質問主意書

第177回国会(常会)

答弁書


答弁書第二八九号

内閣参質一七七第二八九号
  平成二十三年九月九日
内閣総理大臣 野田 佳彦   


       参議院議長 西岡 武夫 殿

参議院議員紙智子君提出再生可能エネルギーの適切な推進に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員紙智子君提出再生可能エネルギーの適切な推進に関する質問に対する答弁書

一の1について

 環境省が実施した「平成二十二年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」(以下「導入ポテンシャル調査」という。)においては、既設の陸上風力発電施設の稼働状況並びに風力発電関連団体及び学識経験者の意見を踏まえ、陸上風力発電事業における最低限の事業可能性を有する地点として、地表面からの高さ八十メートルでの年間平均風速が毎秒五・五メートル以上の地点を選定している。
 御指摘の「施設稼働率」が、陸上風力発電施設において、定格出力を一定期間維持することにより得られる電力量に対する当該一定期間に実際に発電する電力量の割合である設備利用率であるとすると、年間平均風速を毎秒五・五メートル又は毎秒六・五メートルとした場合の設備利用率は、導入ポテンシャル調査の報告書によると、それぞれ十五・八パーセント又は二十三・五パーセントである。
 御指摘の「通常、風力発電施設の採算が見込まれる風速、施設稼働率」については、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成二十三年法律第百八号。以下「特別措置法」という。)第三条に規定する調達価格及び調達期間が、現時点では決まっていないこと等から、お示しすることは困難である。

一の2について

 お尋ねの「居住地からの距離」については、一律に健康に影響を及ぼさない距離を示すことは困難であるが、導入ポテンシャル調査においては、風力発電関連団体及び学識経験者の意見等を踏まえ、居住地からの距離が五百メートル未満の地点は開発できないことを前提として、導入ポテンシャルを推計している。

一の3について

 お尋ねについては、鳥類の生息等に関する詳細な情報が得られていないことから、導入ポテンシャルの推計に当たって勘案していない。

一の4について

 新エネルギー等導入加速化支援対策費補助金における平成十三年度から平成二十二年度までの過去十年間において採択した事業のうち、太陽光発電、風力発電、水力発電、バイオマス発電及び地熱発電の交付実績額及び予定導入量の合計は、それぞれ次のとおりである。ただし、平成二十一年度及び平成二十二年度に採択した事業のうち、現時点で完了していない事業に対する当該補助金については、当該事業の必要経費が確定していないことから、事業完了時に一部が国庫に返納されることもあり得る。また、途中で中止された事業に対する当該補助金は計上していない。
 太陽光発電 四百三十六億千二百八十二万六千四百二十三円 十八万四千六百五十四キロワット
 風力発電 千三百五十億七千二百五十一万千七百八十二円 二百二十七万千百二十八キロワット
 水力発電 三十七億七千百四十七万四千八百八円 一万三千五百六十七キロワット
 バイオマス発電 二百八十五億八千二百八十三万五千八百四十九円 四十九万千九十七キロワット
 地熱発電 交付実績無し
 また、当該補助金については、民間事業者等からの交付申請に基づき、実施計画書に係る事業の計画が確実かつ合理的であり、かつ、設備導入後に設備の運営管理が確実にできる等の要件を満たした場合に、当該民間事業者等に交付している。

一の5について

 特別措置法の趣旨を踏まえ、地熱を用いて発電される電気を含む再生可能エネルギー電気の調達に関する制度の活用等を通じて、引き続き地熱発電の開発を推進してまいりたい。

一の6について

 再生可能エネルギーの導入の拡大については、今後のエネルギー政策の在り方を議論する中で、関係省庁が行う導入ポテンシャルに関する調査や、関係研究機関及び国民各層の意見等を踏まえつつ、検討してまいりたい。

二の1について

 御指摘の「アセス法の対象となる水準」については、平成二十三年六月に環境省が公表した「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書」(以下「検討会報告書」という。)を踏まえ、苦情等の発生状況を含む騒音・低周波音による健康影響及び動植物・生態系への影響のほか、条例等に基づく環境影響評価の取組、環境影響評価法(平成九年法律第八十一号)の対象となる発電事業のカバー率及びエネルギー政策との関係を総合的に勘案の上、環境影響評価法施行令(平成九年政令第三百四十六号)において、適切に定めてまいりたい。

二の2について

 お尋ねについては、風力発電事業が環境影響評価法の対象事業に追加された後は、同法に基づき事業者が実施する環境影響評価において、検討会報告書を踏まえ、地域の特性や生息する鳥類を勘案しつつ、その生息環境の消失・分断化等の直接的影響と、その採餌及び繁殖行動への影響や移動経路の阻害等の間接的影響について、十分な予測・評価がなされるものと考えている。

二の3について

 環境影響評価法に基づく環境影響評価手続においては、事業による環境への影響を的確に把握し、必要な評価項目について十分な評価がなされるよう、関係都道府県知事が意見を述べるものとされているほか、当該事業の主務大臣及び環境大臣が意見を述べることができること等とされている。こうした手続を通じて、環境の保全の見地から、評価項目の適切な重点化・絞り込みがなされるものと考えており、御懸念の事態は一般に想定されない。

三の1から3までについて

 風力発電施設の周辺住民の健康影響の原因について、様々な指摘があることは承知しているが、一般に、健康影響と風力発電施設の稼働との間の関係については現時点では明らかとはなっていないものと承知しているため、風力発電を行う民間事業者等に対して健康被害を理由とした指導は行っていない。今後の風力発電施設に係る騒音・低周波音への対応については、環境省が平成二十二年度から三年間の計画で実施している「風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究」の結果等を踏まえ、検討してまいりたい。
 また、政府としては、風力発電施設の設置については、地元の理解を得た上で実施されるべきものと考えており、例えば、民間事業者等が風力発電施設を設置する際の費用の一部を補助するに当たっては、申請者に地元住民との協議等の実施を求めてきたところである。なお、地元住民との協議等の実施方法については、当該申請者の判断に委ねていたことから、御指摘の説明会の対象範囲や、民間事業者等による第三者への個々の対応の適切性等についてお答えすることは差し控えたい。

三の4について

 御指摘の「風力発電のための環境影響評価マニュアル」(以下「評価マニュアル」という。)は、風力発電施設の設置に係る環境影響評価の一つの手法を指針として示したものであり、その中で、民間事業者等が騒音に係る環境影響を調査すべき地域として「対象事業実施区域及びその周辺、半径五百メートル前後の範囲内」を示しているところ、銭函風力株式会社(以下「銭函風力」という。)は、評価マニュアルに準じて自主的に環境影響評価を行っているものと承知している。

三の5について

 御指摘の「平成二十三年度風力発電施設等に係る改正アセス法手続先行実施モデル事業」は、風力発電事業が環境影響評価法の対象事業に追加される前に、方法書の作成に向けた先行的な取組を行うことにより、風力発電施設等に対する適切な環境影響評価の推進を図ることを目的として実施しているものである。環境省においては、当該事業の趣旨に照らして、各事業者からの提案内容について、事前環境調査の内容及び方法書の先進性等の観点から審査を行い、御指摘の四社による事業を採択したものである。

四の1について

 評価マニュアルにおいては、環境影響評価の対象事業実施区域に、風力発電事業に伴い設置される取付道路等は含まれていない。一方、風力発電事業が環境影響評価法の対象事業に追加された後は、同法に基づき事業者によって実施される環境影響評価において、取付道路等も対象事業実施区域に含まれることとなり、改変される土地の面積をより適切に把握できることになるものと考えている。

四の2について

 環境影響評価法に基づき事業者によって実施される環境影響評価手続において、専門家等の助言を受けた場合には、当該助言の内容及び当該専門家等の専門分野を明らかにしなければならないこととしているが、その専門家の氏名については、開示すべきものとはしていない。
 また、海岸等において過去に損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻す取組として、干潟や藻場の保全又は再生を目的に、自然再生推進法(平成十四年法律第百四十八号)に基づく自然再生事業等が、様々な主体により各地で行われているものと承知している。

四の3について

 風力発電施設の設置により、自然環境等への影響が生じるとの指摘がなされていることは承知しており、風力発電施設の設置に当たり、自然環境等の保全等との両立を図る必要があると考えている。
 御指摘の銭函風力が実施する銭函風力開発建設事業については、銭函風力が自主的に環境の保全の見地から環境影響評価を行っているものと承知している。

五について

 御指摘の「大型風車から発生する超低周波音(二十ヘルツ以下)」を含む風力発電施設から発生する騒音・低周波音が環境に及ぼす影響の評価方法は、現在のところ確立されていない。このため、環境省では、これまで、騒音・低周波音に関する苦情が寄せられている風力発電施設について、その実態調査等を行っているほか、三の1から3までについてで述べた研究を行っているところであり、これらの調査及び研究の結果等を踏まえ、環境影響に関する適切な予測・評価手法を確立し、その普及に努めてまいりたい。