質問主意書

第177回国会(常会)

質問主意書


質問第二一号

建設現場の足場からの墜落事故に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十三年一月二十五日

岩城 光英   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   建設現場の足場からの墜落事故に関する質問主意書

 景気低迷の波に洗われる我が国ではあるが、民間ディベロッパーの投資によって、建築物の建て替えなどが行われており、建設現場を目にする機会も多い。他方、建築物の高層化などの要因もあって、建設現場で足場を踏み外した死傷事故が後を絶たない現状にある。
 厚生労働省では、建設工事の際の足場設置に関し、労働安全衛生規則(以下「規則」という。)の改正による設置基準の変更、「手すり先行工法」の採用推進等、安全確保に努めているとされる。しかしながら、平成二十二年七月にまとめられた「改正労働安全衛生規則等に基づく足場からの墜落防止措置の効果の分析について」において、改正規則等に基づく措置が実施されていないケースでは、身を乗り出すなどの不安全行動が無くても多くの墜落事故が発生しており、その件数は墜落事故全体の約七割に上っている一方、改正規則等に基づく措置を遵守している場合は不安全行動をとらない限りほとんど墜落事故が発生していないとの結果が示されている。
 このことは、建設現場での安全確保には、改正規則の遵守が不可欠であることを物語っており、事業者等にその遵守を徹底させるため、これまで以上に適正・厳格な運用が望まれる。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 厚生労働省は平成二十一年六月、建設現場の足場からの墜落・転落を防止する観点から規則を改正するとともに、同年四月、国の直轄工事で採用されている「手すり先行工法」の採用を促すための通達も出している。しかしながら、最新の数字によると平成二十二年は百三十九件の足場からの墜落・転落による死亡事故が発生しており、必ずしも規則改正や通達の効果があがっているとは思えない。このような事態について政府はどのように評価しているのか。

二 足場からの墜落・転落事故の防止効果が高いとされる「手すり先行工法」について、国の直轄工事では八十六%、地方公共団体では五十六%、特殊法人等では五十四%が採用しているのに対し、民間ではわずかに二十%の採用に止まっている。このように民間での採用率が低い要因はどこにあると考えているのか。政府の見解を示されたい。

三 平成二十一年六月の規則改正後においても、足場からの墜落・転落事故が多く発生している状況にかんがみ、厚生労働省は「足場からの墜落防止措置の効果検証・評価検討会」を設置し、同検討会は本年一月十一日に報告書案をまとめた。同報告書案では、平成二十一年六月の規則改正に基づく足場からの墜落防止措置効果は高いとした上で、直ちにその強化を図る必要はなく、現行の墜落防止措置の徹底と労働災害防止効果を継続して検証することが適当であり、また、「手すり先行工法」の義務化等は見送る旨の総括をしている。しかし、相変わらず足場からの墜落・転落による死亡事故が多く発生しているのは、規則の基準に問題があるというよりも必ずしも規則が遵守されていないところに原因があるように思われる。人命に関わる問題であることから、規則を改正して安全性が高いとされる「手すり先行工法」を義務付けるとともに、労働安全衛生法を改正して規則違反に対する罰則の強化を図るべきではないか。併せて、建設現場への労働基準監督官の立ち入り検査の回数を増やすなどにより、違反行為の摘発を強化すべきではないか。それぞれ政府の見解を示されたい。

四 平成二十一年六月の規則改正や同年四月の通達にもかかわらず、足場からの墜落事故が後を絶たない原因として、不況で安全対策にかかるコストを削減しているとの指摘もある。平成二十二年十月に岐阜市で解体作業中の建物の壁面が崩壊して、通行中の女子高校生が死亡した事故があったが、その事故も安全対策の不備が指摘され、その原因として安全対策にかかるコスト削減が挙げられている。昨今建設工事等におけるダンピング受注が進んだ結果、安全対策にかかるコストが削減され、労働者の安全が犠牲になっているとすれば、厚生労働省がどのような墜落事故防止対策を採っても実効性が十分に得られないと考える。そこで、ダンピング対策の強化も図るべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。