質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第一一五号

高速増殖炉もんじゅに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年三月十日

平山 誠   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   高速増殖炉もんじゅに関する質問主意書

 「税金のムダづかいを徹底的になくし、国民生活の立て直しに使う。それが、民主党の政権交代です」。これは一昨年の総選挙における民主党マニフェスト一頁目の記述である。しかし、政権交代から一年半が経過した今でも、「ムダづかい」と言わざるを得ない予算要求が見受けられる。そこで以下、高速増殖炉「もんじゅ」について質問する。

一 「もんじゅ」は高速増殖炉開発の初期段階である。新型原子力発電所は一般に五つの段階を踏んで進められるという。臨界実験装置に始まり、実験炉の段階を経て、「もんじゅ」は第三段階の原型炉にあたる。原型炉は、発電設備を持つ完結したプラントとして建設され、描かれた商業炉概念の工学的成立性を確認する。第四段階では、商業炉とほぼ同じ構造で出力のみ下げた実証炉を建設し、経済的成立性を確認する。第五段階が実用の商業炉である。一九六八年九月二十六日の原型炉の予備設計開始から四十二年の年月と、建設費約五千九百億円を含め、約九千五百億円を費やしており、二〇一〇年度予算においても運営費に二百三十三億円、一年を三百六十五日とすると、一日当たり約六千万円の費用をかけて維持している状況である。

1 政府は「もんじゅ」を何年度まで運転する計画なのか。また、何をもって、役割を終えたこととするのか。さらに、運転している期間の運営費はどの程度と見積もられるのか。二〇二五年頃に次の段階である実証炉の実現を目指す方針と、設備としての寿命、二〇一一年度の運営に係る予算要求額二百十六億円を踏まえて具体的に示されたい。
2 「もんじゅ」には前述のとおりこれまで約九千五百億円の費用がかかっている。また、政府によると計画当初からの高速増殖炉に係る総事業費は二〇〇九年度末までに約一兆八千六百二十億円である。今後、次の段階の実証炉、二〇五〇年に実現を目指している商業炉まで、すなわち高速増殖炉が実用できるまでに総事業費はいくらかかると想定しているのか。
3 「もんじゅ」は当初計画では遅くとも一九八八年には不要になるはずであった。一九六七年の原子力開発利用長期計画で高速増殖炉実用化は一九八六年から一九八八年との具体的見通しを立てていたからである。しかし、一九八七年の原子力開発利用長期計画では二〇二〇年から二〇三〇年、二〇〇五年の原子力政策大綱においては二〇五〇年を目途とするなど実用化の目標は遠ざかるばかりである。「もんじゅ」は不要になるはずの年から二十三年経っても未完成である。二〇五〇年というのは何を根拠にしているのか。
4 一九九五年十二月から二〇一〇年五月まで「もんじゅ」は停止していた。しかし、一九九六年度から二〇〇九年度まで完全に停止していた十四年間にも「もんじゅ」には運転費として維持管理費などに約二千億円を費やしている。二〇一〇年八月より後述の事故により「もんじゅ」は再度運転を停止しているが、二〇一〇年度は運転を前提として二百三十三億円の予算を計上している。二〇一〇年度の決算見込み額を示されたい。
5 「もんじゅ」が停止していた一九九五年十二月から二〇一〇年五月までの期間、例えば二〇〇九年度は、予算では運転費として二百四億円を計上しているが、決算では「施設整備補助金」として十六億三千四百万円しか記されていない。当該期間における使途の詳細を年度ごとに示されたい。また、停止期間中の費用約二千億円によって何らかの成果があったのか。あれば具体的に成果を示されたい。
6 高速増殖炉に係る予算として、文部科学省予算の「高速増殖炉サイクル実用化研究開発の推進」及び経済産業省予算の「発電用新型炉等技術開発委託費」があるが、それぞれ「もんじゅ」の運営以外にあてられる部分の年度ごとの予算、決算額及び使途の明細を示されたい。
7 「もんじゅ」は建設費が高価であり、実用化に向けて大幅なコストダウンが必要となった。その結果、商業炉概念の抜本的変更が行われたと聞く。日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)によると、商業炉の概念は、新規技術を多く採用し、主循環ポンプと中間熱交換器を一体化するなど、設備に関して「もんじゅ」とは全く異なる構造が採用されているという。そもそも、原型炉は描かれている商業炉概念の工学的成立性を確認するものであるから「もんじゅ」はすでに原型炉と呼べない。「もんじゅ」で研究を行う理由は何か、商業炉開発との関係において具体的に説明されたい。
8 原子力機構によると「もんじゅ」の運転は「発電プラントとしての信頼性の実証」と「ナトリウム取扱い技術の確立」を目的としているという。しかし、前者はすでに形式の変わった商業炉開発に貢献するものでなく、後者は「もんじゅ」でなくてもできることではないか。
9 この先「もんじゅ」が成功したところで、前述のとおり原型炉としての「もんじゅ」は役割を失っている。「もんじゅ」にこれ以上お金をかけるよりも、「もんじゅ」を廃炉にしたうえで、新たに現在描かれている商業炉構想に則した原型炉を建設するという選択肢は政府にないのか。また、開発途上の新技術の多い商業炉構想をいきなり実証炉で実現しようという現在の計画は、技術的にも経済的にもリスクが大きいのではないか。

二 かつて高速増殖炉を研究していたイギリスではサッチャー政権下の一九八八年に「高速増殖炉はこの先少なくとも三十年から四十年は必要でない」、「年間一億ポンドの出費は容認できない」とされ、研究開発費の多くを高速増殖炉開発に使うことで新エネルギー開発の費用を縮小させていたと評価し、一九九四年に原型炉を停止している。同じく高速増殖炉を研究していたフランス、ドイツ、アメリカもすでに研究から撤退している。

1 他の国が経済性、安全性などの面から高速増殖炉の研究から撤退したことについて、政府としてどのように評価するのか。
2 ロシア、中国で運転している実験炉、原型炉は濃縮ウランを燃料とする高速炉であり、使用済燃料中のプルトニウムは使わず、「もんじゅ」とは役割が違う。また、インドで運転している実験炉は国際原子力機関(IAEA)の査察を受けることが定められている民間利用施設から除外されたことからも軍事用、少なくとも兼用であることは明らかである。さらに、フランスが計画している原型炉アストリッドは放射性廃棄物対策が目的の高速炉であって、高速増殖炉ではない。各国が、事故や経済性の問題から撤退している中、技術、安全性、経済性など多くの不透明な要素を抱えるにも関わらず、日本だけが商業用に「もんじゅ」など高コストの設備などを含めた高速増殖炉研究を続けるのはなぜか。

三 「もんじゅ」は、一九九五年十二月八日のナトリウム漏洩火災事故以来、四回の延期を経て、二〇一〇年五月六日に十四年五カ月ぶりに運転が再開された。だが、同年八月二十六日に炉内中継装置落下事故が起こり、現在、運転が止まっている。同年五月六日の運転再開に当たっては、経済産業省原子力安全・保安院と内閣府原子力安全委員会が安全性について妥当との判断を下しているが、再開直後の同年五月十日に操作ミスにより制御棒の挿入が中断するなど、運転中に様々な事故、トラブルが発生したことが報道されている。

1 運転再開後の事故、トラブルの詳細を示されたい。
2 安全性について妥当との判断を下した原子力安全・保安院、原子力安全委員会は1の事故、トラブルについてどのような責任を負うことになるのか。
3 原子力機構は前述の事故で落下した中継装置の引き上げのために、中継装置を引き上げるための機器を製作した企業と九億三千七百万円の随意契約を行った。中継装置の設計、製作も行った当該企業側の責任も問われるはずだが、なぜ、新たな契約が必要になるのか。
4 破損した中継装置の再製作費などの費用も必要となるが、復旧に総額いくらかかるのか。また、その費用はすべて国の負担となるのか。
5 前述の事故により、現在、中継装置を引き出せずにいるが、万が一、このまま中継装置を引き出せないということになれば、廃炉の可能性もある。「もんじゅ」の廃炉措置の技術は確立されているのか。また、確立されているなら廃炉に係る見積額を示されたい。
6 実験炉「常陽」は二〇〇七年に原子炉容器内設備の損傷事故を起こし現在も停止しているが、事故の調査、修復等に総額いくらかかるのか。また、運転再開の見通しはどうか。
7 二〇〇九年の事業仕分けによって、高速増殖炉サイクル研究開発(もんじゅ及び関連研究開発)は、「来年度予算計上は見送り」二名、「予算要求の縮減」七名(半額五名、二割一名、その他一名)となり、評価結果は「事業の見直し」であった。また、二〇一〇年の事業仕分けに際しては、「予算要求の圧縮(十パーセントを目途に)」との評価結果が出され、仕分け人より「今日の説明では誰一人説得できず、原子力行政に対する不信感が強まる」との発言がなされている。これらの結果より、高速増殖炉に関する一般的な見方は非常に厳しいと言わざるを得ない。事業継続について国民から意見を聞く場を設けることはできないか。
8 作家、東野圭吾氏の小説に「天空の蜂」がある。高速増殖炉、原子力発電を取り巻く状況を著しているが、二〇一一年二月二十二日に原子力機構の復旧担当者が自ら命を絶たれるという、小説がオーバーラップするような痛ましい出来事が報じられた。一九九五年のナトリウム漏洩火災事故時の調査過程でも自殺者がでている。政府は理由の如何によらず、このような悲劇を繰り返さないためにも、核燃料サイクルについて広く国民に周知し、原子力機構については組織体制を洗い直し、原因究明をしたうえで公表し、ムダを排除した上で、技術立国日本として最新技術の開発促進を進めるべきである。「子曰く、学べば則ち固ならず、過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」。これまでの経緯に固執することなく新しき道を探すべきと考えるが、見解如何。

  右質問する。