質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第六二号

沿岸漁業振興策の見直しの必要性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年四月二十六日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   沿岸漁業振興策の見直しの必要性に関する質問主意書

 我が国の沿岸漁業の漁獲量は一九八八年に二一一万トンであったが、二〇〇八年には一三一万トンとこの二〇年間に六二%の水準まで減少している。同時期の魚種別の漁獲量(沖合漁業の漁獲量を含む)を見ても、イワシ類の漁獲量が四八一万トンから五〇万トンまで激減したことを除いても、マグロ類、カジキ類、カツオ類、このしろ、ニシン、アジ類、サバ類、カレイ類、タラ類、メヌケ類、キチジ、ニギス類、ニベ・グチ類、エソ類、穴子類、太刀魚、いさき、シイラ類、ボラ類、イカナゴ類、ふぐ類、えび類、かに類、いか類、ウニ類の漁獲量はいずれもこの二〇年間で減少している。
 さらに、日本周辺水域の漁業資源を見てみると、マイワシ、マサバ、スケトウダラ(太平洋系を除く)、ズワイガニ(オホーツク海系)、ウルメイワシ(対馬暖流系)、ニシン、キチジ(太平洋北部を除く)、ホッケ(道南系)、アマダイ類、ムロアジ類、マチ類、イカナゴ類、太刀魚、サワラ(瀬戸内海系)、サメガレイ、マガレイ(日本海系)、ウマヅラハギ、トラフグ(日本海・東シナ海・瀬戸内海系)、東シナ海底魚類、シャコ、ベニズワイガニ、ケンサキイカ、ヤリイカ(対馬暖流系)の資源状態はいずれも低位と判定されている(「平成二一年度我が国周辺水域の漁業資源評価」より)。
 このように、日本の沿岸漁業は漁業資源量の低下と漁獲量の減少で苦境に陥っている。このことは我が国の沿岸漁業振興策が成功していないことを物語っており、魚礁設置事業、増養殖造成事業、資源管理を柱とした、これまでの沿岸漁業振興策の見直しが求められていると言える。
 ついては以下質問する。

一 沿岸漁業の漁獲量の減少と資源量の低下について

1 政府はこの二〇年間における沿岸漁業の漁獲量の減少及び資源量の低下の原因について、どのように分析をしているのか。
2 魚礁設置事業に対し、一九七六年から二〇〇一年までに国費で五七五〇億円が投入されているにもかかわらず、沿岸漁業の漁獲量が減少し、資源量が低下していることについて、政府はどのように評価しているのか。
3 沿岸漁業の実態を把握するためには、沿岸漁業の魚種別の漁獲量を統計的に知る必要があるが、なぜ沿岸漁業の魚種別の漁獲量統計が出来ないのか。また、それを実施する考えはないのか。

二 も場干潟の造成について

1 沿岸漁業の資源量を増加させるためには、も場干潟の造成を全国的に展開する必要があるが、も場干潟の造成は毎年一三〇〇ヘクタール程度でしかなく、その内も場の造成は約一割程度にあたる一三〇ヘクタールにとどまっており、遅々として進んでいない。政府はその原因がどこにあると分析しているのか。また、予算的にも重点的に配分すべきだが、そう出来ない理由はどこにあるのか。
2 も場干潟の造成とともに、その減少に歯止めをかけなければならないが、も場面積の減少率は一九七三年から一九七八年の五年間で一・一%であったのに対して、一九七八年から一九九四年の一六年間で三・一%、さらに一九九四年から一九九八年の四年間で三〇%となっており、この四年間で五万八七五四ヘクタールものも場が失われている。また、干潟もこの四年間で二〇六三ヘクタール減少している。政府は一九九四年から一九九八年にかけて五万八七五四ヘクタールものも場が減少した原因についてどう分析しているのか。そして、このも場と干潟の減少にどのように歯止めをかけようとしているのか。

三 種苗放流事業について

 種苗放流事業は瀬戸内海でのタイの種苗放流事業において資源の回復がなされるなど、漁業資源の回復にとって極めて重要な事業である。しかし、種苗放流事業を担っている全国の栽培漁業センターは自治体の財政状況が悪化する中で、予算削減、人員削減に直面している。そのため、予算が確保されず、種苗放流事業を縮小する自治体も出ている。このような中で、種苗放流事業を抜本的に強化するためには、国として財政面の支援を強めなければならない。また、各都道府県単位の種苗放流事業についても、海域ごとの広域運営を図って効果的に進める必要もある。この二点について政府の見解を明らかにされたい。

四 魚礁設置事業について

 魚礁設置事業については、「人工魚礁は魚類などの水産生物が礁、沈船などに蝟集する性質を利用し、対象とする水産生物の漁獲の増大、操業の効率化及び保護培養を図るための施設である。魚礁漁場は主として漁獲の増大、操業の効率化を図るために人工漁礁を計画的に配置して造成する漁場である」(「沿岸漁場整備開発事業施設設計指針」より)とされているように、漁獲の増大がその目的となっているが、一九七六年から二〇〇一年までに五七五〇億円の国費が投入されているにもかかわらず、沿岸漁業の漁獲量や資源量は減少している。このことは魚礁設置事業が当初の目的を達していないことを明らかにしている。さらに、一九九八年度の決算検査報告では「漁獲量が減少しているのにその原因を十分調査、検討することなく事業を繰り返していた」、「魚礁における漁獲状況などの報告が十分行われていなかった」、「事業主体が魚礁の設置場所について漁業者に十分に周知を図っているものが少なかった」などの指摘がなされ、改善の処置が要求されるなど多くの問題を抱えている。
1 現在、魚礁設置事業については、事業費用対効果を計算しているが、その魚礁漁場整備による生産量の増加効果について、当該魚礁設置箇所の実際の漁獲量ではなく、県の水産統計で漁獲量を計算していたり、漁業経費率を一律〇・二七で計算したり、また、ある地区では出荷過程における流通業の生産量の増加効果を魚礁設置の事業費用効果として計算するなど、地区によってばらばらな計算がなされている。特に実際の漁獲量を使っていないために、魚礁設置箇所でヒラメの漁獲量が減って、カレイの漁獲量が増えていることになるなど、極めて不自然な漁獲状況になっている。会計検査院の改善処置でも「魚礁設置後における漁獲量の把握の方法を確立すること」とされているにもかかわらず、なぜそれが出来ないのか。
2 鹿児島湾の魚礁設置事業の魚礁の安定計算について見ると、設計流速は毎秒〇・二七四メートルとなっている。この流速は極めて緩い流速であり、魚の餌が集まるような流速ではない。このような流速でしか安定を確保できない魚礁だとすると、魚礁が設置されているだけで魚は蝟集せず、漁獲量も増えるはずがないが、その点について政府はどう考えているのか。
3 魚礁の現地での施工については一般競争入札であるが、どの魚礁を採用するかはすべて随意契約である。五七五〇億円もの国費が投入されてきた事業が随意契約で行われていることは異常と言える。政府はこれを是正する考えはないのか。
4 魚礁メーカーには水産庁などから天下りがなされているが、過去一〇年間の魚礁メーカーへの天下り状況を明らかにされたい。また、この水産庁と魚礁メーカーとの天下りを通じた癒着は魚礁設置事業の適切な在り方に影響を与えかねないと考えるが、政府はこの点についてどのような見解を持っているか明らかにされたい。

  右質問する。