質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第二三二号

建設現場の足場からの墜落事故に関する第三回質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年七月十九日

岩 城 光 英   


       参議院議長 西 岡 武 夫 殿



   建設現場の足場からの墜落事故に関する第三回質問主意書

 本年五月十三日、「建設現場の足場からの墜落事故に関する再質問主意書」(以下単に「再質問主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質一七七第一三七号。以下単に「答弁書」という。)を受領したところであるが、なお納得できない点があるので、以下のとおり質問する。

一 答弁書の「一について」について

1 平成二十二年の墜落・転落災害による死亡事故件数の「百三十九件」(最終的には「百五十九件」)について、答弁書では、これまでの死亡災害件数の公表の仕方を理由に、これを「全て「足場」からの墜落・転落による死亡災害の件数として考えることは適当ではない」とされている。しかし、当該質問の趣旨は、足場からの墜落防止措置の効果の検証というからには、事業者の怠慢により「本来、足場が設置されていなければならないにもかかわらず足場が設置されていない」高さ二メートル以上の高所からの墜落・転落災害についても検証の対象にしなければ、正しい科学的な分析とはいえないということである。このことについて改めて政府の見解を示されたい。
2 「死亡災害の増加に対応した労働災害防止対策の徹底について」と題する緊急要請において労働安全衛生規則(以下単に「規則」という。)第五百十八条が引用されたことについて、答弁書では、「「明らかに安衛則第五百十八条違反の現場が多く、見逃すことができない状況にあることを物語っているのではないか」との御指摘は当たらない」とされている。しかし、各労働局が毎年実施する建設現場一斉監督指導の結果、約半数の現場で労働安全衛生法違反があり、しかもその約半数が墜落防止措置違反である状況が何年も繰り返されていることは周知の事実である。
 規則第五百十八条では、第一項において高さが二メートル以上の高所で作業を行う場合は「作業床を設けなければならない」と義務付けられてはいるが、第二項において「作業床を設けることが困難なとき」は、例外的に安全帯の使用等を認めるとされている。しかし、何をもって「困難」と判断するかは事業者に委ねられていることから、結局、作業床を設置せず安全帯の使用に逃れるという安易な道を事業者に選択させる結果となっている。これが墜落・転落による死亡災害を招く大きな原因となっていることは明らかである。
 したがって、事業者が作業床を設けることができるにもかかわらず安易に安全帯に頼ることのないようにするため、同条第二項に規定する例外は、「技術的に作業床を設けることができない場合」(例えば、現場が極めて狭隘な場所であるため丸太足場等で対応する場合)にのみ認める方向で規則を改正すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

二 答弁書の「二について」について

 「建設現場の足場からの墜落事故に関する質問主意書」に対する答弁書(内閣参質一七七第二一号)では、民間において「手すり先行工法」の採用率が低いのは施工業者の判断に任せているからであるとされていたが、今回の答弁書では、労働安全衛生法第三条第一項に定められている事業者の責務を踏まえ、官民を問わず事業者に対し「手すり先行工法」の採用等について指導しているとされている。しかし、施工業者が事業者の責務を自覚し、厚生労働省が適正に指導しているならば、民間における「手すり先行工法」の採用率は高いはずである。なぜ、わく組足場における「手すり先行工法」の採用率は、僅か二十パーセントと低いのか、再度、政府の見解を示されたい。
 また、国土交通省の直轄工事においては「手すり先行工法」が義務付けられており、それに基づく足場設置工事での墜落死亡事故はゼロという事実を踏まえると、「手すり先行工法」が如何に墜落・転落災害防止に効果的であるかが分かる。「手すり先行工法」の民間における低い採用率を考えると、もはや、「足場等からの墜落等に係る労働災害防止対策の徹底について」(安全衛生部長通達)による指導には限界があり、直ちに規則を改正し、事業者が守るべき最低基準として「手すり先行工法」を義務化すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 答弁書の「三及び五について」について

 答弁書では、再質問主意書の「三」及び「五」で提起した重要な問題、すなわち、①平成二十一年の墜落災害の中には「幅木」が設置されていない限り防止することができなかった事案があり、現行規則上は「幅木」の設置が義務付けられていないため墜落を防止できないこと、②「足場からの墜落防止措置の効果検証・評価検討会」報告書(以下単に「報告書」という。)は、減少傾向にあった平成二十一年の墜落・転落災害について検証・評価したものであり、その結論をもって急増に転じた平成二十二年の墜落・転落災害に適用することは納得できないことについて、全く答えていない。そればかりでなく、「足場等からの墜落等に係る労働災害防止対策の徹底について」(安全衛生部長通達)の別添では確かに「改正省令の施行後三年を目途に、改正省令等の措置の効果の把握を行」うと記されているが、その時点に至る前に「人命に係る大きな問題」が発生した場合には、この文言に縛られることなく前倒しで所要の改正を行うことが行政としての当然の責務と考える。
 このように、正当な結論を出すに当たって考慮すべき重要な問題点を抱えながら、答弁書において「現時点においては、「幅木」の設置や「手すり先行工法」の採用の義務付け等の規則の強化を図るまでの必要はない」と断じられたことは納得できない。
 したがって、平成二十二年に墜落・転落災害が急増に転じたことを踏まえ、「改正省令の施行後三年」といわず、直ちに「手すり先行工法」による二段手すりと「幅木」の設置を義務化すべきと考えるが、改めて政府の見解を示されたい。

四 答弁書の「四について」について

 答弁書では、「親綱支柱を用いた安全帯取付設備の設置」が規則第五百六十四条第一項第四号に定める墜落防止措置に該当するとの解釈が示されたが、この作業は最上層で親綱支柱を立て親綱を張る作業となり、安全帯を使用することができない作業となることから墜落防止措置とはならないと考えるが、政府の見解を示されたい。一方、「手すり先行工法」による手すり枠等の設置も同号に定める墜落防止措置に含まれるとの解釈は初めて示されたものであり、極めて重要であることから、規則を改正し、同号に明記すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
 また、答弁書では、「「墜落防止措置を全く実施していなかった」七十三件のうち、(略)五十二件については、「手すり先行工法」による手すり枠等の設置(略)を実施していれば防ぐことができた可能性が高い」との判断が示され、これに加え、報告書でも、「手すり据置き方式」や「手すり先行専用方式」について、「組立・解体時における最上層からの墜落・転落のみならず、通常作業時等における墜落・転落災害の防止にも効果が高い」との考えが示されたことは、「手すり先行工法」が墜落・転落災害防止の決め手であるとの認識が示されたことにほかならない。今後いたずらに墜落・転落災害を増やさないためには、「現時点においては、(略)規則の強化を図るまでの必要はない」とした答弁を撤回し、速やかに規則を改正して、「手すり先行工法」を義務付けるべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

五 先行手すりわくへの安全帯の取付けに関する安全性について

 報告書に掲載されている「組立・解体時における足場の最上層からの墜落・転落災害のうち、手すり先行工法を使用していた事案」中、安全帯を使用していなかったとして「不安全行動」を墜落原因にしている事案があるが、そのように分析する以上、先行手すりわくに安全帯を取り付けても大丈夫であるとの安全性は確保されていると考えてよいのか、政府の見解を示されたい。

六 「手すり先行工法」の義務化を躊躇する理由について

 二から四まで、「手すり先行工法」を直ちに義務化すべきことについて、角度を変え、政府の見解を求めたが、これまでの答弁書からは、「手すり先行工法」の有効性について厚生労働省自身は認識しているとの印象が窺える。そうである以上、どうして厚生労働省は「手すり先行工法」の義務化に踏み切れないのか。ことは人の命に関する問題である。「手すり先行工法」の義務化を速やかに実現する必要がある。厚生労働省が躊躇する理由は何なのか明らかにされたい。

  右質問する。