質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一五六号

水源林取引の規制強化に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十二月一日

紙 智子   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   水源林取引の規制強化に関する質問主意書

 北海道で外国資本による各地の森林買収が次々と明らかになっている。二〇一〇年九月時点では、二〇〇九年の林地取得が私有林七カ所四百六ヘクタールと他二カ所が報告されていたが、北海道の森林所有企業への調査によってさらに二十四カ所三百五十七ヘクタールが確認され、これまでに合計三十三カ所八百二十ヘクタールが中国(香港)、オーストラリア、米国、ニュージーランド、シンガポール、英領ヴァージン諸島等々の法人、個人に買収されていた実態が明らかになった。いまなお所有者が判明しない森林面積も三万九千ヘクタールにのぼり、所有権の把握それ自体が困難な作業であることも浮き彫りとなった。
 外国資本が買収した森林の中には、十六カ所計五百三十一ヘクタールの水土保全林を含む一方、水土保全林を所有する企業など国内外二千百四十一社を対象に実施したアンケート調査では、あて先不明が九百十三社(四十二パーセント)にのぼり、さらに多くの水土保全林、水源林が買収されている懸念がある。
 森林の国土保全、水資源の涵養などの公益的な役割は国民生活に直結したものであり、国の責任でとりくむべき課題であることに鑑みると、速やかな実態把握とともに、外国資本による水源林買収の規制強化にとりくむ必要がある。
 そこで以下、質問する。

一 森林・林地売買の把握について

1 現在、都市計画区域外の一ヘクタール以上の土地売買については、国土利用計画法により、土地売買の契約締結後二週間以内に市町村を経由して都道府県知事へ届出を行うことが義務付けられている。しかしながら、国土交通省が毎年度、社団法人全国宅地建物取引業協会など関係団体に発出している「国土利用計画法に基づく事後届出制の周知徹底等について」で「一部の宅地建物取引業者の中には届出が必要な土地取引について届出がなされていないなど、本制度の趣旨が必ずしも徹底されていない場合が見受けられる」と指摘しており、届出されない土地売買も相当数あるとみられる。政府は、届出が必要な土地取引のうち、届出されていないのはどの程度だと認識しているのか。
2 国土利用計画法第二十三条違反(届出義務違反)の検挙件数、処罰件数の推移を一九九八年以降直近まで示されたい。
3 一九九八年の国土利用計画法一部改正前は、契約締結前に土地の利用目的と価格を都道府県知事に届け出る許可制をとっていた。その事前届出制の下では、都市計画区域外の一ヘクタール以上の土地売買については、都道府県の把握が可能だったと考えてよいか。
4 林野庁は四月一日、「外国資本による森林買収に関する情報の収集等について」を各都道府県に発出し、「森林に関する権利の移転等の状況の把握、地元森林所有者等からの聞き取り等を積極的に行うとともに、各種会合等あらゆる機会を通じ森林・林業関係者団体に関連情報の提供を依頼するなど外国資本による森林買収に関して、広く情報の収集に努めること」を要請している。北海道での買収事例を把握した後の十月七日にはさらに、「土地担当部局と連携してこのような森林に関する権利の移転の状況の把握等を通じて、情報収集の強化」を依頼している。この調査結果を示されたい。
 また林野庁は、届出されない林地売買も含め、森林・林地取引の実態を把握するための対策を検討しているか。

二 国土利用計画法の早期の規制強化について

1 東京財団政策提言「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点~日本の水源林の危機Ⅱ~」によると、「五ヘクタール以上の大規模な土地売買がこのところ増えている。二〇〇〇~二〇〇二年は年間八百件余りだったが、それ以降、増加をつづけ、直近三年(二〇〇六~二〇〇八年)は千百~千二百件だ。四十~五十%の増加である。五ヘクタール以上の土地取引は、ほとんどが森林と考えてよい。その土地取引総面積は、過去十年間で一万四千ヘクタール(一九九九年)から三万二千ヘクタール(二〇〇八年)へと倍増している」と指摘している。
 ところが政府は、国土利用計画法にもとづき土地取引の件数、届出件数を利用目的別などに集計するにとどまり、一ヘクタール以上の取引を届出要件としている森林、林地の取引件数、面積さえ正確に把握していない。
 今後、早急に森林取引の面積、件数を把握すべきではないか。
2 北海道では、海外在住の個人が所有していたニセコ町の〇・九ヘクタールの林地が二〇〇八年に中国(香港)資本に買収されていたことが森林調査簿、登記簿謄本の調査で明らかになった。
 現行制度では一ヘクタール未満の林地取引は届出義務がなく、こうした小面積の転売がくり返されることで、所有者が把握できなくなる事態も懸念される。林地・森林取引の届出面積は一ヘクタール未満も含めるべきではないか。
3 一九九八年の国土利用計画法一部改正は、大規模な土地取引について事前届出制から事後届出制への移行、地価が相当程度上昇している区域に限り大規模な土地取引について届出を事前とする注視区域の創設を柱とするものであり、自民、民主、公明、社民、自由、さきがけ、改革クラブなど日本共産党以外の各党の賛成多数で可決成立したものである。
 政府は、外国資本による土地買収について関係省庁で検討するとしているが、当面、ただちに国土利用計画法の都市計画区域外の事後届出制を規制緩和前の事前届出制・許可制に戻すべきではないか。

三 森林・林地所有者の把握について

1 北海道では、所有者が不明の三万九千ヘクタールのうち、まず所有者未確定の九百十三社(一万四千ヘクタール分)の特定方法として、再度の企業住所の調査を行い、住所が判明した企業へアンケートを送付する。一方、住所が判明しない企業の所有森林については、森林計画図と地籍図を照合して地番を割り出した上で、法務局で登記簿謄本を取得し記載されている住所氏名にアンケートを送付する手順だが、地番調査にはかなりの時間を要するとみられる。
 また残りの二万五千ヘクタールは林地の区画数が約百十三万筆となっており、これら細分化して分譲された林地の所有者特定もたいへんな作業である。
 現在は、所有者の異動を捕捉する仕組みが「土地売買届出書」以外にないため、相続などの捕捉はきわめて困難となっている。
 この際、所有者特定を迅速にすすめるため、林地・森林の公益的機能に鑑み、地方税法第三百八十二条により法務局が各市町村に提出している「登記済通知書」にもとづき市町村が保有する情報を森林所有者の把握のために活用できないか。
2 そもそも登記については、所有者の登記漏れ、相続時の名義変更漏れが珍しくないと指摘されていることを政府はどのように認識しているか。
3 地籍調査が国土の四十八%にとどまっており、境界の確定には隣接する土地の所有者の合意が必要だが、山村の場合、現地で隣地を把握する人が高齢化しており、山村の地籍調査を緊急にすすめる必要がある。政府として現状をどう評価し、改善しようとしているか。

四 水源林を購入した市町村への助成について

 北海道ニセコ町では、中国(香港)、インドネシア、スイス、シンガポールなどの外国法人、個人に林地が買収されているが、地下水保全のため今後、土地開発基金を活用して、水源周辺の森林を町有林とするために買収することを決定した。また北海道乙部町では町内で森林買収の話があればすべて町が買い上げるとして、急遽二百八十ヘクタール分の予算を用意した。
 こうした取組は水源林を公有林化するもので確実な保全対策として非常に重要だが、資金がなく着手できない自治体も多数あるとみられる。
 そこで、市町村が水源林を買い取るなどして公有林化する場合、水源林保全の重要性から、国が一定の財政補助を行う仕組みを検討すべきではないか。

五 外国資本による水源林取引の規制強化について

 外国資本による森林・林地買収の目的は明らかではなく、表面的には資産保有などとしているが、東京財団が繰り返し指摘するように「水」取得のための水源林買収の可能性がある。今後、世界的に水が逼迫するといわれている中で、外国資本がわが国の豊かな水資源を獲得し、利益追求によって森林資源が破壊されたり、水資源が枯渇されたりすることはあってはならない。
 こうした水源林を保全することは国の責任で行うべきであり、重要な水源林を区域化(ゾーニング)し、外国資本の買収を規制する仕組みを検討すべきではないか。

  右質問する。