質問主意書

第180回国会(常会)

質問主意書


質問第一五二号

国営土地改良事業による地形改変により悪化した中海の水質浄化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年六月二十日

田村 智子   


       参議院議長 平田 健二 殿



   国営土地改良事業による地形改変により悪化した中海の水質浄化に関する質問主意書

 「昭和の国引き」といわれた中海干拓・淡水化事業が中止されて十年が経過した。流れを遮断していた中浦水門、西部承水路堤など大きな構造物が撤去され、旧本庄工区の森山堤防も六十メートル開削が行われた。
 その後、中海は、二〇〇五年にラムサール条約に登録され、現在、中海干拓中止後の汽水環境の修復及び保全の取組が行われている。
 一方で、中海の水質浄化の取組は、「汽水環境の修復・保全」の目標から見ればその一歩を踏み出したに過ぎず、更なる努力が必要となっている。
 中海が「湖沼法」の指定を受け、水質浄化に取り組んで現在五期の半ばになる。この間、浄化のために莫大な税金が投下されてきたが、中海汚濁の原因が除去されないため、十分な効果を上げているとは言えない。
 漁獲量についても、昭和三十年代は年間平均で約二千トン~九千トン程度だったものが、十分の一以下に減少したままである。中海を、かつてのきれいで、豊かな海に再生させ、次代に生かすことが住民の悲願となっている。
 「国営土地改良事業が中止(失敗)した以上、元の姿に戻すのが自然へのエチケット」と中止した当時の片山鳥取県知事の発言に多くの住民が共感し、期待した。
 現在、住民、漁民、大学の専門家、自治体、国の出先機関や企業も参加する中海再生の取組がなされているが、国がこれらの粘り強い調査に基づく提案を受け止めた上で中海浄化事業に取り組まなければ中海の再生は出来ない。
 その観点から、以下質問する。

一 中海の水質汚濁の原因について、次のような指摘がなされている。①中海と外海との水交換の主要ルートであった本庄水域を大海崎・森山両堤防で閉鎖したため、反時計回りの水流が失われたことである。これは森山堤防の開削によっても十分回復しているとは言えない。②砂浜や遠浅の自然護岸は、垂直な人工護岸で固められたため、ヨシなどの湖岸の植生や浅場に生息する生き物が失われ、自然の浄化機能が損なわれてしまったこと。③干拓事業の際、中海の最大水深八・四メートルより深い(深いところは十メートル)浚渫窪地が、八百万平方メートル造られたことである。その結果、浚渫窪地にヘドロが堆積し、無酸素水域が発生、そのため赤潮が中海の七割に及ぶ水域で五月~十二月の間に発生するようになっている。なお、一九四八年から中学校の教師として、子どもたちと中海を調査され、浚渫窪地を最初に発見された岸岡務氏は、定時・定点調査を続け、「一九八〇年森山・大海崎堤防が完成した以降、海草は全滅し、汚濁が急激に進んだ。」と報告している。
 政府は中海の水質が急激に悪化した原因について、どう認識しているのか。中海水質悪化の原因に関するこれらの指摘に対する政府の見解を明らかにされたい。

二 中海の水質浄化のための事業(①中浦水門撤去、②堤防開削、③浅場の再生、④浚渫窪地の埋戻し、⑤揚水機場の撤去と通水、⑥本庄工区揚水機場の撤去と通水、⑦ヘドロの除去及び⑧その他の事業)に投入されたそれぞれの事業費と効果について具体的に示されたい。

三 森山堤防開削による効果についてモニタリングを行い、その結果を公表すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

四 森山堤防のわずか六十メートル(下部二十四メートル)の開削であっても、「チヌ(黒鯛)などの漁獲が増え、アサリなど場所により増えている」と漁業者が報告している。それは、「必ずしも水質が良くなったからではなく、外海と通じたことによる」とも指摘されている。国、県及び学者の水質調査では得られていない情報である。
 五月二十三日、鳥取県の出前説明会の際、この漁業者の報告に県側も、強い関心を示したと聞いている。「海の守り人」である漁業者や住民、そこに暮らす中海の研究者、浄化のための活動に真剣に取り組んでいる人々が、中海の変化や実態を最も知っている。住民参加型の策定プロセスでこそ効果的で効率的な中海再生の計画が出来ると考える。
 特に、漁業者は、この間の国の事業の効果を具体的に把握している。事業中止後、国等が行ってきた水質浄化のための事業と、その効果を漁業者・遊漁者・住民からも聞き取り、水質、生態系、漁獲量など全面的な調査と、継続的な中海の水質、生態系、漁獲量のモニタリングを行うべきではないか。そして、漁業者、住民、研究者など、住民参加による事業の見直しを行い、今後の中海再生事業に取り組むべきではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

五 漁業振興について、干拓工事の始まる前の中海は、「水一升に魚一升」と言われるほどの魚介類の宝庫であった。土地改良事業中止後、農水省の「本庄工区水産調査専門委員会」は、平成十一年一月二十六日の調査報告で「森山・大海崎堤防を開削して海水を導入した場合の水質改善予測では、良好な漁場環境が戻り、漁獲高は二・七倍と想定される」と報告している。委員の一人であった東京水産大学の水口憲哉教授は、「宍道湖・中海あわせて百億円の水揚げになる」と試算している。
 地域経済にとっても、水質浄化にとっても、魚介類の豊かな中海を取り戻すことが基本である。土地利用(干陸)を止めた以上、急いで計画を策定・推進する国の責任がある。鳥取・島根両県も一定の努力をしているが、政府が計画を一日も早く示すべきではないか、と考えるが、政府の見解を示されたい。

六 中海再生のためには、両堤防を開削し、反時計回りの流れを取り戻すことが基本と考える。大海崎堤防開削について、その財源措置も含めて国の見解を明らかにされたい。また、窪地の埋戻し、浅場の造成、本庄水域の底に造られた道の跡(でこぼこ)の改善なども必要と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。さらに、具体的な計画があれば、詳細を明らかにされたい。

  右質問する。