質問主意書

第180回国会(常会)

質問主意書


質問第八三号

放射性物質による汚染瓦礫の焼却処理等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十四年四月十二日

川田 龍平   


       参議院議長 平田 健二 殿



   放射性物質による汚染瓦礫の焼却処理等に関する質問主意書

 東京電力福島原発事故により、放射性物質に汚染された瓦礫が東日本太平洋沿岸や関東の都県で大量に発生した。この大量に発生した瓦礫の処理に関して、今国会において質問主意書を数件提出したが、本件に関する疑問は依然として残る。
 一般廃棄物の焼却施設における放射性物質による汚染瓦礫の焼却は、世界でも前例のない処理方式である。この方式は、環境省の有識者会議「災害廃棄物安全評価検討会」における検討の上で採用されたとのことであるが、同検討会の資料を見るに、放射性物質の除去に関する科学的実証が行われずに検討されている。また、焼却施設やその周辺における放射能の基準が曖昧な状況の下で、この方式が採用され、科学的実証がないまま、放射性物質による汚染瓦礫が日本各地の一般廃棄物焼却施設で焼却され始めている。
 これらにより、国土全体へ放射能汚染が広がる可能性がある。さらに、同検討会では、誰もが納得できる科学的実証に基づき審議が進められてきたとは到底思えない。このようなその場しのぎの無責任なやり方では、広く国土を汚染させることになり、将来世代に対し安全・安心な国土を引き継げるのか極めて疑問である。
 これまでの措置は大災害のため暫定的なものとして、ある程度は許容される面があった。しかし、東京電力福島原発事故から一年以上が経過した現在、放射性物質による汚染瓦礫の処理方式の徹底的な見直しが図られるべきではないか。
 以上の観点から、以下質問する。

一 放射性物質による汚染瓦礫の一般廃棄物焼却施設での処理について

1 政府内において、焼却以外の多様な処理・処分方式が検討されたのか。一定の遮蔽措置を講じた上で焼却せずにそのまま埋め立てる方式、遮蔽した貯蔵施設に保管する方式、瓦礫を覆土しそこに植林する方式など、その他の方式は検討されなかったのか。これらの方式の検討結果を示すとともに、採用されなかった理由を示されたい。
2 放射性物質による汚染瓦礫について、処理対象外であった一般廃棄物焼却施設において焼却することができると同検討会が判断する根拠となった報告書は、京都大学の高岡准教授の「一般廃棄物焼却施設の廃ガス処理装置におけるCa、Srの除去挙動」と思われる(環境省作成パンフレットにも掲載)。しかし、同報告書は、目的、採取日、採取場所、バグフィルターの仕様、ガス態の濃度根拠などが不明であり、結語もなく、科学的実証に基づく報告書とは評価し難いとの指摘もあるところ、放射性物質に汚染された瓦礫の焼却によって生じる放射性物質を除去する根拠とするには、あまりに不十分である。同検討会で焼却を可とすることになった根拠について、同報告書で問題ないのか、政府の見解を示されたい。
3 同検討会の各委員は、放射性物質による汚染瓦礫の焼却処理をどのように評価したのか示されたい。また、各委員は各自の専門の研究において放射性物質とどのように関わってきたのか個別に示すとともに、この国の未来を考えた上でこの焼却方式を今後も採用していくことをどのような根拠に基づき推奨したのか示されたい。
 この点に関して、詳細な議事録が公表されていないために、議論の経過が全く不明である。このような国民にとって重大な問題を議論する場となる同検討会の議事録本体が公表されないのは、情報公開の観点から問題であると考えるが、公表しない理由を示されたい。また、今後、議事録を公表する予定はあるのか、政府の方針を示されたい。
4 一般廃棄物焼却施設のフィルターで、セシウムを含む放射性物質は確実に除去できるのか。この点に関して、フィルターにより除去された放射性物質量、大気へ放出された放射性物質量、焼却灰に残存する放射性物質量等の関係について、科学的に調査された報告書等があれば、政府の承知するところを明らかにされたい。東京電力福島原発事故から一年以上が経過した現在、科学的実証がないままに焼却処理を継続することは、国土の放射能汚染を広げるものであり、処理方式を早急に見直すべきだと考えるが、政府の見解を示されたい。
5 放射性物質による汚染瓦礫の正確な分別は困難である。例えば、瓦礫内にはポリ塩化ビニル、アスベスト等の有害物質の混入が避け難く、焼却によるダイオキシン類の発生等が心配されるが、政府はどのような対策を講じているのか。

二 一般廃棄物焼却施設における放射性物質の実際の測定について

 既に放射性物質による汚染瓦礫を焼却処理している自治体があるが、フィルターにより除去された放射性物質量、大気へ放出された放射性物質量、焼却灰に残存する放射性物質量等の実際の測定結果があれば、政府の承知するところを示されたい。また、焼却施設周辺の一般環境中の放射性物質の濃度も併せて示されたい。さらに、焼却炉形式やフィルター・電気集塵機などの形式の相違により、放射性物質の回収率はどの程度異なるのか。政府が実証実験を行っている場合には、その結果を示されたい。併せて、科学的実証に基づく報告書等があれば、政府の承知するところを明らかにされたい。

三 セシウムの性質を利用した処分方式について

 セシウムはある種類の粘土鉱物に強く吸着される性質がある。これにより、米や野菜など畑作物への吸収が少なくなったとも聞いている。この性質を利用し、一定の遮蔽措置を講じた上で低濃度の汚染瓦礫に限り埋め立てる方式を採用すれば、仮にセシウムの一部が溶け出したとしても、周辺の粘土鉱物により吸着させ、汚染の広がりを防ぐことができる可能性がある。既に汚水処理でゼオライトなどを使用し、セシウムを除去している例もあるが、放射性物質による汚染瓦礫の処理には、なぜこうした方式を用いないのか、その理由を示されたい。

四 クリアランス制度との整合性について

1 クリアランス制度では、周辺地域の住民の被ばく線量を年間十マイクロシーベルトとし、セシウム134及び137の濃度がそれぞれ一キログラム当たり百ベクレル以下の廃棄物について、再利用や産業廃棄物の最終処分場で処分することが可能になっている。他方、東京電力福島原発事故によって生じた放射性物質による汚染瓦礫中、放射性セシウムが一キログラム当たり八千ベクレル以下の場合は一般廃棄物の最終処分場(管理型最終処分場)に埋め立てることが可能になっている。なぜ、産業廃棄物ではなく一般廃棄物の最終処分場に埋立て可能なのか。原発の解体によって発生する一キログラム当たり百ベクレルから八千ベクレルまでのレベルの廃棄物についても、一般廃棄物の最終処分場に埋立処理が可能なのか。
2 原発事故によって生じた放射性物質による汚染瓦礫等についても、クリアランス制度と同じく一キログラム当たり百ベクレル以下は埋立てを認めるとしても、それ以上は放射性廃棄物として管理された処分場にて処分されるべきではないのか。これらも同じく放射性物質により汚染された廃棄物であり、同一の基準で処分されるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

五 放射性物質に関する環境法体系について

1 環境基本法第十三条には「放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び土壌の汚染の防止のための措置については、原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)その他の関係法律で定めるところによる。」とある。「汚染の防止のための措置」は、原子力基本法の制定後の五十年以上の間に、どのように具現化されてきたのか。また、具現化されていない場合、その理由は何か。
2 環境汚染防止のための計画の策定、放射性物質に関する環境基準の設定、事業所からの排出規制などの「汚染の防止のための措置」が講じられてこなかったことに加えて、大量の放射性物質が飛散した「汚染後」を想定した対応について環境基本法等に規定がなく、何ら対策が講じられてこなかったことが、東京電力福島原発事故後の環境行政を始めとする政府の対応の混乱に拍車を掛ける一因となったと考えるが、こうした法の欠缺について、政府の見解を示されたい。また、政府が国会に提出している「原子力の安全の確保に関する組織及び制度を改革するための環境省設置法等の一部を改正する法律案」は、環境基本法第十三条の規定を削除し、新たな法整備を行うものと承知しているが、「汚染の防止のための措置」及び「汚染後」を想定した対応について、今後の政府の方針を具体的に示されたい。
3 放射性廃棄物が一般廃棄物焼却施設で処理される際の原子力基本法等における規制等に関して、①一般廃棄物焼却施設で受入れ可能な廃棄物の放射性物質の基準、②焼却施設の排気筒における放射性物質の基準、③焼却施設の敷地境界における放射性物質の基準、④清掃従事者を放射性物質から守るための基準、⑤焼却施設内の設備における放射線の管理基準、⑥焼却灰や汚泥などを埋立処理する際の放射性物質の基準、⑦焼却灰や汚泥など再利用する場合の放射性物質の基準及び⑧清掃従事者の放射線防護や放射線に関する知識・教育に関する法制度について、項目毎に具体的に説明されたい。また、これらの規制等が現存する場合、今後の見直しの方針を示されたい。

六 放射性物質による汚染廃棄物の埋立処分場の数百年にわたる表示について

 セシウム137の半減期は三十年であり、その十倍の三百年で約千分の一にまで放射能は減衰する。したがって、現在、埋立処理が各地で始まっているが、今後数百年間、埋立地を掘り返したり、処分場の跡地を利用することによる被ばくの懸念がある。少なくとも三百年は厳重に管理し、将来世代に対して迷惑をかけない配慮が必要である。放射性物質に汚染された埋立地について、今後、どのように管理し、将来へその履歴を引き継いでいくのか、政府の具体的な方策を示されたい。

  右質問する。