質問主意書

第177回国会(常会)

答弁書


答弁書第一一〇号

内閣参質一七七第一一〇号
  平成二十三年三月十八日
内閣総理大臣 菅 直人   


       参議院議長 西岡 武夫 殿

参議院議員渡辺猛之君提出酒類の不当廉売等に対する規制に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員渡辺猛之君提出酒類の不当廉売等に対する規制に関する質問に対する答弁書

一について

 公正取引委員会は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号。以下「独占禁止法」という。)に違反する事実があると認められたときは、独占禁止法の規定に基づき排除措置命令又は課徴金納付命令(以下「法的措置」という。)を行っている。また、法的措置をとるに足る証拠が得られなかった場合であっても、独占禁止法違反の疑いがあるときは警告を行い、独占禁止法違反行為の存在を疑うに足る証拠は得られなかったが、独占禁止法違反につながるおそれのある行為がみられた場合には、違反行為の未然防止を図る観点から注意を行っている。
 平成十二年度から平成二十一年度までの十年間において、独占禁止法第四十五条第一項の規定に基づき行われた報告(以下単に「報告」という。)のうち、酒類の流通における不当廉売に関するものは一万二千四十六件、差別対価に関するものは八十一件、優越的地位の濫用に関するものは十七件であった。また、同期間において、酒類の流通における不当廉売に関して行われた法的措置は零件、警告は十七件、注意は八千六百九十三件、差別対価に関して行われた法的措置は零件、警告は零件、注意は九件、優越的地位の濫用に関して行われた法的措置は零件、警告は零件、注意は一件であった。

二について

 報告が書面で具体的な事実を摘示してされた場合において、当該報告に係る事件について、適当な措置をとり、又は措置をとらないこととしたときは、公正取引委員会は、独占禁止法第四十五条第三項の規定に基づき、速やかに、その旨を当該報告をした者に通知しなければならないとされている。
 平成十二年度から平成二十一年度までの十年間において、酒類の流通における不当廉売、差別対価又は優越的地位の濫用に関して行われた報告の数に対する同項の規定に基づき行われた通知の数の割合は約九割であった。また、これらの通知事案のうち、法的措置をとった旨通知したものは零件、警告を行った旨通知したものは八件、注意を行った旨通知したものは八千五百四十七件、措置をとらなかった旨通知したものは二千九百十九件であった。

三について

 政府としては、不当廉売、差別対価、優越的地位の濫用等中小事業者に不当に不利益を与える行為に対して、独占禁止法の規定に基づいて厳正かつ的確に対処するため、これまでも公正取引委員会の体制を強化してきたところである。
 平成二十三年度予算において公正取引委員会の体制の強化に係る経費を計上しているところ、今後とも厳しい行財政事情を踏まえながら、公正取引委員会について所要の体制の確保に努めるとともに、その事件処理の能力の向上を通じて事務の効率化を図ることにより、独占禁止法違反行為に対して厳正かつ的確に対処してまいる所存である。

四について

 酒類の流通における廉売については、複数の酒類販売業者が相互に対抗して廉売を繰り返すなどの特性を有していることから、周辺の酒類販売業者に対する影響が拡大する前に迅速な処理を行うことが極めて重要である。そのため、公正取引委員会では、不当廉売に係る事案(以下「不当廉売事案」という。)について、報告から処理結果を通知するまでの目標処理期間を原則二か月以内とし、多数の事案の迅速な処理に努めているところであり、この運用方針は、酒類の流通における不当廉売事案の特性に照らし、適切なものと考えている。他方、大規模な酒類販売業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案であって、周辺の酒類販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては、周辺の酒類販売業者の事業活動への影響等についても調査を行い、問題のみられる事案については、法的措置も含め厳正に対処することが必要であると考えている。

五について

 公正取引委員会は、警告等を行った事業者に対しては、違反行為の未然防止等の観点から、その後の価格動向について情報収集を行っている。また、過去に注意を受けてもなお再び注意を受けるような事業者に対しては、事案に応じて、責任者を招致するなどした上で直接注意を行っているほか、周辺の酒類販売業者に対する影響が大きいと考えられる場合には、周辺の酒類販売業者の事業活動への影響等についても調査を行い、問題のみられる事案については、厳正に対処することとしている。

六の1について

 不当廉売とは、事業者間の公正な競争を確保する観点から独占禁止法第十九条で禁止される行為のうち、正当な理由がないのに商品若しくは役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、又は不当に商品若しくは役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものをいう。
 なお、国税庁においては、平成十八年八月三十一日に発出・公表した「酒類に関する公正な取引のための指針」の中で、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(昭和二十八年法律第七号。以下「酒類業組合法」という。)第八十四条の規定に基づく酒税保全のための勧告又は命令を行うか否かの判断基準にも用いられるものとして、「合理的な価格の設定」についての考え方を示している。

六の2について

 公正取引委員会においては独占禁止法を、国税庁においては酒類業組合法を所管し、それぞれ独立して運用しているところであるが、公正取引委員会及び国税庁においては、公正取引委員会の地方事務所等と国税局等との間も含めて、酒類の流通における不当廉売事案等についての相互の連絡体制を確保し、定期的な会議の開催、随時の情報交換等を行うなどして緊密な連携を図っているところである。
 また、公正取引委員会においては、国税庁の専門的知見を活用して酒類の流通における不当廉売事案等により的確に対処するため、国税庁から職員の出向を受け入れている。
 公正取引委員会及び国税庁としては、今後とも、こうした連携・協力体制の強化を図っていくこととしている。

七について

 公正取引委員会においては、酒類の販売の実態を注視するとともに、独占禁止法に違反する不当廉売、差別対価又は優越的地位の濫用に該当する事実が認められた場合には厳正に対処することとしている。
 なお、これらの違反行為の抑止を図るため、平成二十一年の独占禁止法の改正により、不当廉売及び差別対価に関しては当該行為を繰り返した事業者について、優越的地位の濫用に関しては当該行為を継続した事業者について、それぞれ課徴金納付命令の対象とされたところであり、公正取引委員会としては、その適切な執行に努めていくこととしている。

八について

 公正取引委員会においては、平成二十一年の独占禁止法の改正により、優越的地位の濫用が新たに課徴金納付命令の対象となったことを踏まえ、法運用の透明性を一層確保し、事業者の予見可能性をより向上させるため、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(以下「ガイドライン」という。)を策定し、平成二十二年十一月三十日に公表したところである。ガイドラインは、意見公募手続において酒類販売関係の団体を含む関係各方面から提出された意見を踏まえて策定したものである。また、その後、公正取引委員会においては、ガイドラインを広く周知することにより優越的地位濫用行為の未然防止を図るため、各地で説明会を開催する等の対応を行っているところである。今後とも、優越的地位の濫用に該当する行為が認められた場合には、厳正に対処してまいる所存である。