質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第一一二号

矢臼別演習場における米海兵隊実弾砲撃訓練に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年六月十五日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   矢臼別演習場における米海兵隊実弾砲撃訓練に関する質問主意書

 米海兵隊の沖縄県道一〇四号線越え実弾砲撃訓練の移転訓練が、北海道矢臼別演習場で二〇一〇年五月二十六日から六月九日まで、車両・砲ともに過去最大規模で行われた(実施は五月二十八日から六月八日、兵員四三〇名、砲一二門、車両一〇〇両)。
 沖縄県の負担軽減のための「同質・同量」の訓練だとして北海道に受け入れさせながら、米海兵隊は初回の一九九七年から一一回目となる今回まで合意違反の夜間訓練を毎回強行し、二〇〇七年からは小火器訓練も追加された。非人道兵器である白リン弾も使用している。
 さらに今回は着弾地だけでなく着弾地の外でも合わせて数回に及ぶ火災を起こしながら、原因究明も行わないまま訓練を強行しつづけた。こうした移転訓練実施は地域住民の不安を増大させている。そこで以下、質問する。

一 合意違反の夜間実弾砲撃訓練強行について

 北海道と厚岸町、浜中町、別海町、標茶町の関係四町で構成する矢臼別演習場関係機関連絡会議(以下「機関連絡会議」という。)は北海道防衛局長に対し、夜間訓練を行わないよう今回も事前にもとめており、また「米海兵隊移転反対別海町連絡会」(以下「別海町連絡会」という。)も同様の抗議と申入れを行っていたが、米海兵隊は夜間訓練を強行した。政府は、米海兵隊が政府との合意さえ踏みにじって訓練を拡大させている現状をどう認識しているか。
 政府は地元自治体からの最低限の要求をふまえ、夜間訓練をやめるよう米海兵隊に抗議し、真剣に交渉してきたのか。

二 着弾地及び着弾地外での度重なる火災について

 米海兵隊は今回の移転訓練中に数度に及ぶ火災を連続して発生させた。北海道知事、機関連絡会議は原因究明、再発防止を要請し、六月七日には北海道防衛局長に「度重なる火災や着弾地外への着弾の事案が発生しております。その都度、北海道知事から原因の究明や再発防止について要請しているところですが、未だ改善されておらず誠に遺憾であります」と緊急要請を行っていた。しかし、米海兵隊は砲撃訓練を強行し、翌八日には着弾地の外で四〇ヘクタールを焼失させる最大規模の火災を発生させた。
1 北海道防衛局(以下「防衛局」という。)は六月七日、「矢臼別演習場における米海兵隊の実弾射撃訓練に伴う一連の野火の発生について」とする文書を発表し、「五月二十九日(土)、五月三十一日(月)及び六月五日(土)に演習場内で野火が発生しました。野火の原因は米海兵隊の実弾射撃により枯草が延焼したもの」であるとし、対策としては「着弾地内での野火の発生は避けられないため、事前に着弾地周囲を防火帯として整備」、「着弾区域を更に限定するなど安全対策を講じる」、「照明弾の使用に際しても、パラシュートが着弾区域に収まるよう、低高度でパラシュートを開き風の影響を少なくするなど、更なる安全確認措置を講じる」とした。
 こうした対応にもかかわらず六月八日も、着弾地付近で火災を発生させたのはなぜか。
 今回発生させたそれぞれの火災の場所(着弾地の内外)、消失面積、消火体制、消火に要した時間、火災原因、それぞれの火災後の再発防止策を時系列に示されたい。
 また着弾地外での着弾の原因は何か。
2 五月二十九日の最初の火災は、別海町連絡会が着弾地周辺上空の異変に気付いて別海町役場に問い合わせ、同町が防衛局に確かめて初めて明らかになった。防衛局が二十九日の火災発生を把握した時分、同町に通知した時分はそれぞれいつか。
3 六月七日十五時頃、演習場内で煙が発生したため陸上自衛隊が野火の予防のためヘリコプターから散水したとのことだが、これも火災発生ではないか。
 また六月五日は、午後三時すぎと午後十時すぎの二度、火災を起こしたのではないか。
4 訓練責任者のウェスター中佐(第十二海兵連隊第三連隊大隊長)は六月一日の訓練公開の際、住民の質問に答え、山火事については「問題ない」、「陸上自衛隊が連携してヘリによる消火を行った。陸自にとってもよい訓練になったのではないか」などとコメントした。米海兵隊のこうした認識を政府はどう受け止めているのか。同様の認識なのか。
5 機関連絡会議が火災の原因究明と再発防止を毎回申し入れ、別海町連絡会が訓練中止をもとめたことについて、政府は米海兵隊に対する抗議、中止申入れなど具体的にどのように対応したのか。
6 地元住民からは白リン弾使用が火災の原因だとする指摘がある。その可能性があるのではないか。

三 防衛局による地元への情報提供、説明責任の低下について

 住民の不安、懸念を少しでも取り除くためには、住民への訓練情報の公開、適切、早急な説明が最低限の責務であり、機関連絡会議も防衛局に「訓練に伴う様々な情報をできるだけ早く周知する必要があり、訓練の規模、時間など住民生活に関連する詳細な訓練情報等を早期に通知すること」を事前要請している。
1 防衛局は、米海兵隊の到着、移動手段、経路を一切示さないが、事前公表すべきではないか。米海兵隊に公表をもとめているのか。防衛局は米海兵隊から情報を把握しているが、地元住民に対する公表を拒んでいるのか。公表しない理由を示されたい。
2 演習場内で五月二十五日に行われた地元説明会では、四五分間で一方的に説明を打ち切り、事前募集した質問三八件に対し、ウェスター中佐が答えたのは四件だけだった。こうした住民説明の実態について、政府はどう認識しているのか。すべての質問に答えさせるべきではないか。
3 別海町連絡会からの質問、要請に対して、防衛局現地対策本部担当者は「できるだけ早く誠実に丁寧にわかりやすくお答えします」と繰り返すばかりで、実質的には情報を出さない、回答をはぐらかす対応に終始した。六月七日、自衛隊が「煙が出たので水をかけた」という件について事実経過を問い合わせても「調査します」といったきりであった。「海兵隊員を外出させないように」と要請した際も、「米軍は何かコメントしたのか、何もいわなかったか」と具体的に質問しても何も回答しないなど、担当者の対応は不適切で不誠実であった。一連の申入れに防衛局が口頭で回答したのは演習終了後の六月十四日であった。米海兵隊に対し、情報公開をもとめるとともに、担当者の対応を改善すべきではないか。

四 口蹄疫感染拡大に対する地元の不安への対応について

 宮崎県で発生し、感染拡大がつづく口蹄疫は、感染ルートが不明であり感染力が非常に強いことから、酪農地帯の現地ではとりわけ強い不安を与える重大問題である。韓国での訓練も恒常的に行い、諸外国からの移動をくり返している米海兵隊の隊員、隊員の移動に伴う物流によって感染があるのではないかという不安は酪農家にとっては払拭できないものがある。
 別海町連絡会は、これらのことから米海兵隊と地元との交流や演習場外への外出の禁止をきびしくもとめた。にもかかわらず、防衛局が六月十日、米海兵隊員を釧路市へ外出させたことはきわめて重大な問題である。
 米海兵隊のわが国への入国、移動に際しての検疫・防疫体制はどうなっているのか。
 政府は、移転訓練についての地元の理解の重要性をいいながら、地元の不安に耳をかさず外出を強行したのは問題ではないか。

五 地元住民の米海兵隊への強い反感について

 政府は、米海兵隊を沖縄におく必要性を「抑止力」と説明している。しかし、米海兵隊の主要部隊は一年の約半分はイラク、アフガニスタンなど他国へ派兵され、また韓国・フィリピンなど諸外国での合同演習に出ている。
 矢臼別演習場をはじめわが国での砲撃訓練、白リン弾使用による訓練は、イラクのファルージャでの実戦による住民大量殺戮につながっている。
 こうした殴りこみ部隊としての米海兵隊の実態を矢臼別演習場周辺の地元住民、酪農家は「国民の食の安全を保証する生産者として、海兵隊の訓練を黙認することは加害者に加担することと同じだ」という思いを強く抱いている。
 米海兵隊への地元住民のこうした認識を政府は承知しているか。またこうした住民感情をどう認識し、受け止めているか。
 米海兵隊の訓練移転は中止すべきではないか。

六 普天間基地「移設」問題について

 日米安全保障協議委員会は米海兵隊普天間基地「移設」問題に関する共同発表(二〇一〇年五月二十八日)を行い、その「訓練移転」の項で、「両政府は、二国間及び単独の訓練を含め、米軍の活動の沖縄県外への移転を拡充することを決意した」、「日本本土の自衛隊の施設・区域も活用され得る」としている。またこの発表に先立つ同月二十七日、鳩山首相(当時)は全国知事会議で「分散移転の努力に感謝しているが…さらに訓練移設などの協力を願えればありがたい」などと発言した。
 しかし、矢臼別演習場周辺の地元住民からは、「これ以上の受入は絶対できない」、「ヘリ部隊は断固拒否」といった声が渦巻いている。政府はこうした住民の声を承知しているか。
 沖縄の負担軽減につながらず、また米軍基地被害を拡散させている、米海兵隊強化の訓練移転はやめるべきではないか。

  右質問する。