質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一九四号

医薬品販売に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十二月三日

又市 征治   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   医薬品販売に関する質問主意書

 私は、薬事法改正の前後にわたって、委員会質疑及び質問主意書により、国民のための安全な医薬品提供体制の確立を求めてきた。
 しかしながら、厚生労働省の調査等によっても、この法改正の趣旨を活かした医薬品販売や情報提供・相談の体制は確立したとは言いがたく、他方で「規制緩和」の名による無秩序な販売体制が拡大される動きもあって、利用者の事故や紛争につながりかねない販売現場の実態が報告されている。
 よって、改めて、専門家の育成・資格認定、販売現場での活動と無資格者の問題、配置販売業における問題解決について、厚生労働省による施策の徹底を求め、以下質問する。

一 「判決要旨」について

 医薬品ネット販売をめぐる「医薬品ネット販売の権利確認等請求事件」判決(東京地方裁判所平成二十二年三月三十日)は、厚生労働省の主張が十分反映されたものと考える。そこで「判決要旨」にある「能動的情報提供」、「販売者側の能力と資質」、「使用者が多人数で、購入者以外の者である場合の情報提供の効力」について以下質問する。
1 能動的情報提供について
 医薬品の適正使用のための情報提供の方法は、能動的情報提供すなわち「販売に当たる有資格者が自ら購入者と直接に対面し、その様子等(購入者の年齢、性別、体格、その他身体上の特徴、顔色、表情等の外見や行動、態度、しぐさのほか、声質や口調等)を見聞きして、直接の視認及び能動的・双方向的な聴取を即時・確実に行うことを通じて、販売者側が購入者側(購入者の家族・知人等が使用者である場合の当該家族・知人等を含む)の属性・状態等を的確に把握し、それに応じて情報提供の要否・内容及び使用の適否を的確に判断する」と考えてよいか。
2 販売者側の能力・資質について
 販売者側の能力・資質に関して、「購入者と対面することを通じて、医薬品の効能・副作用に関する専門的知識を活用して、購入者側の属性・状態等を的確に把握し、それに応じて情報提供の要否・内容及び使用の適否を判断することに必要な能力・資質が求められている」と考えてよいか。
3 使用者が多人数で、購入者以外の者である場合の情報提供の効力について
 購入者が一人で、実際の使用者が購入者以外の者で十人、二十人、三十人と多数の場合、対面による販売であれば、購入者からの直接の能動的・双方向的な聴取を通じて、全ての使用者の属性・状態等を的確に把握して、それに応じた情報提供の要否・内容及び使用の適否の判断を行うことは可能か。
 また、「判決要旨」にある「消費者一般に一般用医薬品の副作用の危険性に関する意識・認識が十分でない傾向が我が国の現在の実情であるとされており、一般用医薬品の副作用による薬害患者には、添付文書を読まずに服用して発症した者も多いことや薬店で売っているからそれほど強い薬ではないだろうと思っていることに加え、一般用医薬品の添付文書について分かりにくいとの意見が少なくない」現状において、購入者が実際の全ての使用者に対し、有資格者から提供された情報を正確に伝達(説明)することは可能か。

二 「対面販売」及びその定義の明文化について

 平成十八年の薬事法改正に当たって、厚生科学審議会の医薬品販売制度改正検討部会は、「対面販売を医薬品販売に当たっての原則とし、副作用のリスクの相応に高い一定の医薬品については、対面販売とすべきである」と提言したが、薬事法に盛り込まれなかった。
 答弁書(内閣参質一七三第七八号)において、政府は「「対面販売の原則」(中略)の趣旨は、薬事法第三十六条の五、第三十六条の六等の規定から明らか」と文理上の解釈を示し、同法第三十六条の五、第三十六条の六をみると「厚生労働省令で定めるところにより」とある。
 先般の医薬品ネット販売業者からの訴えでは、「法の授権を欠き、憲法第四十一条に違反する」としているが、これは法令上、前記省令委任のみで、薬事法の条文に「医薬品の対面販売原則」の記載がないことが一因ではないか。
 「医薬品の対面販売原則」を定義し、薬事法に明記すべきではないか。

三 「専門家による間接的管理及び指導の下」での一般従事者について

 平成二十一年五月八日付けの厚生労働省通知に「第一類医薬品については、薬剤師に、自ら又はその管理及び指導の下で登録販売者若しくは一般従事者をして、当該薬局において、対面で販売させ、又は授与させなければならないこととしたこと」、「第二類医薬品又は第三類医薬品については、薬剤師又は登録販売者に、自ら又はその管理及び指導の下で一般従事者をして、当該薬局において、対面で販売させ、又は授与させなければならないこととしたこと」、「医薬品を購入し、又は譲り受ける者から薬剤師又は登録販売者に対して説明を要しない旨の意思の表明があった場合には、同項に規定する情報提供を行うことは要しないこと」(店舗販売業、配置販売業も同様)とある。
1 「間接的管理及び指導の下」の効力について
 薬剤師等が調剤等他用にて販売に立ち会わなくても、所謂、間接的管理及び指導の下という解釈で、情報提供を禁止されている一般従事者に単独で当該薬局において、対面で販売させ、又は授与させてもかまわないか。
2 二回目以降なら可能かについて
 初回のみ薬剤師等の有資格者が購入者に対し情報提供を行えば、二回目以降、薬剤師等の有資格者が販売に立ち会わず、情報提供を禁止されている一般従事者のみが応対し、継続的、機械的に同一の医薬品を販売し続けることが可能か。

四 配置販売における一般従事者の取り扱いについて

 富山県厚生部くすり政策課より、平成二十二年七月二十六日付けで「平成二十一年度医薬品配置販売業及び従事者総数全国集計(平成二十一年十二月三十一日現在)」が公表された。
 これによると、新配置一般従事者中の有資格者率が全国平均で二十一・六%、最低では四・八%と、情報提供する意思の感じられない、集計を実施した係官も驚く許可の実態、新法にも移行しない現状も判明した。
 平成二十一年五月十一日の円滑化検討委員会において、厚生労働省は「情報提供は販売時毎に最終的に専門家が必ず行う」、「説明を行うか否かは専門家が判断する。かつまた説明が努力義務である以上、先ず説明する必要がある」、「情報内容要否判断は専門家が行わなければならない」と答弁している。
 平成二十一年六月十七日の政府規制改革会議と厚生労働省との討論会で、配置薬の情報提供について、厚生労働省は「配置時に説明を行う」、「配置箱に入れるすべての薬の説明をする」、「少なくとも、配置時の情報提供というのは対面で行っている」と答弁している。
 答弁書(内閣参質一七三第七八号)の一の4でも「医薬品についての情報提供を購入者等に対し行う必要があるかどうかの判断は、薬剤師等が行わなければならないことは明らかである」としている。
 ところが、配置販売業界において、一般従事者が行える業務について、情報提供以外の「医薬品の使用状況の確認と点検」、「情報提供の要否の確認」、「情報提供の不要な場合の医薬品の補充」、「代金の請求」等の業務を行うことができるとされた省令を拡大解釈している。
1 配置販売の一般従事者についての拡大解釈の可否について
 配置販売の現場においては、初回配置の時に薬剤師等の有資格者が購入者に対し情報提供を行えば、二回目以降の配置販売(訪問)において、有資格者と一般従事者の伝達体制を確立しておけば、薬剤師等の有資格者が販売に立ち会うことなく、情報提供を禁止されている一般従事者が行える業務を拡大解釈し、一般従事者を配置販売の主体として、継続的、機械的に同一の医薬品を配置販売し続けられると解釈されている。
 この解釈は、改正薬事法の趣旨に適うものか。
2 配置販売の「実務経験」要件について
 専門家の直接指導(専門家に同行)がない状態での、一般従事者単独による配置販売業務は、登録販売者試験受験の要件としての「実務経験」に入らないのではないか。
3 無資格者では情報提供等の要否を判断できない状況について
 無資格の一般従事者が単独で配置販売を行えるとした場合、「情報提供の要否の確認」で「否」とされた場合、無資格者故に、購入者側(購入者の家族・知人等が使用者である場合の当該家族・知人等を含む)の属性・状態等を的確に把握し、それに応じて医薬品の使用の適否、情報提供の要否の判断ができず、一般用医薬品の安全性を確保できないのではないか。
4 厚生労働省の指導徹底の必要性について
 厚生労働省は、配置販売においては、
(1) 必ず薬剤師又は登録販売者が消費者宅を訪問し、能動的情報提供を行うこと
(2) 一般従事者は、薬剤師又は登録販売者に同伴し、消費者の居宅を訪問、薬剤師又は登録販売者の直接の指導、監督の下、補助業務を行うと同時に、薬剤師又は登録販売者が行う能動的情報提供等を学ぶことで実務経験を積むこと
 を改めて示し、各都道府県に徹底し、業者を厳格に指導するべきではないか。

五 事業所への配置販売の是非について

 答弁書(内閣参質一七三第七八号)の一の5で「事業所の代表者に対しても薬剤師等が対面で情報提供を行うことにより、当該情報提供を受けた事業所の代表者が、医薬品の使用者に十分な説明等を行うことができる」、「医薬品の使用者が特定され、医薬品の使用に当たり適切な情報提供が確保される場合に限り事業所への医薬品の配置を認める」とある。
 しかし、当該事業所の代表者は無資格者であり、この者に、多数の従業員の既往病や体質を把握し、医薬品の使用の適否の判断、情報提供(十分な説明)を行わせることは、専門家による対面での医薬品の情報提供・相談応需と矛盾するのではないか。

六 既存配置販売における新規従事者の取り扱いについて

 消費者国民の多くは、薬剤師等の専門家が医薬品の販売や情報提供に直接従事していると考えている。ところが、改正薬事法施行後も申請だけで、新規に雇用する無資格、未経験者が教育をなされないまま、医薬品の配置販売が行われていると聞く。
 専門の教育を受けない無資格、未経験の新規従事者(既存配置販売業者の配置員)が、第二、第三類医薬品の販売をすることは、消費者国民に健康被害を生じさせる恐れがある。
1 既存配置販売業者の新規雇用者への講習の状況について
 平成二十二年八月実施の既存配置販売業者資質向上講習に係る調査で、既存配置販売業者が新規に雇用する無資格、未経験者のための講習、とりわけ配置販売に従事する前に行われる講習の状況は如何か。
2 従事前の講習修了の必要性について
 配置販売に従事する前に、無資格、未経験者のための講習を受講し修了させなければならないのではないか。
3 厚生労働省認定機関による講習の必要性について
 無資格、未経験者のための講習は、随時速やかに厳格に行われなければならず、業者自身が行うのでは利害関係にあり、透明性、客観性に欠けることから、厚生労働省が審査認定した専門の機関で行わせるべきではないか。

七 既存配置販売における従事者の資質向上について

 答弁書(内閣参質一七三第七八号)に「客観性及び透明性」の確保や「講習等の内容については、資質向上通知(中略)基準に基づいて適切な講習等が行われるよう(中略)都道府県を通じて既存配置販売業者を指導してまいりたい」、薬食総発第〇三三一〇〇一号に「客観性と透明性を十分確保すること」、一般用医薬品販売制度に関するQ&Aにも「予め当該講習で用いる試験問題を知りうる立場であったり、当該講習の受講者を評価する立場であったりするのは講習の客観性確保の観点から適当でない」とある。
 ところが、資質向上講習の実施状況は、資質向上通知基準に程遠いと聞いている。
 更に、指導、監督する立場の都道府県の職員自らが、一部の業者や一部の団体の講習、研修等に直接参加しているとも聞いている。
1 地方行政職員が一部団体主催の講習を担当することについて
 既存配置販売従事者の資質向上の講習に対し、地方薬務行政の職員が自ら一部の業者や一部の団体の講習にのみ参画することは、その一部の業者や一部の団体への優遇、癒着、利益供与と見做される。
 地方薬務行政の職員は、実施される講習等の客観性及び透明性、実効性の判断や指導監督をする立場を堅持すべきではないか。
2 既存配置販売の講習のあり方について
 「判決要旨」からすると、購入者と対面することを通じて、医薬品の効能・副作用に関する専門的知識を活用して、購入者側の属性・状態等を的確に把握し、それに応じて情報提供の要否・内容及び使用の適否を判断すること(マニュアルどおりではない受け答えをすることも含まれる)に必要な能力・資質の向上が既存配置販売従事者にも求められている。
 よって厚生労働省は、「既存配置販売従事者の資質向上通知基準に基づいた適切な講習等を行うに当たっては、客観性、透明性を十分に確保し、利害関係者を排除した教育を専門とする機関により実施すべき旨」、改めて地方薬務行政を通じて既存配置販売業者を指導すべきではないか。

八 配置販売業に対する薬事監視の実施状況について

 「薬局や一般販売業等においては、薬事監視により、店舗毎に法遵守するよう厳しく指導されてきた一面がある」と薬事監視担当者は分析する。
 二〇〇八年度薬事監視の実績(実施状況)をみると、薬局について四十八・六%、一般販売業について七十六・六%が実施されている。
 しかし、配置販売業に対する薬事監視の実施状況は、「販売業」〇・九%と著しく低く、実施率は、薬局と比較し五十四倍、一般販売業との比較にいたっては八十五倍以上の格差がある。この状況は、厚生労働省の配置販売業に対する優遇と受け取られている。
 参議院厚生労働委員会附帯決議(平成十八年四月十八日)(以下「附帯決議」という。)三には、「制度の実効性を確保するよう薬事監視の徹底を図ること」とあるが、二〇〇九年度以降、配置販売業に対する薬事監視率は、改善されたか。
 また、薬事監視や調査を業態の別なく実施するべきではないか。

九 資質向上にかかる行政指導と法律遵守の方策について

 附帯決議九に「配置員の資質の向上に向けた取組を行うよう指導するとともに、新制度への移行を促すこと」とある。
 これを受け厚生労働省は、「地方に対し、内閣総理大臣答弁書、厚労省通知、一般用医薬品販売制度に関するQ&A、資質向上の為の継続研修を発出してある。罰則が無いが、知事の許認可権もあり、改正法附則第十二条に規定する既存配置販売業者の資質向上講習は、厚生労働省医薬食品局総務課長通知の通りにできる筈だ」としている。
 であれば厚生労働省は、附帯決議四「一般用医薬品の販売に従事する者については、都道府県等と連携し、その資質の向上に努めること」に沿い、都道府県に対し附帯決議三「制度の実効性を確保するよう薬事監視の徹底を図ること」を厳格に実施させるべきではないか。
 また、資質向上を怠る業者への対処として「既存配置業者の経過措置期限に定めが無い点が原因で、経過措置規定を廃止すべきだ」との厳しい批判もあるが、一律的な廃止は、法に従っている業者を廃業に追いやることになる。したがって両者を峻別し、悪質な業者には、個別に経過措置の停止、販売の許可をしないことなど、法の遵守のため有効な行政上の方策を、都道府県と協力して実施すべきではないか。

  右質問する。