質問主意書

第177回国会(常会)

答弁書


答弁書第三二号

内閣参質一七七第三二号
  平成二十三年二月八日
内閣総理大臣 菅 直人   


       参議院議長 西岡 武夫 殿

参議院議員秋野公造君提出諫早湾干拓事業訴訟の上訴放棄に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員秋野公造君提出諫早湾干拓事業訴訟の上訴放棄に関する質問に対する答弁書

一の1、4及び6、五の2並びに七の4について

 諫早湾干拓事業(以下「本事業」という。)に関する平成二十二年十二月六日の福岡高等裁判所の判決(以下「福岡高裁判決」という。)を重く受け止め、長年にわたる争いに終止符を打ち、解決の方向性を早急に提示することが内閣の責務であると考えて、有明海の再生を目指す観点から総合的に判断し、政府として上告しないことを決定したものである。潮受堤防の排水門の開門に当たっては、農林水産省が現在実施している「諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価」(以下「本環境アセスメント」という。)の結果を踏まえて、防災、営農及び漁業への影響に十分配慮し、開門の方法、時期及び期間について関係者と話合いを行うとともに、政府一体となって万全の事前対策を講じることにより、関係者の理解と協力が得られるよう、誠意をもって取り組んでいく考えである。

一の2について

 福岡高裁判決を重く受け止め、長年にわたる争いに終止符を打ち、解決の方向性を早急に提示することが内閣の責務であると考えて、有明海の再生を目指す観点から総合的に判断し、上告しないことを決定したものである。
 なお、御指摘の発言については、その内容を確認できない。

一の3について

 平成二十三年一月十三日付けで、長崎県知事、諫早市長及び雲仙市長から提出された「諫早湾干拓事業に関する質問状」については、同月二十八日付けで内閣総理大臣から回答した。

一の5について

 福岡高裁判決を受けて、潮受堤防の排水門の開門に当たっては、本環境アセスメントの結果を踏まえて、防災、営農及び漁業への影響に十分配慮し、開門の方法、時期及び期間について訴訟原告を含む関係者と話合いを行う考えである。

二の1について

 福岡高裁判決を重く受け止め、長年にわたる争いに終止符を打ち、解決の方向性を早急に提示することが内閣の責務であると考えて、有明海の再生を目指す観点から総合的に判断し、上告しないことを決定したものである。
 また、本環境アセスメントは、開門調査を実施した場合、どのような変化や影響が生じるかについて調査、予測及び評価を行い、必要に応じてその影響を回避又は低減する措置を検討するものである。潮受堤防の排水門の開門に当たっては、本環境アセスメントの結果を踏まえて、防災、営農及び漁業への影響に十分配慮し、開門の方法、時期及び期間について関係者と話合いを行うとともに、政府一体となって万全の事前対策を講じることにより、関係者の理解と協力が得られるよう、誠意をもって取り組んでいく考えである。

二の2について

 御指摘の「諫早湾干拓事業検討委員会」における検討報告は、政府として参考とすべき指摘の一つと受け止めている。

二の3について

 現在係属中の長崎地方裁判所における裁判については、福岡高裁判決の確定を受けて、国の対応方針の調整を行い、平成二十三年一月二十四日付けで長崎地方裁判所に対して上申書を提出し、同年三月二十九日午後二時に指定されている判決言渡しを当分の間延期していただくことなどを上申しているところである。

二の4について

 潮受堤防の締切りと漁業被害との因果関係については、福岡高裁判決で指摘されているとおり、潮受堤防の締切りによる諫早湾の干潟の消失、潮流の流速変化等という事実がある。これが、魚類及び貝類の生育環境等に影響を及ぼした複数の要因の一つである可能性は否定できないと考えている。

二の5について

 本事業の実施に当たっては、事業着工前の漁業影響調査の予測に基づき、潮受堤防の締切りによる諫早湾の干潟の消失、潮流の流速変化等に伴い影響を受けるおそれがある損失に対して、補償を行っているところである。

三の1について

 潮受堤防の防災機能については、洪水や高潮などの防止に一定の役割を果たしていると考えている。

三の2から4までについて

 潮受堤防の排水門の開門により人命及び財産に被害が生ずることはあってはならないと考えており、そのため、防災上の悪影響が生じないよう、開門の方法、時期及び期間について関係者と話合いを行うとともに、必要となる対策を講じていく考えである。
 なお、御指摘の小潮時の干潮位が標高ゼロメートルを超える場合があることは承知している。

四について

 農業用水の確保に当たっては、下水処理水、地下水及び河川水の利用などが考えられるが、それらには、様々な課題があることは承知している。
 このため、本環境アセスメントにおいて農業用水を安定的に確保するための方策を検討し、潮受堤防の排水門の開門により農業用水の利用に悪影響が生じないよう、必要となる対策を講じていく考えである。

五の1について

 平成十五年に農林水産省が設置した中・長期開門調査検討会議においては、当時の現況を基に、開門当初から排水門を全開とする常時開門の方法について検討を行ったところである。一方、本環境アセスメントは、開門の方法について、①開門当初から排水門を全開とする方法、②調整池への海水導入量を段階的に増加させ、最終的には排水門を可能な限り全開とする方法及び③調整池の水位や流速を制限する方法の三つの方法を選定し、それぞれの方法ごとに、漁業生産を始め農業生産、背後地防災等にどのような変化や影響が生じるかについて調査、予測及び評価を行い、必要に応じてその影響を回避又は低減する措置を検討している。
 潮受堤防の排水門の開門による漁業への影響については、本環境アセスメントにおいて検討しているところであり、その結果、判明した漁業への影響に十分配慮し、開門の方法、時期及び期間について関係者と話合いを行うとともに、必要となる対策を講じていく考えである。

六について

 潮受堤防の排水門の開門により、海水と調整池の水が混合するなど有明海における漁場環境が改善する可能性があると考えている。
 なお、有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律(平成十四年法律第百二十号)第二十四条の規定により環境省に設置された有明海・八代海総合調査評価委員会が、平成十八年十二月に取りまとめた委員会報告においては、有明海の環境変化について、可能性のある要因を考察したが、その影響の程度は経年的な実測データの不足等から判断できないとしているところである。

七の1について

 潮受堤防の排水門の開門による漁業への影響については、本環境アセスメントにおいて検討しているところであり、その結果、判明した漁業への影響に十分配慮し、開門の方法、時期及び期間について関係者と話合いを行うとともに、必要となる対策を講じていくこととしており、仮に、漁業被害が生じたとした際の補償についても、検討する必要があると考えている。

七の2について

 福岡高裁判決の訴訟原告を含む旧大浦漁業協同組合及び旧島原十一漁業協同組合の組合員が、各漁業協同組合の組合長理事に漁業補償契約締結の委任行為を行った上で、各漁業協同組合の組合長理事が本事業に同意し、以後求償等を行わない旨の漁業補償契約を締結した事実があり、当該漁業補償契約は有効であるものと考えている。

七の3について

 潮受堤防の排水門の開門に当たっては、必要となる対策について万全を期す必要があると考えており、具体的な対策及びその費用については、本環境アセスメントにおいて検討しているところである。