質問主意書

第176回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三五号

屋久島の世界遺産の保全および軍艦島(端島)の世界遺産登録に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年十月十五日

秋野 公造   


       参議院議長 西岡 武夫 殿



   屋久島の世界遺産の保全および軍艦島(端島)の世界遺産登録に関する質問主意書

 世界遺産条約が一九七二年(昭和四七年)一一月一六日の第一七回ユネスコ総会で採択されてから、本年は三八年目にあたり、世界遺産条約締約国は、一八六カ国にのぼっている。我が国では、一九九二年(平成四年)六月三〇日の条約締結後、一八年の間に、自然遺産三物件・文化遺産一一物件が登録されている。今後とも、世界遺産の「顕著な普遍的価値」は、人類全体の遺産として将来にわたり保護・保全し、未来へと継承していくべきものであり、なかでも、自然遺産を保護することは、私たちがともに生きる地球の生態系を守っていくことにつながる。そこで、世界遺産の保護・保全対策について以下質問する。
 また、世界遺産登録の前提となる暫定リストに一四件が掲載されているが、その中の「九州・山口の近代化産業遺産群」の世界遺産登録へのあり方についても以下質問する。

一 自然遺産として世界遺産に登録された屋久島の生態系維持対策について

 「地球上にひとつしかない」価値が認められた屋久島は、一九九三年(平成五年)一二月に日本で最初の自然遺産として、白神山地とともに世界遺産に登録された。屋久島は、面積約五〇〇平方キロメートルと狭小な島であるものの、九州最高峰の宮之浦岳(標高一九三六メートル)をはじめとして標高一〇〇〇メートル以上の山が四五座以上も連なっており、「洋上アルプス」と形容されている。海岸線から宮之浦岳山頂までの気温差は一二度になり、丁度日本列島を縦断するほどの差になる。この地理的特性を踏まえて、屋久島が世界遺産に登録された理由は、亜熱帯地域において高山を持つ地理的条件により、亜熱帯植生から亜寒帯植生まで、約一九〇〇種の植物が揃っていることによる。しかしながら、その貴重な植生が、近年シカの食害に遭っている。特に西部林道周辺の食害は深刻であり、このままでは世界遺産への登録の根拠となった貴重な植生が、不可逆的に回復できなくなる状態になりかねない。世界遺産に登録された屋久島の植生の保全は、国の責務であることから、屋久島におけるシカの食害を防止するために、自然公園法における生態系維持回復事業などに基づいた正確なシカの生態および植生調査の実施と、シカの駆除およびシカ肉の有効活用など、早急なる具体的な対応が必要であると思われるが、政府の見解を示されたい。

二 屋久島の樹齢二〇〇〇年を超えるといわれる翁杉の保存活用について

 本年九月に、世界遺産登録地域において、樹齢二〇〇〇年を超えるといわれる翁杉が倒れていることが確認された。縄文杉の次に大きいとされる翁杉が倒れたことは残念なことであるが、その翁杉はいまだ放置されたままとなっている。樹齢五〇〇年といわれる杉が、二〇〇〇年以上生長したことは、縄文杉とあわせて二例しかない極めて貴重なことであり、貴重な遺産である翁杉を国は積極的に保存すべきである。また、屋久島を訪れる人が、縄文杉などの長生した杉を鑑賞するには、荒川登山口から往復八~一〇時間かけて現地まで歩かなければならず、高齢者や障害者には困難である。したがって、屋久島を訪れる誰もが二〇〇〇年を生き抜いた杉のスケールに触れることができるようにするとともに、共生している植生の調査、また種子の保管を行うために、地元の要望があれば翁杉の移送を国が実施して、国民が共有できる財産として保存活用すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 屋久島における屋久杉の土埋木活用のあり方について

 屋久杉工芸品の材料となる屋久杉の土埋木は、屋久島の国有林だけに賦存する特用林産物であり、且つ、他の銘木と異なり有限である。自然杉を伐採することができない現時点において、屋久杉土埋木を活用した屋久杉工芸品は、鹿児島県の伝統的工芸品として指定され、屋久島の地域振興に大きく寄与している。しかし、世界遺産登録地域を含む国立公園内の土埋木を用いることはできないことから、今後利用できる土埋木は必ず枯渇する。屋久島祖先伝来の遺産ともいえる屋久杉土埋木は、これまで世界遺産を支えてきた屋久島の地場産業振興のために生かされるべき地域固有の資源である。また、屋久杉工芸品を屋久島の地場産業としてできるだけ長く守ることとあわせて、土埋木の選別等の技術の継承が必要である。残り少ない貴重な土埋木を細く長く利活用できるように、屋久島の土埋木の産出から取引までの調整を、屋久島の住民に任せるようにして、屋久杉加工業を屋久島の代表的な地場産業として持続させることが必要と考えるが、政府の見解を示されたい。

四 屋久島の世界遺産登録地域内の環境保全対策について

 屋久島は、独特の生態系のある山岳地域を中心とした一〇七・五平方キロメートルが、一九九三年(平成五年)に自然遺産として世界遺産に登録されてから、脚光を浴びている。一般世間の関心が高まるとともに、高速船就航や飛行機の発着数の増便などの輸送力強化などにより、屋久島を訪問する観光客数は増加の一途をたどっており、年間約二〇万人が来島している。そして、屋久島の知名度が上がるにつれて、縄文杉・西部林道・ヤクスギランドなどの世界遺産登録地域への入山者も増えている。縄文杉などの長生した杉を鑑賞するには、荒川登山口から往復八~一〇時間かけて現地まで歩かなければならない。地元においては、自然環境を保全するため山岳部トイレの屎尿の人力搬出や登山者に携帯トイレを携行させるなどの対策をしているが、野外排泄などによる環境資産の劣化が憂慮されており、屎尿処理対策は喫緊の課題である。今後も、屋久島への観光客数が増加する可能性も高く、貴重な環境資産である世界遺産登録地域内の環境保全のために、携帯トイレを利用しやすい条件整備を含めたトイレの増設を早急に実施すべきであるが、その対応方針について明らかにされたい。

五 長崎市端島の世界遺産登録へのあり方について

 長崎港から南西約一九キロメートルの沖合に位置する端島が、世界遺産の暫定リストに、「九州・山口の近代化産業遺産群」の構成資産の一つとして昨年記載された。この端島は、南北に約四八〇メートル、東西に約一六〇メートル、周囲約一二〇〇メートル、面積六三〇〇〇平方メートルという小さな海底炭坑の島で、コンクリート塀が島全体を囲い、高層鉄筋コンクリートアパートが立ち並んでいる。なかでも、ここには、一九一六年(大正五年)に建築された日本最古の七階建て鉄筋コンクリート造の高層アパートが残存している。明治時代より、日本の近代化政策に欠かすことのできないエネルギーの供給源として、石炭を産出してきた端島炭鉱は、一九七四年(昭和四九年)一月一五日に閉山し、同年四月二〇日、端島は無人化した。その後、三六年が経過しても、端島の大規模な鉄筋コンクリート製の炭坑従事者居住区が、維持管理されないままでも、ほぼ完全な状態で保存されていることは、日本はおろか世界にも類を見ない存在である。
 世界遺産リストに登録されるためには、「世界遺産条約履行のための作業指針」で示されている登録基準のいずれか一つ以上に合致するとともに、真実性や完全性の条件を満たし、適切な保護管理体制が必要とされているが、端島に残存している貴重な高層鉄筋コンクリートアパート群の風化は、抑止するには厳しい水準に達しつつある。持続可能な社会を構築するにあたって、過去の近代化政策の象徴として、九四年もの間、台風や高波の影響をうけるなど、厳しい自然環境にもかかわらず残っている日本最古の鉄筋コンクリート建築物を保全することが必要だと考えるが、政府の見解を示されたい。
 また、世界遺産リスト登録に向けた対応の一環としても、適切な保護管理体制の構築が不可欠であり、その第一歩として、非破壊検査技術等を活用して、端島に残存する鉄筋コンクリート建築物の劣化状態の把握などの実態調査が必要だと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。