質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第六二号

地上デジタル放送の難視聴地域における「地デジ難民」の回避に向けた対策の強化・拡充に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年二月十五日

加藤 修一   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   地上デジタル放送の難視聴地域における「地デジ難民」の回避に向けた対策の強化・拡充に関する質問主意書

 我が国は林野面積が総面積の六十七パーセントを占める。山岳地域が多く、総面積から林野面積等を差し引いた可住地面積比率は三十二パーセントと狭隘な国土である。
 そのような中、本年七月二十四日の地上デジタルテレビ放送(以下「地デジ」という。)への完全移行までほぼ半年と迫っている。他県においても同様であるが、群馬県内においても地デジ化による難視聴世帯が依然として存在し、潜在的な難視聴世帯もあることから、一部では難視聴世帯数はさらに増加するものとみられている。
 地デジへの完全移行に対する山間地域の対応計画はあるものの、群馬県は山間地が多く、中山間地域と平野部における地デジ化への対応は自ずと異なるものと考える。中山間地域では地理的な特殊事情とデジタル放送の特性などが相まって、多くの「地デジ難民」が発生する可能性があるのではなかろうかと懸念されている。
 群馬県では、共同アンテナが既に約三百八十か所に設置されており、そのため、難視聴世帯は約二千四百世帯と近県と比較して少ないと思われるが、北関東圏エリアでは、例えば栃木県では依然として多数の難視聴世帯が存在する。
 また、群馬県では以前から、東京タワーからの電波の受信が困難な地域が多いことから、首都圏以外の県のように、早くから県域テレビ局が開局しており、テレビ放送電波の受信の基盤整備が進んできたため、その分、難視聴世帯が他県に比べ相対的に少ないと言われている。
 しかし、難視聴世帯への実際の対応は、相談受理から対策まで一か月程度かかる場合もあることを考えると決して十分な時間の余裕はない。画質の悪いアナログ放送を視聴している地域は地デジの難視聴地域になりやすいと言われており、地デジに移行してみて実際に難視聴などの何らかの問題が発生した場合に、すぐに相談できる窓口の整備と迅速な対応が求められている。
 さらに報道によれば、日本民間放送連盟(民放連)の広瀬道貞会長は本年一月二十日の記者会見で「普及率九十九パーセントでも約百三十万人が積み残しとなる」と述べると同時に、普及率百パーセント達成に向けて取り組む姿勢を示しているものの、地デジへの完全移行の困難性が指摘されている。
 今回の地デジ化は、未開地域に新しい媒体が初めて導入されるのではなく、従来から存在する視聴受信機を地デジ対応のものに転換しなければならないという本質的な事情があることが、問題を複雑にしている。具体的な対応計画等の視点から以下の質問を行う。

一 種々の対応計画の都道府県別の対象世帯数と具体的取組について

 総務省は、地デジ視聴のために必要な対応を済ませた世帯数とその割合については、二〇一〇年十二月末現在、ビル陰で七百四十万世帯・八十九パーセント(地デジへの完全移行までの対応計画を含めると九十八パーセント)、集合住宅で千九百九十万世帯・九十六パーセント、山間地で七十万世帯・八十五パーセント(同百パーセント)と公表している。
 つまり、地デジ未対応の割合はビル陰で二パーセント、集合住宅で四パーセント、山間地で零パーセントになる予定であるが、ビル陰、集合住宅、山間地それぞれの、対応計画における対象世帯数を都道府県別に示されたい。
 また、集合住宅の対応計画はどのようになっているのか、具体的に示されたい。さらに、山間地は零パーセントとなる予定であるが、山間地のケースは地理的条件などによって著しく中継基地等の設置条件が異なり、対応計画どおりの設置は、困難が予想される。山間地における都道府県別の具体的な設置計画と受信方法を示されたい。

二 限界集落地域や高齢者対策について

 地デジに完全移行するに当たり、総務省などは、移行に戸惑う高齢者世帯が「地デジ難民」化することを防ぐため、二十万人規模のボランティアを組織して、資料配布や声かけ運動を本格的に展開するとしている。このような取組は大変ありがたいが、具体的な活動にするためには、状況把握が必要である。都道府県別のボランティア組織数、人数等について示されたい。

三 難視聴世帯が解消されない場合の地デジへの完全移行の延期について

 片山善博総務大臣は本年一月二十一日の閣議後の記者会見で「(完全移行の)期限の延長は毛頭考えていない」と述べ、地デジに完全移行できると不退転の決意を示したと報道されている。
 その決意は評価できるが、「地デジ難民」が発生し得る可能性が推測できたとしても地デジに完全移行するという見切り発車はないと考えてよいか。政府の見解を示されたい。
 同様に、本年一月二十四日総務省の「最終行動計画」の正式発表時に平岡秀夫総務副大臣は、「対策は徹底してデジタル化は必ず達成できる」と挨拶した。
 さらにNHKの福地茂雄会長(当時)、民放連の広瀬道貞会長も難視聴対策の目処がついたとして、アナログ放送停止を延期しないことを明言した。難視聴世帯を皆無にすることは、現時点で相当な困難が伴うと考えられるが、これらの発言は事実か。見切り発車を考えているのではないのか。
 何故このような質問を行うのかと言うと、最近の、政治家を含めた社会的指導者の発言の軽さを心配するからである。言うまでもなく実害を受けるのは社会的弱者であり、最大限、実害を受けないようにしなければならない。万が一、一部の世帯が難視聴であっても仕方がないなどと思っているとするならば不遜な考えである。
 難視聴世帯を皆無にした地デジへの完全移行は本当に可能なのか、七月二十四日の期限の延期はあり得ないのかについて、如何なる見解を持っているのか。

四 仮に地デジ化の延期策を取った場合の対応について

 難視聴世帯対策が進まず仮に延期策を取った場合は、民放、NHK両者は、従前と同様の放送形態を一定期間継続すると考えてよいのか。つまり、アナログ放送と、地デジが同時に存在することになるのか。どのような形になるのか。具体的な姿を示されたい。またその場合の経費は、どれくらいになるのか。総額の推計を示されたい。

五 低所得者支援措置及び山間地のデジタル中継局の徹底整備について

 米国、韓国が地デジへの完全移行期日を延期したが、日本の総務省、NHK、民放連の三者が「延期せず」とした根拠は、二〇一〇年十二月末時点の総務省調査にあると言われている。
 その調査では、地デジ未対応世帯が最大で二百五十万世帯と世帯全体の五パーセントに減っている。しかし、対応済みとされている世帯でも地デジを視聴できないところもある。
 例えば、低所得者の支援措置で地デジ対応チューナーを支給されていてもアンテナ改修工事を行っていないケースもある。年収三百万円以下の低所得世帯数は一千万世帯を超えていることから、このようなケースも決して無視できない数である。
 また、群馬県のように山間地が多い県においては、地デジ中継局の整備を進めなければならないが、採算が合わない山間地への設置については必ずしも十分に対応できていない。隠れた「地デジ難民」は、全国で二百万世帯に上るとの数字も指摘されている。このような現状をどのように認識しているのか。本当に大丈夫なのか。米国、韓国のように地デジへの完全移行期日を延期しなくてよいのか。隠れた地デジ難視聴世帯の有無について十分精査を行い、「地デジ難民」が生じないように対応を強化すべきであると考えるが、見解を示されたい。

六 難視聴世帯への懇切丁寧な対応について

 難視聴世帯が皆無になるとは想定し難い。七月二十四日を境にして、突然、難視聴になることで、実害、不利益を被る視聴者=「地デジ難民」からの強い非難がくることが十分考えられる。
 もとより地デジ化は国家政策であるが、準備万端を期すためには国民である視聴者の協力が不可欠であり、国民への不利益はできる限り最小化しなければならないものである。必ずしも国民自身には直接的な責任がないとの意見にも合理性がある。
 例えば、いわゆる現場においては、受信契約や料金徴収を行っている人に対し、アナログ放送が見られなくなることへの不満を口にし、「デジタル化は余計なお世話だ」とか、「負担をどうするのか」と言いよる視聴者もいると聞く。この現実について政府は誠意を持って数的把握を行うべきであり、危機管理的に七月二十四日当日及び翌日以降の、いわばポスト地デジ対策について十分に備えることが重要である。
 懇切丁寧な対応、機敏な対策を十分練り上げ、不手際な対応によって総務省など政府への信頼が著しく損なわれることがないよう、あらゆる対策を考え、強化・拡充を油断なく進めるべきであると思うが、いかなる見解か示されたい。
 また、総務省は、例えば民生委員や郵便配達員などの日常生活に欠かせない「世帯アクセス者」と連携して、難視聴世帯を発見するプログラムを組むなど、きめ細かで懇切丁寧な工夫をすべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

七 難視聴世帯の発見者に対する一定の謝礼について

 難視聴世帯に日常的にアクセスする機会のある人が難視聴世帯を発見した場合には、国や関係機関に報告をしてもらう態勢を整えるべきである。当該報告者に対しては一定の謝礼を与えることを考えてもよいのではないか。政府の見解を示されたい。

  右質問する。