質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四八号

海洋生物多様性保全と魚礁設置事業をはじめとする水産公共事業の見直しに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十二月一日

紙 智子   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   海洋生物多様性保全と魚礁設置事業をはじめとする水産公共事業の見直しに関する質問主意書

 現在、環境省を中心に海洋生物多様性保全戦略が検討されている。その目的は、「海洋の生物多様性の保全及び持続的な利用についての基本的な考え方と施策を展開する方向性を示す」ことにある。報告案では、「沿岸部の開発は、通常海岸線の物理的な改変を伴い、陸上部における海岸地形の変化の他、海中では浅海域の生態系の喪失、流況の変化等をもたらす。藻場、干潟、砂浜等の喪失は、海洋生物の生息・生育場を奪うばかりでなく、その生態系が有する浄化能力を低下させることにより、富栄養化の一因ともなる」として、沿岸部の開発が、海洋生物多様性にマイナスの影響を与えてきたことを明らかにしている。そして、「沿岸域では、藻場、干潟、サンゴ礁、砂堆などの生態系の減少や質的な劣化により、漁業資源を生み出す環境容量そのものが小さくなっていることが問題となっており、持続可能な漁業生産を実現するためにも、藻場・干潟を含む漁業環境の保全を図る必要がある」としている。ついては、このような視点で、水産公共事業全体の見直しが必要と考える。以下質問する。

一 生物多様性保全と漁業資源の確保の上からも藻場干潟の保全・造成の重要性が指摘されているにもかかわらず、二〇一一年度農林水産概算要求では藻場干潟の保全支援のための環境・生態系保全対策予算を前年度比九十五%と削減している。なぜ、これだけ重要な予算なのに概算要求段階で削減したのか。抜本増額する考えはないか。

二 生物多様性保全と漁業資源の確保のために本来藻場干潟の造成にこそ水産公共予算を重点的に配分すべきであると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 海洋生物多様性保全の観点で、水産公共事業全体を見直すべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

四 魚礁設置事業については、この海洋生物多様性保全戦略において何の言及もない。少なくとも生物多様性保全と漁業資源の確保の上で、その効用は認められないと言える。まして、前回の質問主意書(本年四月二十六日提出)でも指摘したように、ほとんど潮流がない水域に魚礁を設置することは、魚の蝟集効果さえ望めない、全くの無駄な事業と言える。また、魚礁の安定計算の設計流速が、毎秒〇・二七四メートルというきわめて緩い潮流流速しか想定していない魚礁を認めていること自体が、その魚礁設置事業に補助をしている以上、国費の無駄と言わざるを得ない。このような魚礁設置事業を見直す考えはないか。

五 現在、FRP廃船を魚礁設置事業に活用する検討が進められているが、それはまさにプラスチック産業廃棄物を大規模に海中投棄することを推進するようなもので、海洋生物多様性保全に真っ向から反するものと言える。直ちに検討を中止すべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

六 本年十一月九日に公正取引委員会は、鹿児島県が発注する海上工事の入札等の参加業者に対して排除措置及び課徴金納付命令を発した。魚礁設置事業をはじめ海上公共事業の入札等で談合が行われていた。同様の入札談合は、長崎県県北振興局発注の海上土木工事においても行われ、さらに長崎県対馬支庁発注の海洋土木工事でも行われており、氷山の一角とも言える。このような海洋土木工事の談合体質の是正について政府はどう取り組むつもりか。また、魚礁採用について、随意契約になっていることは、中小メーカーの参入を阻害するなど問題であり、是正されるべきである。政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。