質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第二八九号

再生可能エネルギーの適切な推進に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年八月三十一日

紙   智  子   


       参議院議長 西 岡 武 夫 殿



   再生可能エネルギーの適切な推進に関する質問主意書

 東京電力福島第一原子力発電所の事故により原発の「安全神話」が崩壊した中で、これまで原発への依存度を高めてきたわが国のエネルギー政策を根本から見直し、脱原発社会の構築に向けた再生可能エネルギーの活用を早急に拡大させることがもとめられている。
 関係各省は、再生可能エネルギーの潜在的な可能性等についてそれぞれの指標で数値を提示しており、再生可能エネルギー固定価格買い取り法が今国会末に可決成立したことで、今後、再生可能エネルギー導入の加速化がのぞまれる。
 一方、既存の大規模風力発電施設やその計画の中には、周辺住民の健康被害が問題化し、自然生態系への重大な影響が懸念されるものもあることから、こうした被害が新たに広がらないよう適切な対策をとり、当該施設の立地を選定することが、再生可能エネルギー導入の着実な推進の上でも不可欠である。
 そこで、これらの問題についての政府の認識と対策に関して以下質問する。

一 再生可能エネルギーの導入可能量の把握と目標の設定について

 再生可能エネルギーの導入ポテンシャルについては、経済産業省、環境省等が数値を発表している他、関係研究機関等も資源量などの各数値を発表している。
1 環境省「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査結果」(以下「環境省調査」という。)は、風力発電のポテンシャルを十九億キロワットとし、風況条件の風速を毎秒五・五メートル以上としている。一方、日本風力発電協会は他の諸条件を環境省調査とほぼ同程度とし、風速を毎秒六・五メートル以上としてポテンシャル試算を行い、七億八千二百二十二キロワットという数値を提示している(二〇一〇年)。そこで、環境省調査において風速を毎秒五・五メートル以上とした根拠は何か。
 また、風速を毎秒五・五もしくは六・五メートル以上とした場合のそれぞれの施設稼働率及び通常、風力発電施設の採算が見込まれる風速、施設稼働率を示されたい。
2 環境省調査においては、風力発電施設の「居住地からの距離」を「五百メートル以上」としているが、環境省「風力発電施設に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書」(二〇一一年六月)(以下「検討会報告書」という。)では、「風力発電所から一キロメートル以上離れた場所に居住している住民からも、眠れなくなった等の苦情が寄せられている事例があった」とされている。また、新たに建設される風車ほど大規模化しており、周辺住民に健康被害が及ぶ距離は既存のものより大きくなると危惧される。そこで、風力発電のポテンシャル試算においても、被害の事例やその危惧を勘案し、社会的条件である「居住地からの距離」について健康被害を生じないよう見直す必要があるのではないか。
3 環境省調査の条件として、鳥類の風力発電施設への衝突(いわゆるバードストライク)を勘案しなかったのはなぜか。
4 再生可能エネルギー導入のための過去十年間の補助金交付実績、予定導入量について、太陽光、風力、中小水力、バイオマス、地熱の種別に示されたい。
 また、どのような政策的判断、基準でこれらの補助金の配分をしてきたか、明らかにされたい。
5 産業技術総合研究所などの地熱調査によると、わが国におけるその資源量は二千三百四十七万キロワットとされ、米国、インドネシアに次ぐ世界第三位で他国と比較しても突出した資源量を持っている。わが国は一九九六年には全国十八か所の総設備出力が五十三万五千キロワットで世界第五位の地熱発電国となったが、その後、政府からの地熱発電への支援がとりやめられ、十年間ほど新規の地熱発電所は建設されず、わが国の導入量は資源量が四百万から六百万キロワット程度のニュージーランド、アイスランドの導入量よりも低くなっている。研究者は、二〇五〇年に国内発電量の十パーセント以上の貢献が可能としており、周辺環境や温泉資源に配慮しながら積極的に地熱発電にとりくむ必要があるのではないか。
6 政府は、再生可能エネルギー導入見通しの検討に際し、関係省庁の導入ポテンシャル試算の精査に加え、関係研究機関、関係学会から意見聴取を行って資源量・導入見通しを把握し、太陽光、地熱など幅広い導入をめざすべきではないか。

二 改正環境影響評価法(以下「改正アセス法」という。)の趣旨について

 検討会報告書では、新たに改正アセス法の対象となる風力発電事業について、効率的・効果的な環境影響評価として、調査項目の適切な重点化・絞り込みを図る考えを示している。
 この方向の下で仮に環境影響評価の安易な効率化がすすめば、結果的に風力発電施設の建設増にともなって深刻な健康被害や生態系破壊が広がりかねない。
1 検討会報告書では、改正アセス法の対象となる水準を一万キロワットの風力発電施設としているが、規模要件の水準ごとの比較でみても、五千キロワット以上一万キロワットの施設において、「騒音・低周波音に関する苦情等」が二十七パーセント、「動植物に関する苦情等」が十パーセント発生している。このことから改正アセス法の対象施設をさらに小規模施設に広げることが妥当ではないか。
2 検討会報告書では、バードストライク等の鳥類への影響についても言及し、予測・評価手法を提示している。今後必要とされる直接的影響、間接的影響の予測・評価内容には、渡りの移動阻害、採餌・繁殖行動への妨げなども含むものと考えてよいか。
3 改正アセス法が施行された後、事業者が自らの負担が軽くなるよう準備書作成段階で調査項目の絞り込みを行い、地元市町村や地元知事も風力発電推進のために特段の意見を付さなかった場合、健康被害の防止や生態系保全のための調査項目が簡略化される事態が懸念される。こうした事態はあってはならないと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 風力発電事業の問題事案への対応について

 現在、稼働中の風力発電の中にはすでに周辺住民に健康被害を及ぼしているものがあり、計画中の風力発電の中にも地域住民の不安に応えていないものがある。このような風力発電の事業者に対し、関係機関からの適切な指導と対応が不可欠である。
1 関係省庁は、稼働中の風力発電施設による住民の健康被害の訴えを把握した場合、当該風力発電の事業者にどのような指導を行い、対策をとっているのか示されたい。
2 山口県熊毛郡平生町では、日本風力開発株式会社(以下「日本風力」という。)の子会社、平生風力開発株式会社(以下「平生風力」という。)が二〇〇九年四月から千五百キロワット七基を稼働し、その後まもなく周辺住民から健康被害の訴えが出され、報道もされている。風車から六百メートルの場所に住宅がある住民は騒音による不眠、ふらつき、原因不明の頭痛を訴え、平生風力に対して「夜間は止める」「五号機は移設する」などの要望を行ったが、いまだに改善策はとられず、風が強まる冬場を前に関係住民は平生風力に不信感を強めている。また、平生風力は建設前に住民説明会を行わず、自治会長に説明しただけであった。こうした手続きは適切といえるのか。さらに、健康被害の訴えに対し、政府はどのように事業者を指導しているのか。
3 日本風力の子会社,江差風力開発株式会社は北海道江差町で二〇一〇年五月から二千キロワット十基を稼働させており、風車から三百から五百メートルの距離に民家、特別養護老人ホーム、小中併設校がある。住民から風雨の強いときの金属音の訴えが出されているが、関係省庁は事業者に対策をとるよう指導したか。
 また、NEDOマニュアルでは、「低周波音に係る健康影響を受けるおそれのある地域」を「一般的には、対象事業実施区域及びその周辺、半径五百メートル前後の範囲」としており、その範囲に小中学校等があることから、政府として責任をもって、騒音・低周波音のデータをとるべきではないか。
4 日本風力の子会社、銭函風力株式会社(以下「銭函風力」という。)は二千キロワット二十基の計画段階にあった二〇〇九年三月、予定地周辺の工場向け説明会(住民説明会の名称)において「騒音はするのか」との質問に対し、「風を切る音はするが、工場等から三百メートル以上離れているため、ほとんど問題ないと考えている」と答え、その議事録を政府補助金交付団体であるNEPC(新エネルギー導入促進協議会)に提出し補助金交付を受けた。前記NEDOマニュアルに照らして、こうした説明は適切といえるか。政府としての見解を示されたい。
5 環境省は二〇一一年七月、改正アセス法に準じた配慮書又は方法書手続のモデル的な取組により、風力発電施設等に対する適切な環境アセスメントの推進・定着を図るとして、平成二十三年度風力発電施設等に係る改正アセス法手続先行実施モデル事業の事業者選定を行い、応募した五社のうち、四社(日本風力、一般財団法人日本気象協会、株式会社ウィンド・パワー・エナジー、株式会社東京久栄)を採択している。
 環境省によると、採択された四社のうち日本風力については、銭函風力が北海道小樽市の銭函海岸で計画中の風力発電建設について、周辺住民・科学者から懸念の声が出されていることを担当部署が事前に認識していたというが、住民とのトラブル事案を抱えた企業をあえて採択したのはなぜか。
 また、こうした事業者に改正アセス法モデル事業を委託したことは適切といえるのか。
 さらに、環境省による日本風力への事業委託は、平生・江差・小樽等の周辺住民等への不適切な対応を是認するという悪影響を及ぼすのではないか。

四 建設予定地の選定について

 北海道小樽市の銭函海岸に二千キロワット十五基の風力発電事業を銭函風力が計画しているが、同計画に対しては、予定地のきわめて貴重で希少な自然海岸を破壊するとして「銭函海岸の自然を守る会」が二〇一〇年三月に北海道地方環境事務所に計画撤回を要請した他、日本野鳥の会、日本自然保護協会、北海道自然保護協会、日本生態学会自然保護専門委員会なども中止声明を発表している。
1 北海道の「銭函海岸の自然を守る会」の代表は検討会報告書の案に対してパブリックコメントを寄せており、銭函風力が環境影響評価書案で「改変される面積は五百四十ヘクタールのうち八・七ヘクタール」としている点について、「五百四十ヘクタールはほとんどが保安林で、工業団地として造成した土地や港湾の水路までを含めている。実際には五十ヘクタールほどの砂丘に、控え目な計算でも作業道・作業ヤードなどで約十ヘクタールがつぶされ、それとは別に十トンダンプにして一万五千台分の土砂が野積みになる」として「事業者は環境への負荷をことさらに小さく見せよう」としていることを指摘している。さらに、銭函風力はアセスにおける「アセス案についての意見と事業者の見解」でも論拠抜きで八・七ヘクタールとしている。
 環境省は、一般的に事業者が改変面積を少なく提示する傾向にあることを認識しているか。
2 銭函風力が二〇一一年八月、公告縦覧している環境影響評価書によると、砂浜の再生事業を紹介しているが、専門的意見を聴取している有識者の氏名を匿名にしている。一般的に匿名の有識者の意見というものは環境影響評価書において、責任ある専門的知見とみなせるか。
 また、銭函海岸は、自然な海岸砂丘地形を基盤にして特徴ある生物多様性が支えられているが、事業者はそのような自然海岸で大規模な工事を行っても元通りに再生できると述べている。これまでわが国で、開発行為等によって破壊された自然海岸の生態系と生物多様性を元通りに再生できた事例を政府は把握しているか。
3 計画地は、環境省の「植生自然度」で最高度の十・自然草原であり、日本生態学会自然保護専門委員会の「石狩海岸の風車建設事業計画の中止を求める要望書」では、「全国的に見て保護上重要な生態系である」とされ、自然な砂浜海岸は、日本自然保護協会の調査によれば、全国の砂浜海岸のわずか七パーセントにすぎないとされている。
 また、計画地は多くの希少種、絶滅危惧種の生息地でもある。豊かな自然生態系を有する植物相に依拠したエゾアカヤマアリを始めとする多くの希少な昆虫類、キタホウネンエビなどの節足動物、オジロワシ、オオワシなどの猛禽類、希少な菌類などが共存する貴重な自然生態系を有する地域は、風力発電施設建設によって破壊されるべきではない。
 風力発電施設の建設計画は中止すべきではないか。

五 大型風車から発生する超低周波音について

 大型風車から発生する超低周波音(二十ヘルツ以下)の音圧レベル測定値の健康被害の影響評価方法として「感覚閾値」が使われているが、現状では「感覚閾値」が被害者の訴えを退けたり、計画地アセスで「感覚閾値以下なので影響なし」として住民の不安を退けることに使われている。このような問題が生じているが、今後も感覚閾値(ISO七一九六)を用いるのか。その妥当性を証明する最新のデータを示されたい。

  右質問する。