質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一九〇号

海上保安体制の構築と装備の強化等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十二月三日

加藤 修一   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   海上保安体制の構築と装備の強化等に関する質問主意書

 我が国は四方を海に囲まれた「海洋国家」であり、領海及び排他的経済水域(EEZ)の面積は国土面積の約十二倍にあたる約四百四十七万平方キロメートルにのぼり、世界第六位の管轄海域を有している。また、海岸線の総延長は三万五千キロメートルで、ほぼ地球一周に相当する。
 我が国は海洋から多大なる恩恵を受けてきた。また、最近の調査によれば、バクテリアから哺乳類まで、世界の全海洋生物の約十五%が日本のEEZに存在しており、我が国は生物遺伝大国である。さらに、「森・里・海連環学」という学問体系の進展により、森から海までの総合的管理を目指すようになってきており、山が多い群馬県においても、山から海洋までつながる一体的な議論ができるようになっている。このような新しい展開と同時に、海洋は多くの課題を我が国にもたらしている。
 例えば、本年九月に起きた尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件に見られる密漁船をはじめとする不審船等の侵入、国際テロや国際犯罪組織の脅威、昨今の海洋権益をめぐる近隣諸国との関係緊迫化、船舶の高速化・大型化に伴う大規模海難の発生等々である。こうした多岐にわたる海洋における事案については、海上保安庁が多くの任務を担っており、海上保安体制の充実・強化が課題とされてきた。
 そこで、以下質問する。

一 海上保安庁の装備について

 海上保安庁の巡視船、巡視艇、航空機といった装備は、昭和五十年代に集中的に整備されており、近年、それらが老朽・旧式化し、装備の更新が必要となったことから、平成十七年度末より装備の緊急整備を行ってきている。平成二十二年度当初予算では約三百二十六億円が計上され、今回の平成二十二年度補正予算では八十四億円が要求されているが、同補正予算が措置された場合の緊急整備の進捗状況について示されたい。

二 海上保安体制構築のための大綱の策定について

 馬淵国土交通大臣は、参議院国土交通委員会(平成二十二年十月二十八日)において、海上保安庁も中長期的な体制構築を提示した大綱のようなものが必要である旨述べているが、そもそも今後の中長期目標として、どのような海上保安体制を構想しているのか、政府の見解を示されたい。
 また、海上自衛隊の海上警備行動についても、今回の中国漁船事案のような問題に際し、円滑に発動できるようにすべきであると考えるが、見解如何。

三 高速船艇等の保有状況について

 平成十一年三月二十三日に起きた能登半島沖不審船事案では、海上保安庁の巡視船艇・航空機が不審船を追跡し、巡視船による威嚇射撃などを行ったが、巡視船艇の速力・航続距離、装備が不十分であったため、停船をさせることができなかったとされる。
 その後、この教訓・反省を踏まえ、海上保安庁と防衛省の連携強化を図ると同時に、不審船の監視体制・対応能力を強化するため、不審船を捕捉するのに十分な速力・航続距離、武器等を有する高速特殊警備船や夜間監視能力を強化したヘリコプターの整備を進めてきたとされるが、現在当該船艇・航空機をどの程度保有しているのか、現状と課題について示されたい。

四 新型船艇建造の加速化と装備の強化について

 今回の中国漁船事案や北朝鮮による韓国領土砲撃事件などで国際情勢は緊迫の度を高めており、耐用年数を超える老朽艦については速やかに新型船艇に切り替えることが急務である。海上保安庁は、耐用年数を超えた船艇を何隻保有し、いつまでにこれらを新型船艇に切り替えるのか示されたい。併せて、現在の当該計画を今後加速化させることについて、見解を示されたい。
 また、海上保安庁の通信装備についても、その一部が市販の無線機で傍受可能なアナログ型であると聞くが、海上自衛隊の艦船と情報共有が可能な秘匿性に優れたデジタル無線機に、早急に一新すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。
 さらに、我が国の広大な海域における外国船舶の不当な行動等を把握できるレーダー及び潜水艦の動きを探知できるソナー装備など、装備の強化が重要と考えるが、政府の見解を示されたい。

五 最新の暗号アルゴリズムの導入による二〇一〇年問題への対処について

 コンピュータの処理能力向上や暗号解読技術の進歩により、データの暗号化や改ざん、なりすましを検知するうえで現在重要な役割を果たしている暗号アルゴリズムの安全性が低下し、暗号化されたデータが解読される危機が次第に迫ってきている。
 事実、平成二十年十二月に、欧米の研究グループが「PlayStation3」を二百台用い、ある暗号アルゴリズムの脆弱性を突いて、偽証明書の作成に成功した他、本年一月には、日本国内のNTTを含む研究グループによって、RSA公開鍵暗号への有効なアタック方法が見つかったといわれている。
 このような状況を以前から指摘していたアメリカ商務省国立標準技術研究所(NIST:National Institute of Standards and Technology)は、本年を目途にデファクト暗号の新旧交代の実現を目指すガイドライン「NIST/SP800‐57」を公表している。従って、「二〇一〇年までは利用可能」と記されたガイドラインに準拠したレベルの暗号技術しか実装していない製品やサービスの提供ベンダは、平成二十三年以降に必要とされる技術への対応を迫られることになる。このような背景を考えると、政府が正に使用する機器については、最新の暗号アルゴリズムを組込んだ、当面の間は完璧な状態となるものとすべきであると考えるが、見解を示されたい。

六 海上保安庁の情報収集能力の向上と領海侵犯事案に対する法の整備について

 今回の中国漁船事案に限らず、これまでも外国船舶による我が国海域の主権侵害や海洋権益を脅かす事件が度々発生している。こうした外国船舶の活動に対しては、我が国海域に侵入する前に情報をキャッチし、未然に防止することが望ましいが、侵入してきた場合には、即時に発見して対処することが重要だと思われる。そこで、海上保安庁の情報収集体制に対する現状と今後の在り方について、政府の見解を示されたい。

七 情報衛星やその他日本所有の科学、商業衛星による情報の効果的利用について

 日本は今までに多くの地球観測衛星を打ち上げてきた。衛星が集めたデータは、陸地・海洋・大気に見られる地球環境の状況把握を通して、天気予報、災害監視、資源探査、森林管理、漁場管理などの幅広い分野にわたって活用され、人類に役立っている。平成十五年十月、宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)が統合され一つになり、宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行うことのできる機関となった、総務省・文部科学省所管の独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、地球観測衛星の開発、地上設備によるデータ受信・記録・保存・提供・データの利用研究を含めた「地球観測システム」を構築し、地球環境変動予測の高精度化や安全・生活向上を目的として、人工衛星による地球観測を推進しており、海洋面への測定技術も、世界のトップクラスである。こういった既存の技術体系によって、宇宙空間から、日本領海、EEZなどにおける新しい危機管理を行うことが考えられる。領海進入等の監視に対して、日本国民の税金によって運用している人工衛星のデータを大いに活用することにより、証拠の蓄積や抑止効果の発揮を図るべきではないか。政府の見解を示されたい。
 また、時間のかかる対策ではあるが、我が国の技術の粋を結集した高感度カメラを人工衛星に搭載して、高高度からの監視体制の強化を図るべきではないか。見解を示されたい。
 さらに、韓国が北朝鮮の砲撃の映像をいち早く国民に公開したように、領海進入等を撮影した映像の公開も危機管理の一環であると考えるべきであると思うが、見解如何。
 もちろん、同じ領海を監視するには、人工衛星の周回軌道に依存するが、たとえそれでも領海進入等に対する抑止効果の一部を果たせるものと考えるが、見解を示されたい。

  右質問する。