質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第一八四号

障害年金の受給要件の緩和に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年六月六日

浜田 昌良   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   障害年金の受給要件の緩和に関する質問主意書

 近年、障害基礎年金の受給者数は着実に増加しており、平成二十年度末において、障害一級では約六十八万三千人、障害二級では約八十六万七千人、計約百五十五万一千人となっている。
 障害基礎年金の支給要件として、国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)第三十条は、「保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が、被保険者期間の三分の二以上あること等を定めている。また、国民年金法改正法(昭和六十年法律第三十四号)附則第二十条では、保険料納付済期間等が三分の二に満たない場合であっても、初診日の属する月の前々月までの一年間に保険料未納がない場合には、前記の保険料納付要件を満たしたものとする旨を規定している。
 この規定に関して、神奈川県在住のご婦人より、娘が二十一歳で病院を受診し(初診日)、その後、障害年金を申請したが、初診日の後に未納期間分の保険料を支払っていたため(初診日から二年以内に追納)、保険料納付済期間は被保険者期間の三分の二以上であるものの、受給は認められないとの相談が寄せられた。
 確かに、国民年金法第三十条第一項においては、いわゆる逆選択を防止するために、「当該傷病に係る初診日の前日において」保険料納付要件を満たすことが必要であることが規定されているが、事情を勘案して、国民年金保険料の追納が可能な二年以内であればその追納を認め、それにより保険料納付済期間の三分の二要件を満たせば受給できるといった制度への変更も必要であると考える。
 そこで、以下質問する。

一 障害基礎年金の支給要件に関し、国民年金法第三十条第一項但書では、「当該傷病に係る初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない。」と規定する。この但書後段の「保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二」以上必要との要件について、必ずしも「当該傷病に係る初診日の前日」時点において満たしている必要はなく、その後の保険料追納等を含めて、年金請求時点でこの要件を満たしていればよいとした場合、いわゆる逆選択による弊害はどの程度と推量しているのか。一方、前記の神奈川の例のように病状としては支給されるべきものの、不支給となっている者はどの程度と推量しているのか。このような不支給による弊害はいわゆる逆選択による弊害に比べて明らかに小さいと言えるのか、その根拠とともに明確にされたい。

二 国民年金法の旧障害年金に関しては、昭和三十九年改正で、当時、結核や精神障害等の内部疾患患者が増加した背景から、初診日と認定日(症状を固定する日)を同日にすることは困難となり、認定日について三年の経過日が設けられた。その後、昭和四十一年改正で、保険料納付要件については「初診日の前日」ではなく「廃疾認定日の前日」が基準とされ、例えば、廃疾認定日の属する月の前月までの被保険者期間について、「その保険料納付済期間が五年以上であり、かつ、その被保険者期間のうち保険料免除期間を除いたものの三分の二を占めること」等の要件設定がなされた。この改正は、昭和五十一年改正まで約十年間維持されているが、この改正の結果、初診日から廃疾認定日までの間に保険料の追納により障害年金の支給要件を満たすことも可能となったのであり、昭和四十四年六月二十五日の衆議院社会労働委員会でも、当時の伊部厚生省年金局長より、「時効期間は二年でございますので、その間は追納ができます。(略)時効期間の範囲内におきまして追納はできる、かつ廃疾認定日において資格の有無を判定いたしますから、あとで補正をすることはできる」との明確な答弁も行われている。
 障害基礎年金の支給について、初診日以後の保険料追納を全く要件認定に反映させないとの取扱いをするならば、前記のように昭和四十一年改正では、初診日以後保険料を追納することにより納付要件を満たすことも可能であったという旧障害年金の経緯をどのように評価するのか、政府の見解を明らかにされたい。

三 いわゆる逆選択を防止するために「初診日の前日において」という納付要件を規定しているが、例えば、疾病を抱えつつ自身のできる範囲で就労等に従事している者が、毎月の保険料を支払っていくことは必ずしも容易ではなく、やむを得ずその支払いも滞りがちとなる中で、医師の診療を受け障害が判明する事態もある。また、経済的理由等で保険料を納付することが困難な場合には保険料免除制度があるが、本来免除が受けられるにもかかわらず二十歳そこそこで制度・手続の理解が十分でなく、申請を行わなかったという場合もある。さらに、保険料免除制度は、世帯主についても一定の所得基準の範囲内であることが必要とされるが、その基準を満たさない世帯主が保険料を滞納していたことにより、障害を負った本人が障害年金を受給できない事態となることもある(ただし、現在は若年者納付猶予制度が設けられている)等の点を考慮すると、これらのケース等については、その事情を勘案して事後に納めた保険料が三分の二要件を満たしていれば障害年金を受給できるといった制度への変更も必要であると考えるが、政府の見解如何。

四 政府は、第百七十四回国会に、将来の無年金・低年金者の発生を防止するため、国民年金保険料の納付可能期間を二年から十年に延長すること等を内容とする「国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律案」(年金確保支援法案)を提出している(現在参議院で継続審査)。また、これまでも時効により納付できなくなった保険料の特例納付は過去三回行われている。このように、老齢年金に関しては、保険料追納により支給要件を満たすことを比較的広く認めてきたことからも、障害基礎年金についても、障がい者の実情に配慮した何らかの対応を図っていくべきと考えるが、政府の見解如何。

五 社会保障審議会第三号被保険者不整合記録問題対策特別部会による報告書(平成二十三年五月二十日)(以下「部会報告書」という。)では、障害・遺族年金受給者の取扱いについて「障害・遺族年金に関しても・・・不整合が判明して訂正することにより受給権が失われることのないよう、特別の措置を講じるべきである。」とされている。不整合の訂正によって障害年金の受給権が失われる場合について、具体例を挙げて説明されたい。また、その防止のために講じられる「特別の措置」とはいかなる法的措置であるのか、具体的に示されたい。

六 部会報告書に基づく立法措置によって障害年金受給者の受給権が保護された場合、年金記録の不整合が判明して訂正された受給者と、不整合がなく障害年金を受給している受給者との公平性は担保されているのか、政府の見解如何。

七 部会報告書では、「通常の未納期間を対象とする後納制度と同様に、過去十年前までの期間に生じた不整合期間について納付ができるようにする取扱いが妥当である。」とされている。これらとの整合性を考えれば、障害年金についても、現時点から過去十年前までの後納を認めるなど、「初診日の前日において」保険料納付要件を満たすことが必要との規定を緩和すべきと考えるが、政府の見解如何。

  右質問する。