質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第八九号

郵政における非正規社員の雇用に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年二月二十三日

又市 征治   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   郵政における非正規社員の雇用に関する質問主意書

 郵政三事業の民営化が国民にもたらした弊害については、私が国会でたびたび指摘してきたところである。
 この間、日本郵政株式会社等三社の株式売却については凍結法の成立により凍結され、現在は、社民党など旧連立三党の合意に沿って、ユニバーサルサービス等、郵政三事業の公共性を回復する内容の「郵政改革法案」が国会に提出され、その審議を待っているところである。
 こうした中で、郵政の労働者の半数を占め、全国の企業の中でも最多の約二十万人に上る非正規社員の処遇を改善し、同社員に安定した身分、正社員との均等待遇を付与することは、日本郵政株式会社等グループ各社(以下「会社」という。)にとってのみならず、監督官庁および株主たる政府にとっても社会的責務である。現に自見郵政改革担当大臣、亀井前郵政改革担当大臣らが一致してこれらの改善を強調し努力してきたところである。
 また、現内閣および前内閣は、「国民の生活が第一」、「最小不幸社会の実現」などを政見として掲げ、非正規労働者の正社員化・身分安定・雇用条件改善について社民党との継続的協議を重ね、二〇一一年度予算案においてもこれらに積極的に取り組む方針を示している。
 ところが、企業の景況は日銀の分析などを含め回復基調を示しているにもかかわらず、雇用条件の劣悪・無権利な状況は広く続いていて、その改善は未だ道遠しの観がある。
 よって政府は、政策的イニシアチブを発揮し、例えば郵政という政府所有の公共サービス部門において尊厳ある労働環境実現のための良質な雇用政策が率先して実施されるよう、強く影響力を行使すべきである。
 これらのことに関し社民党は、雇用の改善が今次の郵政改革にとって一体的で欠かせない課題だと位置づけて重点的に取り組んできた。二〇〇九年十二月十八日に総務大臣、郵政改革担当大臣に対して「郵政改革のための申入れ」(特に第一項の四において「公益的事業にふさわしい企業モラル・雇用モラルを遵守するよう、基本法および各社の基本規定において定めること。(法令順守、組織的違法行為の根絶、内部告発者の保護、非正規雇用の量的制限・均等待遇と正規への昇格の権利保障、ノルマの撤廃、労働組合差別禁止など)」と記載)を行い、また、昨年十月二十七日には「正社員化の進め方に関する申入れ」を行ったところである。
 昨年十一月の郵政非正規社員の正社員への登用確定で、八千四百三十八人の正社員化が果たされたことは、まだ少人数ながら改善の第一歩として高く評価したいし、残された非正規社員も今後に期待をもって勤務していることと推測される。
 ところが本年二月になって、この改善と全く相反する、非正規社員に対する大規模な賃下げ・労働時間縮小・雇い止めを図る会社の方針が明らかになった。よって以下、質問するので、監督官庁および株主たる政府の見解ならびに政府が承知している会社側の状況および見解を示されたい。

一 郵便物の中期的減少について

 会社によれば、郵便事業の収支悪化の原因は、中期的には郵便物の減少があり、短期的には「ペリカン便」との宅配便事業の統合に伴う臨時増員や設備投資の失敗であったという。
1 郵便物の減少は規制緩和など外部要因・社会経済の趨勢面だけではなく、民営化騒動・サービス切り下げによる利用者の離反が背景にあると考えるが、いかがか。
 また、郵便物の減少は、信書便規制の緩和による民間宅配便各社の「メール便」の急増も要因にあり、「メール便」の中には「民間事業者による信書の送達に関する法律」(信書便法)から逸脱しているものもみられると聞く。信書便法の厳格な運用が求められるが、いかがか。
2 過去の郵便物数の増減と郵便事業の損益の増減とを比較すると、相関関係にはないため、今回の郵便事業の収支悪化は、他の要素が影響していると考えられるが、いかがか。また、このように相関関係にない中で、「郵便物が減少したから人員を減らす」という短絡的な方策をとれば、例えばお歳暮便の際に混乱・遅配が発生するなどの危険性があると考えるが、いかがか。
3 政府および会社としてどのような郵便物の需要喚起策を考えているか。

二 「ペリカン便」との統合に伴う設備投資と臨時増員について

 郵便事業の収支悪化の臨時的要因とされた宅配便事業の「ペリカン便」との統合については、そもそも両社ともに赤字要因を抱えていた小包部門の統合という経営選択自体に誤りがあったのではないかという点が自問されていない。
1 この点を会社はどう考え、政府は何を根拠に当該統合を認可したのか。
2 会社は統合ありきで、大量の設備投資(備品等を含む)を行ったことをむしろ自賛している。この設備投資の額は郵便事業株式会社およびJPエクスプレス株式会社それぞれいかほどであり、そのうち冗費・遊休となったものはいかほどか。
3 今回余剰人員とみなされることになった、当該統合およびそれに伴う遅延等の一時的な混乱に対応するための臨時増員はどれほどであったか。支社別、期別に人数およびその人件費を明らかにされたい。また、この臨時増員のうち、今回削減しようとしている人数およびその人件費を明らかにされたい。
4 2の設備投資と3の臨時増員について、現時点でどのように総括し、今後どのような対策を考えているか。統合時の方針および過剰投資への反省のないまま、今回、赤字の縮小をすべて臨時要員あるいはその他社員の削減によってまかなうとするなら、経営責任の放棄ではないか。見解を示されたい。

三 郵政三事業または会社間の経費の按分比率について

 民営・分社化により、郵政三事業または会社間のコスト計算が厳しく行われているというが、それらの間に共通する部分の費用をどのように配分するかは、政策的要素もある。「共通業務を担当する社員の費用負担を一パーセント変更するだけでも、今赤字とされている郵便事業の営業損益は大きく変わる」とする経営分析も存在すると聞く。
1 現在、会社の人件費全体のうち郵政三事業または会社間の共通業務と算定している部分はどれほどで、どのように配分しているのか。その配分方法について疑問または別の観点からの案はないのか(例えば人員で按分するのと売上高等で按分するのとでは全く異なる)。また、別の観点からの案があれば、それによる郵政三事業または会社間の費用負担額の変更の試算を示されたい。
2 ユニバーサルサービスの必要性が最も高いと思われる反面、人件費コストが断然高い郵便事業に対して、共通費用の分担を過重にせず、同事業の独立採算の可能性を堅持するため、1のような試算は、常時行う必要があると考えるが、いかがか。
3 人件費と同様、建物・機械装置・車両など設備・備品の面でも郵政三事業または会社間の按分の課題がある。もともと三事業に分割した当初から、郵便事業の貸借対照表上の負債が大きすぎて、「上場企業なら維持が困難」と指摘されていた。
 適正な配分の考え方を具体例を含め示されたい。また、分社化当時、郵便事業に五千億円超の資本注入が必要といわれたにもかかわらず、それは行われなかったというが、当該資本注入を行った場合の試算と、当該資本注入が実施されなかった経過を説明されたい。

四 今回の非正規社員の雇用縮減について

 会社内部の情報を総合するに、今回の郵政非正規社員の雇用縮減は、会社として民営化や統廃合という経営方針の反省や、会社間按分の見直し、人員対設備投資のコスト間の見直しなどを行うことなく、一律に本社から支社、事業所等へ方針が下されているようである。
 そこでは、非正規社員に対し、最初に希望退職、労働時間や日数の縮減の自己申告を求め、これに応じない場合、一方的な通告、さらには契約切れを理由にした雇い止めを行うべし、とする人事業務のフローが、「通告文の雛形」とともに下達されているという。
1 告示等により、非正規社員に対し、希望退職、労働時間や日数の縮減の自己申告を求めている支社や事業所はどこであるか。
2 希望退職、労働時間や日数の縮減の自己申告に応じない場合、一方的な通告、さらには契約切れを理由にした雇い止めを行うという方針は事実であるか。
3 このような「まず人員削減ありき」の経営方針は、私の再三の質問とそれに対する日本郵政公社歴代総裁・日本郵政株式会社社長、担当大臣の答弁にも反しており、撤回すべきではないか。
4 特に、数年にわたって契約更新を繰り返している労働者の場合は、事実上の「期限の定めなき雇用」であり、労働慣行上も前記のような対応は許されないと考えるが、いかがか。

五 正社員化、均等待遇、ワーキングプアの解消に関する会社と政府の社会的責任について

 会社にとって、労働者の半数に上る非正規社員の処遇を改善し、同社員に安定した身分、正社員との均等待遇を付与することは、遅配・誤配・窓口の停滞など非熟練ゆえの顧客サービスの低下をなくし、従業員資質の向上による安定した、競争力のある、良質な業務体制を確立するために喫緊の課題であると考えるが、会社の見解および政府の見解を示されたい。
 また、監督官庁および株主たる政府にとっても、全国の企業の中でも最多の約二十万人の「官製ワーキングプア」を解消することは、尊厳ある労働を日本社会に再構築していくための社会的責務であると考える。
 この点から政府は会社に対し、どのように働きかけていくのか示されたい。

  右質問する。