北西沖(道北日本海側)は空白域といわれている。
 留萌支庁南部地震(〇四年)では、地震発生後の余震調査により、地震断層すなわち活断層の地下でのリアルな姿(東側上がりの逆断層)が北海道内で初めて明らかにされた。このように幌延地域を含む北海道北部地域(カムイコタン帯と呼ばれる蛇紋岩帯の西側)では、現実に直下型の浅発地震が多発しているが、このような状況をどう認識しているのか。
3 幌延を含む道北日本海側は、プレート境界上にあり地殻変動の激しい地域である。仮に高レベル放射性廃棄物を深さ三百五十メートルに埋設したとしても、一万年~十万年の時間の単位でみると、その位置が十~百メートル上下に変位する可能性が高い場所との指摘がある。具体的に研究サイト(立坑)は大曲~豊富断層という北海道北部での第一級の断層に隣接している場所にある。そうした地殻変動帯における地層処分が生活環境から放射能を隔離できると責任を持って言えるのか。
4 幌延町長は、昨年六月の町議会で我が党議員の質問に、国が高レベル放射性廃棄物処分場建設に向けた建設地選定のための「文献調査」を申し入れた場合、その対応を「これから検討する課題」と答弁し(後に撤回)、研究受入れから、やがて処分場受入れにつなげるのではないかとの懸念がますます強まった。
 札幌市議会では今年六月十三日、このような幌延の動きに関連し「北海道を高レベル放射性廃棄物の最終処分場にしないことを求める意見書」を賛成多数で可決した。同意見書では、「研究終了後は地下に埋め戻すとしているが、福島第一原発事故に伴い、放射性廃棄物処理・処分問題が急浮上し、幌延町を最終処分場にすることが懸念される。(中略)北海道は、食料自給率百八十七パーセント(二〇〇九年度)を誇る食料生産地であり、自然豊かな大地を守り、次世代に引き継ぐことこそ、日本における北海道の果たすべき役割である。よって北海道においては、道民が安心して生活できる環境を保持するため、北海道を高レベル放射性廃棄物の最終処分場にしないよう強く要望する」としている。
 百九十万市民を擁する道都札幌市議会の意見書可決は極めて重みを持つものだが、どう受け止めるか。処分場建設を前提とした文献調査の申入れなどは当然行うべきではないが、どう認識しているか。

三 深地層研の研究費、建設費について

 核燃が二〇〇〇年に幌延で配布した「深地層研究所(仮称)の概要」(以下「概要」という。)における予算見込みは、施設の設計・建設費は三百十億円で、内訳は、地上施設(研究試験棟、機器整備倉庫、岩芯倉庫(コア管理棟)など)が約百十億円、地下施設(試験坑道、連絡坑道、通気立坑等)が約二百億円、それ以外に付帯施設(展示館、国際交流施設、厚生施設など)が約三十億円、調査・研究費は毎年度約三十五億円(二十年間)で、総計千四十億円であった。深地層研及び原子力機構は、この千四十億円の予算見込みは維持すると説明している。
 また、瑞浪市では「地層処分は受け入れない」として、地層研究に限定した「協定書」を核燃と締結したため地層処分研究は行われず、幌延のみが地層処分研究を行っている。
1 文科省が私の事務所へ提出した資料によると、初年度二〇〇〇年度から二〇一二年度までに地上施設は三十六億三千五百万円(当初予算見込みの三十三パーセント)、付帯施設はゆめ地創館八億六千八百万円、国際交流施設は三億五千七百万円の計十二億二千五百万円(同四十・八パーセント)で、高額とはいえ見込みの三~四割だが、地下施設は当初予算見込み二百億円のうち、既に百七十七億七千万円(同約八十八・五パーセント)を投じている。
 しかも、地下五百メートル、坑道総延長約三・五キロメートルの計画に対し、現状は地下三百五十メートルで、八月二十日現在の掘削延長は約一・四キロメートルと四割の進捗率である。
 既に地下施設建設費は当初見込みを大幅に超過しているのではないか。もう一本の立坑も含め計画どおりに五百メートルまで掘り進むことになれば、更にどれくらいの費用を要するのか。幌延の地下水・ガスを含有する地質が、当初の予想を大幅に超える建設費となった原因ではないか。
2 当初、研究費は毎年度約三十五億円、二十年間で合計七百億円を予定していたが、二〇〇二年度から〇四年度までが例外的に十億円を超えた以外は毎年度ほぼ数億円規模で、研究開始から十三年目の今年度までで百三億円(センター運営費二十一億円を含む)、当初見込み四百五十五億円のわずか二割程度にとどまっている。この数字は瑞浪(同約四十六パーセント)と比較しても極端に低いものである。この理由は何か。研究施設として有用なものではないことの現れではないか。
3 概要では、「開かれた研究をめざして」を掲げ、第一の目標に、「国際的研究拠点をめざす」として、「国内はもとより海外の研究機関や専門家にも広く参加を得つつ、総合的に研究を進める。とりわけ、深地層研究においては、国際共同研究の実施や研究者の招へいなどを積極的に進め、国際的に中核となり得る総合研究センターをめざす」と大きな目標を掲げた。しかし文科省・原子力機構が私の事務所に提出した資料によると、二〇〇〇年度の研究開始からこれまでに幌延を研究地とした国際共同研究はゼロ件(瑞浪もゼロ件)、研究者の招へいは国際特別研究員一名のみで、受入期間は二〇〇五年五月~同年八月のわずか四カ月となっている。これは瑞浪の招へい四名、受入期間(それぞれ一年八カ月、二年一カ月、三年一カ月、一年間)と比べてもあまりに短い。
 費用はすべて日本負担で、かつ、原子力機構の強い勧誘にもかかわらず招へいが進まないのは、古い時代の安定した地質を処分地対象として研究できる海外研究者にとって、幌延の地質のような新第三紀で地下水・ガスを含有した堆積岩のデータは到底役立つものではなく、研究成果にならない証左ではないか。欧米の研究者にとって、幌延が国際共同研究に値する利点はどこにあると考えているのか。
4 幌延町で活動を続ける「核廃棄物施設誘致に反対する道北連絡協議会」(久世薫嗣代表)はかねてから深地層研の決算の公開を求めており、深地層研は今年八月、二〇一一年度分を初めて公表すると表明した。当然の対応だが、原子力機構が二〇一一年四月~十一月の八カ月間に発注した事業のうち、七百十四件、二百七十七億円を原子力機構OBが再就職した二十九企業・団体が受注しており、「多額の税金を「ファミリー事業」に流していた」などと報道されたことから(「中日新聞」二〇一二年二月二十二日)、関係者は疑念を強めている。
 決算記録の保存期間は三十年であり、深地層研の事業に投入された文科省及び資源エネルギー庁予算がどのように使われたのか、これまでの全年度の決算をすべて明らかにすべきではないか。文科省、資源エネルギー庁及び原子力機構の認識を示されたい。
5 幌延が地殻変動帯に立地していること、また、その地質学的環境からみて、最終処分場建設はむろんのこと、研究地としても適地でないことは明らかである。
 これ以上の建設費、研究費予算を投入することは無駄遣いであり、早期閉鎖を行うべきではないか。

四 民間企業との人事交流について

 民間企業から原子力機構、深地層研及び瑞浪研究センターへの出向など、人事交流のそれぞれの実績について、発足年度からの人数を所属別、年度別に明らかにされたい。
 また、原子力機構から民間企業へのいわゆる「天下り」についても同様に示されたい。

  右質問する。