質問主意書

第180回国会(常会)

質問主意書


質問第二三二号

禁煙タクシーに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年八月十日

松 あきら   


       参議院議長 平田 健二 殿



   禁煙タクシーに関する質問主意書

 タクシー事業者団体が「禁煙タクシー」の自主的普及に努めた結果、平成二十三年一月に四十七都道府県にわたって、タクシーの全面禁煙化が進められた。
 しかし、タクシー事業者団体には、全てのタクシー事業者が加盟しているわけではない。タクシー事業者団体は、参加事業者に対しても禁煙車導入に関して強制する権限はなく、非加盟事業者に対しては、なおさらのことである。したがって、現在でも数パーセントの割合で非禁煙車の走行が全国的に見られる。そして、ハイヤーに関しての禁煙化は全く手つかずの状態で遅れている。
 平成十六年四月十四日、タクシー乗務員による総務省行政評価局宛の「タクシー禁煙化に関する要望書」に対して国土交通省が行政評価局へ寄せた回答によれば「タクシーは、一個の契約により旅客を輸送する事業であり、他の乗客と乗り合わすことがないため、利用者利便の観点からも一律に規制することは困難である」というものであった。しかしながら、この回答は、①複数乗客の一人が喫煙をすれば、乗り合わせた他の乗客に受動喫煙被害を及ぼすこと、②残留タバコ煙と悪臭は、次に利用する乗客に多大な迷惑を及ぼすこと、③運転者に対する受動喫煙被害が甚大であること等を見過ごしており、道路運送法の目的である利用者利便と安全運転の観点からも納得できないものである。
 また、現在、公共交通機関の中でタクシーだけは、事業者が自主的に「禁煙車である旨を表示」(一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款第四条の二)した場合にのみ、その存在が認められることになっている(ただし、神奈川県内においては、罰則付き条例により指定された「公共の場所」にはタクシーも含まれ、一律で喫煙禁止となるので、この条文の適用の余地がないと解される)。しかし、平成十六年三月に日本政府も批准した「たばこ規制枠組条約(FCTC)」第八条及びその実施のためのガイドラインでは、受動喫煙防止の立法措置の範囲には、タクシーも含まれており、違反者に対しては、①罰金などの金銭的不利益を科すべきこと、②営業免許の取消しなど行政的制裁も盛り込む必要があるとされている。
 よって、以下の三点について質問する。

一 旅客自動車運送事業運輸規則第五十三条第六号には「禁煙の表示のある自動車内で喫煙すること」と規定され、列車、バスなどにおいて旅客が喫煙することを禁止しているのは明白である。また、自動車交通局旅客課長通達「禁煙タクシーの導入に伴う留意事項について」(国自旅第一五五号)では、「無線等による予約配車」の場合において「禁煙車両を配車する場合には、旅客に対して、配車する車両が禁煙車両であって当該車内では喫煙することができないことをあらかじめ告知し、旅客と運転者の間におけるトラブルの防止に努めること」としており、やはり、旅客が禁煙車両内で喫煙することを絶対的に禁止しているものと解される。さらに、一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款第四条の二第一項においても、「当社の禁煙車両内では、旅客の喫煙を差し控えていただきます」とされ、タクシー事業者は旅客の喫煙を認めていないと解される。
 一方、同約款同条第二項では、「旅客が当社の禁煙車両内で喫煙し、又は喫煙しようとしている場合、運転者は喫煙を中止するように求めることができ、旅客がこの求めに応じない場合には、運送の引受け又は継続を拒絶することがあります」と規定されているにもかかわらず、旅客が喫煙を開始し、または、喫煙を開始しようとしている場合には、運転者の裁量により喫煙の続行または喫煙の開始を可能とする誤った解釈が横行している実態がある。事実、事業者と乗務員の中には、これを根拠に旅客の車内喫煙を容認するにとどまらず、奨励する者も存在する。
 したがって、現行の一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款第四条の二第二項については、同約款第四条の二第一項及び前記通達との整合性を図る観点から、旅客が車内で喫煙することを明確に禁止しているものと解される条文に改めるべきと考えるが、政府の見解を問う。

二 昭和三十一年に制定された旅客自動車運送事業運輸規則第四十九条第二項第三号には、乗務員の禁止行為として、「旅客の現在する事業用自動車内で喫煙すること」とある。
 このため「旅客の現在」しないタクシー内で喫煙することまでは禁止していないものと解釈して、空車時に車内で喫煙する運転者も存在する。この場合、その後に乗車する旅客は車内のたばこ臭に悩まされ、苦情を申し述べることも数多い。したがって、同規則第四十九条第二項第三号を「旅客の有無にかかわらず事業用自動車内で喫煙すること」に改正し、タクシー車両内での運転者の喫煙禁止を明文化すべきと考えるが、政府の見解を問う。

三 平成十八年、「タクシーの全面禁煙について」と題する申入書を「タクシー全面禁煙をめざす会」が北側一雄国土交通大臣(当時)に提出した。これに対し、同年五月一日、自動車交通局旅客課から「タクシー車両の全面禁煙化に係る国土交通省の考え方(回答)」なる文書が同会宛に発せられた。同文書二頁(二)には「当方としては、禁煙タクシーの導入については、基本的にタクシー事業者の自主的な取り組みによって行われるべきものと考えており、ご要望にあるような「全面禁煙」に向けた罰則つき法令の整備を行うことは、適当でないと考えております」との記述がある。
 しかしながら、①「FCTC」発効後既に七年が経過し、その間、締約国会議(COP一~四)が開かれ、喫煙規制の具体化のためには罰則が必要であることを日本を含む各国が確認していること、②タクシー事業者の自主的な取組によって、全国的に禁煙タクシーの導入率が九十パーセントを超えるまでに普及しているものの、タクシー事業者団体に加入していない事業者の中には、タクシー車内での喫煙を容認するよう運転者に指示している者も存在することから、禁煙タクシー制度の形骸化を防止する必要性がある等の観点から、鉄道営業法・海上運送法・航空法・神奈川県受動喫煙防止条例と同様の「罰則付き法令の制定」等所要の整備が喫緊の課題と考えるが、政府の見解を問う。

  右質問する。