質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八六号

尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件ビデオ映像の動画共有サイト等への流出及び情報管理等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十一月九日

加藤 修一   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件ビデオ映像の動画共有サイト等への流出及び情報管理等に関する質問主意書

 海上保安庁が尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を撮影したビデオ映像と思われる動画が、インターネット動画共有サイトYouTubeに投稿された。当該動画は、「本船に当てました」との音声が入るなど、臨場感があり、生々しいものである。また、当該動画は、当初誰でも見ることができる状態になっていたが、二〇一〇年十一月五日午前八時五分時点では、「この動画はユーザーより削除されました」と表示され見られない状態となった。しかし、同日午後二時現在、再掲されている。
 さらに、当該動画は、十一月四日付けで「sengoku38」というアカウントから六本に分けて投稿されており(全体の総時間は約四十四分)、このうち、「本当の尖閣 海上保安庁1」というタイトルの動画は、冒頭に巡視船「よなくに」から撮影されたとのテロップが出て、始まっているとのことである。
 一方、中国の大手ポータルサイトにもYouTubeに投稿されたものと同様の動画が投稿されている。このポータルサイトは、「酷6網」(ku6.com)であり、中国だけでなく世界中のニュースや情報が掲載されている情報サイトといわれている。同ポータルサイトは、一般のインターネットユーザーが映像を投稿することができることから、当該動画を投稿した人物が中国人か日本人かは現在不明であるが、当該動画のタイトルは「情報Angel Girl」となっている。
 当該動画がYouTubeに投稿される前に国会では、衆参予算委員会理事会及び理事懇談会において中国漁船衝突事件のビデオ映像の公開について議論がなされてきた。その結果、十一月一日午前八時から、衆議院第一議員会館地下一階特別室において、政府から衆議院予算委員会に提出されたビデオ映像を、鈴木久泰海上保安庁長官の説明のもと、衆参予算委員会理事等約三十人で視聴を行ったところである。私も理事の一人として出席していた。視聴したビデオ映像は全体で約六分五十秒に編集されており、二編からなっていた。即ち、約三分二十秒の「巡視船よなくにビデオ」と約三分三十秒の「巡視船みずきビデオ」である。両方とも中国漁船が海上保安庁巡視船に衝突してきた内容であった。
 中国漁船が我が国の領海を侵犯し堂々と漁業活動をしていることにより、日本国民、特に漁業者が安心して操業できないなど、荒れる海上でさらにリスクを背負う形になっていることに、国会議員として忸怩たる思いである。日本の漁業者がこの種のリスクを抱えることを皆無にしなければならない。
 最近、国際テロ捜査に関する警視庁の内部資料とみられる情報がインターネット上に流出し、世界中に拡散しており、今や回収は不可能とのことである。他国から提供されたテロ情報もあり、日本の情報管理に対する国際的信頼性を貶めることに繋がることが想定され、国益上重大な事案である。
 以上のような映像・情報等が、セキュリティ水準の高いと思われる機関から容易に漏洩することは、目に見えない情報戦争ともいうべき時代にあって、我が国の情報管理、危機管理のあり方、信頼性の点からして由々しき状態である。まさにこの分野からも日本の将来が危ぶまれる。これらを踏まえて以下質問を行う。

一 中国漁船衝突事件のビデオ映像とみられる動画の真贋について

 YouTubeに投稿された動画は、海上保安庁が尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を撮影したビデオ映像とみられている。当該動画の真贋についての政府の見解を問う。

二 機密漏洩に係る政府の責任について

 海上保安庁が中国漁船衝突事件を撮影したビデオ映像は、捜査段階での証拠品であるとの理由で非公開とされていたもので、現段階においても極めて重要な機密情報である。この機密漏洩は重大な事案であり、政府は自らの責任をどのように示すのか、見解を問う。

三 グーグル社に対する投稿者の関連情報の提供要求について

 政府は、グーグル社などインターネット関係企業などに対して、YouTube投稿者に関する情報の提供を機敏に求める必要があると考えるが、見解を問う。
 また、現代社会において、通信情報等の内容については暗号技術により秘匿できるが、誰がどこから通信しているのかという情報は、固定端末・携帯端末等ともに痕跡が残り、捜査機関等がそれを手にすることは可能であり、その調査体制の整備がなされているべきである。従って、現在政府が保有している調査技術と能力を駆使して自力入手を試みるべきと思うが、政府の見解を問う。

四 政府全体の情報管理、危機管理体制の不備の見直しと検証について

 海上保安庁及び政府全体の情報管理、危機管理体制は、如何なる構造・機能になっているのか。
 中国漁船船長が釈放された九月二十五日までは、石垣海上保安部内において、第十一管区海上保安本部の応援職員等も含め、自由に当該ビデオ映像の閲覧が可能であったとのことである。その後、DVD等の媒体の裁断やコンピュータ上からの削除を行ったとのことであるが、それぞれ何件あったのかを明示すべきである。
 また、当該ビデオ映像はどのように処理され配布されたのか。例えば、今回のような特定の情報等へのアクセスや配布先について、組織階層レベルや役職上のセキュリティレベル、アクセス制限レベル(または開示レベル)がセキュリティ水準を厳格に確保できるようなものになっていたのかも含め、明らかにされたい。
 さらに、改めて政府全体の情報管理、危機管理体制を検証し、見直しを早急に行うべきと考えるが、見解如何。

五 政府の情報管理、危機管理体制の強化・拡充について

 海洋覇権の問題が国際社会における新しく大きな問題として、提起され始めている中、外交上の危機管理意識が著しく不足しているばかりか、国内における危機管理体制がなっていない。
 今般の動画の投稿は、日本政府に対する信頼性を著しく貶めるものであり、また、毅然とした外交姿勢を示す上で有意義なビデオ映像の公開に逡巡してきた結果、政府の責任は倍加し、誠に大きいと言わざるを得ない。
 一方、政府は今後二度と今般のような事態が発生しないよう、情報管理、危機管理体制の強化・拡充に取り組まなければならないと考えるが、USBメモリや電子データ一般の取扱規定の明確化及び厳格化などを含めて、如何なる改善策を考えているのか。
 また、今般のような事態に至った経緯等(ビデオ映像の保管状況と保管箇所数、配布経路及び流出経路など)について詳細に調査を行い、その調査結果と再発防止策について国会に報告すべきである。政府の見解を問う。

六 海上保安庁巡視船の修理費等に対する損害賠償について

 尖閣諸島が日本固有の領土であることは、歴史的にも実効的にも明白である。同諸島沖での中国漁船衝突による海上保安庁巡視船の修理費等に対する損害額は、数千万円に上るとの報道もあるが、その正確な修理代金を積算することと同時に、当事国や原因者に対し請求したのか。また、いつまでに賠償をさせることを予定しているのかを含め、外交的・民事的な対応について、明らかにされたい。

七 領海等における海上保安のための情報機器の拡充・強化について

 政府は沖縄・尖閣諸島を含む先島諸島周辺海域に取締船を増やしたようであるが、海上保安庁等の巡視行動の中で今後とも領海侵犯などの事案が発生しないとも限らないし、海上における領海侵犯等の事案は痕跡が残るわけではないので、これからもGPSやレーダー等とも連動した画像等による情報収集(夜間撮影の可能性等も含めて)が極めて重要である。
 今後、領海等の安全保障の観点からも、関係船舶などの情報取得・記録等のために、全天候型の情報機器の拡充・強化を図るべきである。これらが一定の抑止効果をもたらすものであると考えるが、拡充・強化とその効果について政府の見解を問う。

八 我が国の秘匿情報の伝播過程における暗号利用と暗号政策について

 ビデオ映像の「原本」は那覇地検が管理し、石垣海上保安部は別の記録媒体にコピーしたものを金庫に保管する一方、暗号化した映像を衛星経由で海上保安庁にデータ通信したとのことである。
 一般に、インターネットなどによる通信内容は暗号化することによって、捜査機関による通信傍受から通信内容を秘匿することが可能である。既に通信内容の秘匿については特別な機材を必要とせず可能となっている現代であるが、暗号製品の基準策定、プライバシー保護、国家安全保障、犯罪防止等の適正なバランスをとった暗号政策が求められる。ワッセナーアレンジメントなど、暗号製品の輸出規制等に関する国際的合意があるが、外務省の公電等を含めた暗号に関する基本政策について政府の見解を問う。

九 仙谷官房長官の「柳腰外交」発言の撤回要求について

 衆参の予算委員会において、仙谷官房長官は日本外交について「柳腰外交」と発言したが、「柳腰」とは、国語辞典によれば細くしなやかな腰つき、また、細腰の美人を形容する表現であり、仙谷官房長官の発言趣旨とは大きく異なり間違いではないか。現在のところ仙谷官房長官は同発言の撤回を求められているが、拒否している。
 国語辞典の内容を最高権力ともいえる立場にある人の身勝手により、自己流に変えることは、教育上誠に好ましくないし、本来の用語の意味が変えられることがあってはならない。
 しかも、国権の最高機関である国会の議事録に明確に残るものであり、仙谷官房長官自身が「考えてみれば教育上よろしくないから今後使用しない」などの発言を行うべきである。
 また、これに増して当事国に対して深刻な誤解を与えかねない表現であり、外交上、毅然とした姿勢を明らかにする必要がある事案であることを考えれば、仙谷官房長官に対して節度を求めるとともに、今までの発言を撤回すべきことを求めるものである。見解如何。

  右質問する。