質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第四二号

政治主導の破綻による再生・細胞医療に対する規制改革の後退に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年二月三日

浜田 昌良   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   政治主導の破綻による再生・細胞医療に対する規制改革の後退に関する質問主意書

 公明党がん対策推進本部は、平成二十年十二月三日に「免疫細胞療法に対する規制改革についての申し入れ」を舛添厚生労働大臣(当時)、甘利規制改革担当大臣(当時)に行った。この結果、「規制改革推進のための三か年計画(再改定)」(平成二十一年三月三十一日閣議決定)において、医療機関間における細胞培養・加工の委託の実現として、「医療機関が患者から採取した細胞について、別の医療機関において培養・加工を行った上で患者の診療に用いることが現行の医療法の下で可能であること及びその条件を明示し、周知徹底する」(平成二十一年度措置)とされた。また、医工連携を可能とする制度の実現として、「再生・細胞医療にふさわしい制度を実現するため、自家細胞と他家細胞の違いや、皮膚・角膜・軟骨・免疫細胞など用途の違いを踏まえながら、現行の法制度にとらわれることなく、臨床研究から実用化への切れ目ない移行を可能とする最適な制度的枠組みについて、産学官の緊密な連携のもとに検討する場を設け、結論を得る」(平成二十二年度結論)とされ、その後の制度的対応の検討スケジュールが明示された。
 これを受けて、再度、公明党がん対策推進本部は、平成二十二年五月二十五日に、「免疫細胞療法に関連した規制改革の進捗に関する申し入れ」を長妻厚生労働大臣(当時)、枝野行政刷新担当大臣(当時)に行った。この結果、民主党政権下で閣議決定された「規制・制度改革に係る対処方針」(平成二十二年六月十八日閣議決定)においても、「臨床研究から実用化への切れ目ない移行を可能とする最適な制度的枠組みについて引き続き検討し、結論を得る。その際、細胞治療・再生医療の特性を考慮しつつ、製品の開発や承認審査をいかに効率的に進めるかという観点も視野に入れた検討を進める。〈平成二十二年度中に結論〉」とされた。
 しかしながら、厚生労働省に設置された「再生医療における制度的枠組みに関する検討会」(以下単に「検討会」という。)においては、民主党への政権交代後、「現行の法制度にとらわれることなく」、また「細胞治療(中略)の特性を考慮しつつ」といった今までの累次の閣議決定の趣旨を無視し、あくまで現行の法制度の範囲内での検討に終始し、本年二月十八日の会合において薬事法の運用の改善という弥縫策でお茶を濁そうとしているとの指摘が、検討会の一部委員からなされている。
 再生・細胞医療は我が国の成長戦略にとって重要な分野であり、まさに政治的リーダーシップの下での規制改革が不可欠な分野である。しかるに、「政治主導」を標榜した民主党への政権交代後、閣議決定を無視した官僚主導の検討が横行していることに、多くの国民は疑義を覚えている。
 そこで、以下質問する。

一 平成二十二年十二月二十日に開催された検討会で公表された「検討会報告書骨子たたき台(案)」においては、本来、平成二十二年度中に結論を出すことを期待されていた「大学等、医療機関以外の専門機関が高度に品質管理された下で細胞加工などを受託する場合の基準」についてまったく言及がなされていない。それどころか、「自家細胞と他家細胞の違いや、皮膚・角膜・軟骨・免疫細胞など用途の違いを踏まえながら、現行の法制度にとらわれることなく」(平成二十一年三月三十一日閣議決定)、また「細胞治療・再生医療の特性を考慮しつつ」(平成二十二年六月十八日閣議決定)といった今までの指針を無視し、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)による相談・審査という、現行の薬事法の規制を不変の前提とした内容となっている。このような内容であれば、閣議決定で決められた「平成二十二年度中に結論」を出すことは我が国の成長戦略にとって弊害であり、むしろ、閣議決定で決められた期限を延長してでも更なる幅広い見地からの検討を行うべきと考えるが、菅内閣の見解を明らかにされたい。併せて、その検討の方向は、薬事法の運用の範囲内ではなく、医療法の委託業務への追加、さらには新法の制定など、「現行の法制度にとらわれることなく」行うことを基本とすべきと考えるが、当該閣議決定の趣旨を踏まえ、見解を明らかにされたい。

二 再生・細胞医療の普及のためには患者の負担軽減につながる先進医療制度の弾力的運用が不可欠である。一方、「厚生労働大臣の定める先進医療及び施設基準」第二に基づく先進医療は、薬事法上の承認を得ている医薬品・医療機器を用いた医療技術を一定の要件の下に保険診療と併用するものである。先進医療を提供できる医療機関は、「先進医療ごとに定める施設基準に適合する病院又は診療所」となっている。しかし、診療所にとって、「当直体制が整備されていること」、「緊急手術体制が整備されていること」、「二十四時間院内検査を実施する体制が整備されていること」等の施設要件を満たすことは厳しい。過去に公明党がん対策推進本部が申し入れを行った免疫細胞療法を例にとると、現行、先進医療としては「厚生労働大臣の定める先進医療及び施設基準」第二第六十一号、第六十二号、第六十三号に規定されている。これらについても、平成二十一年度において共同診療の下での医療機関間の細胞加工の委託が認められたこと、及び「厚生労働大臣の定める先進医療及び施設基準」第三に基づく先進医療(所謂、薬事法の承認を得ていない医薬品・医療機器を用いる先進医療)についてすら既に病院と診療所との連携が平成二十一年四月から認められていることを踏まえ、共同診療などにより連携する病院側が「厚生労働大臣の定める先進医療及び施設基準」第二の定める基準を満たせば、診療所においてはこれらの基準の全てを満たさなくてもよいようにするなど、施設基準の緩和が必要だと考えるが、政府の見解如何。

三 「規制・制度改革に係る対処方針」において、「再生医療の推進」として、「臨床研究から実用化への切れ目ない移行を可能とする最適な制度的枠組みについて引き続き検討し、結論を得る。その際、細胞治療・再生医療の特性を考慮しつつ、製品の開発や承認審査をいかに効率的に進めるかという観点も視野に入れた検討を進める。〈平成二十二年度中に結論〉」と方向付けられた趣旨を菅内閣はどう理解しているのか。
 また、「最適な制度的枠組み」の有力なあり方として、東京女子医科大学岡野光夫教授、大阪大学医学部澤芳樹教授らが参画している日本組織工学会(現在の日本再生医療学会)の自己細胞再生治療法ワーキンググループが、平成十九年に「自己細胞再生治療法法制化の考え方」を提言している。本提言では、再生・細胞医療のうち、特に自己細胞を用いる治療法を規制するに当たっては、薬事法等の既存の法制度の範囲の拡大では弊害があるとして、新たな法制度の創設を求めたものである。菅内閣全体として本提言をどのように評価しているか。我が国の成長戦略を展望した、「政治主導」の下での見解を明らかにされたい。明らかにできない場合はその根拠を明確にされたい。

四 再生・細胞医療は、その早期実施を望む患者にとっての悲願であるだけではなく、まさに我が国の成長戦略の大きな柱である。そのあり方を厚生労働省の一つの検討会に委ねるのではなく、今般、内閣官房に設置された医療イノベーション推進室が中心となるなど、内閣を挙げてそのあり方を検討すべきと考えるが、政府の見解如何。

  右質問する。