質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第二八六号

諫早湾干拓事業の潮受堤防排水門の開門に係る環境アセスメント結果素案に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年八月三十日

秋 野 公 造   


       参議院議長 西 岡 武 夫 殿



   諫早湾干拓事業の潮受堤防排水門の開門に係る環境アセスメント結果素案に関する質問主意書

 平成二十二年十二月六日、福岡高等裁判所において、長崎県の国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門について三年間の猶予期間ののち五年間の常時開門を命ずる判決(以下「福岡高裁判決」という。)が出された。そして、同月十五日に菅総理は、長年にわたって国の事業に協力してきた長崎県や干拓農地の営農者等に誠実に説明することなく唐突に上告放棄を表明した。
 国営諫早湾干拓事業は、農地造成と防災機能強化のため、長崎県の諫早湾奥部約三千五百ヘクタールを全長約七キロメートルの潮受け堤防で締め切り、九百四十二ヘクタールの干拓地を造成した国の事業である。総事業費二千五百三十億円を費やし、事業計画決定から二十一年を経て、平成二十年三月に完成し、干拓農地では既に営農が始まっている。
 福岡高裁判決については、潮受け堤防の締め切りと漁業被害についての因果関係を認定したことや、潮受け堤防が防災機能や営農に果たしている役割が適正に評価されていないこと、常時開門による漁業や自然環境への影響が適正に配慮されていないことなど重大な問題を含んでいるとの指摘がある。
 その後、国は、漁協に対して補償が行われてから事業が行われたにもかかわらず漁協組合員に対してさらに漁業被害を認定した福岡高裁判決については上級審の判断を仰がないでおきながら、平成二十三年六月二十七日の長崎地裁判決については漁業者への賠償に関して争う方針を示しており、自己矛盾も甚だしい。公共事業のあり方にも大きく影響を与えうるもので、菅総理一人で取れる責任ではない。
 仮に、常時開門が行われれば、防災機能が損なわれ、新しい干拓地や背後地農業の基盤が崩壊し、諫早湾内の漁業へも甚大な被害をもたらし、淡水系の生態系に対して壊滅的な影響を与えると危惧されている。
 そのような中、平成二十三年六月十日に、国の諫早湾干拓事業の潮受堤防排水門の開門に係る環境アセスメント結果素案(以下「結果素案」という。)が公表された。この内容を見ると、例えば流速、あるいは水質等についてケース毎に環境アセスメント結果が示されているが、開門が環境に与える影響範囲は極めて限定的である。すなわち、当該影響は潮受け堤防の排水門の周辺に限定される、あるいは諫早湾内湾央部に限定されるという環境アセスメント結果であり、有明海全体の環境変化に結びつくような結果が得られていないと認識するもので、開門を何のために行うのか科学的に説明がつかないと言わざるを得ない。このような結果素案に基づいて開門を行うことについては問題がある。
 よって、以下のとおり質問する。

一 結果素案に基づいた開門を行うことの問題点について

1 結果素案において、開門を行ったとしても、流速や水質等への影響は極めて限定的であり、有明海全体の環境改善に繋がる結果が得られていないにもかかわらず、何故、国は開門をする必要があるのか、開門の意義はないのではないかとの意見があるが、あらためて開門の意義について政府の見解を示されたい。
2 そもそも、結果素案の「ケース三-二」は、平成十四年の短期開門調査と同一の手法である。その調査結果は既に得られているにもかかわらず、何故、同じ選択肢が提起されたのか、政府の見解を示されたい。
3 結果素案において、排水門付近の洗掘防止対策を講じても、周辺漁場に対する濁りや浮泥の堆積等の影響が出ると予想されているにもかかわらず、何ら具体的な対応策が示されていない理由について政府の見解を示されたい。
4 結果素案において、農業用水の確保については、地下水利用案が採用されている。地元では地下水の汲み上げによる地盤沈下が危惧されてきたにもかかわらず、何故、安易にこのような手法が採用されたのか、政府の見解を示されたい。
 地元で取水協定を締結してきたという実態については、上告を放棄したのは国単独の判断であることを踏まえ、今後は、国が前面に出て締結すべきではないか、政府の見解を示されたい。
5 結果素案において、塩害の問題に関し、既設堤防や内部堤防基礎部や地盤からの海水浸透に対する防止策が示されていないことについて政府の見解を示されたい。また、潮風害に関しては、ローテーション散水により洗い流す対策が提案されているが、潮風害を防止するには、短期間で一気に洗い流すことが必要である。そのための膨大な量の用水を地下水で確保できるのか、あわせて政府の見解を示されたい。
6 防災面に関して、現在の干拓事業計画では諫早大水害時の降雨を前提としているにもかかわらず、何故、今回の結果素案ではそれを下回る降雨を前提に影響と対策を検討したのか、政府の見解を示されたい。また、開門により排水樋門前や河川等に堆積するガタ土の排除、排水樋門の管理は国が責任をもって行うということでよいか、政府の見解を示されたい。
7 背後地の既設堤防は、老朽化による沈下や亀裂が顕著であり、開門により調整池の水位上昇が頻繁に発生すると倒壊の危険もあるが、結果素案では、この対策として、空洞部分の間詰め等による小手先の対策のみ示されている。抜本的な対策は今後示されるということでよいか、政府の見解を示されたい。

二 上告放棄を独断で行った菅総理の責任について

 冒頭、指摘したとおり、国は、漁協に対して補償が行われてから事業が行われたにもかかわらず漁協組合員に対してさらに漁業被害を認定した福岡高裁判決については上級審の判断を仰がないでおきながら、平成二十三年六月二十七日の長崎地裁判決については漁業者への賠償に関して争う方針を示していることは自己矛盾も甚だしいと考えるが、政府の見解を示されたい。また、この福岡高裁だけでなく長崎地裁の判決内容が確定すると今後の公共事業のあり方にも大きく悪影響を与えうるものと認識しているかどうか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。