質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第二一号

既存住宅(中古住宅)市場の活性化と住宅のストック化に向けた施策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年二月九日

加藤 修一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   既存住宅(中古住宅)市場の活性化と住宅のストック化に向けた施策に関する質問主意書

 国土交通省の住宅着工統計によれば、平成二〇年九月のリーマンショック以降、新築住宅の着工戸数は減少の一途を辿り、平成二一年八月には六七・六万戸(季節調整済年率換算値)と平成一八年の約半分にまで落ち込み、その後若干持ち直したとはいえ依然低水準にある。
 一方、我が国における既存住宅の流通シェアは増加しつつあるとはいえ、全住宅流通量(既存住宅流通+新築住宅着工)に占める割合は平成一五年で約一三%にとどまり、欧米諸国の七割から九割に比べ極めて低い。
 最近では長期優良住宅(二〇〇年住宅等)が普及しつつあるが、我が国の木造住宅などは三〇年程度で建て替えるケースが多く、欧米に比べて住宅寿命が短いのが実態である。
 また、住宅建物の場合の資産価値については、法人税法上の耐用年数(減価償却資産の耐用年数等に関する省令の規定(木造住宅二二年、鉄骨造住宅二七年又は三四年、鉄骨鉄筋コンクリート造住宅四七年))に準拠しており、金融機関等もこれを融資の際の住宅資産価値としているようである。
 しかし、欧米では建物に手を加えることによって資産価値を維持又はグレードアップし、収入に応じてよりグレードの高い既存住宅に住み替えるという考え方が、住宅に対する一般的な価値観であると聞いている。
 そこで我が国の住宅政策における既存住宅市場の活性化について、以下の質問をする。

一 住宅政策と既存住宅市場の活性化について

 住宅の資産価値について欧米諸国と日本とで決定的に違うのは、欧米諸国では、適切なリフォームさえしていれば住宅の価値はほぼ永久的に保全される資本財となっており、税法上の減価償却が終わった建物でも、実際は、購入価格より時価の方が高いことが一般的である。それに対し、日本の住宅は税法上の減価償却年数より早く価値が減価し築年数に大きく左右され、約一五年で建物部分が無価値となり、住宅の平均利用年数は三〇年と極めて短く、耐久消費財と化しているとの報告がある(「知的資産創造」二〇〇八年一〇月号)。
 国土交通省国土交通政策研究所のレポート「住宅の資産価値に関する研究」では、日本では中古になった時点で価格が二割下落し、木造戸建ての場合は築二〇年でゼロ査定となるのに対し、米国ではメンテナンスを適切に行うことで価値が維持されることが一般的であると指摘している(国土交通政策研究第六五号)。
 地球温暖化対策や省資源の観点から、我が国においても住宅政策を転換し、既存住宅市場の活性化による既存住宅のストック化を進めることは重要な社会資本であると明確に位置付けるべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

二 制度に基づき実施された保険・検査・リフォームの結果が既存住宅の価格算定に反映されるような価格評価システムの導入について

 国土交通省の試算によれば、東京の二階建て、延床面積一四七平方メートルの一戸建て住宅において、開口部面積四四・一四平方メートルの内窓を単板ガラスから単板ガラス+樹脂製内窓(複層ガラス)に断熱改修をした場合、暖房費を三一・六%削減(年間二万九八四五円削減)、冷房費を三・四%削減(年間七二七円削減)することができ、窓の断熱改修のみでも効果があるとしている。
 平成二一年度第二次補正予算による「住宅版エコポイント制度」の創設や、長年、国土交通省が住宅のストック化に向けて検討してきた「環境・リフォーム推進事業」が平成二二年度予算に盛り込まれたことは、既存住宅流通市場の活性化に向けて高く評価するものである。
 さらに、太陽光発電、太陽熱利用、高効率給湯、家庭用燃料電池、合併処理浄化槽などとの組み合わせにより、かなりの費用削減効果と温暖化ガス削減効果が期待できる。
 「環境・リフォーム推進事業」については、一戸当たり一〇〇万円を限度に補助するというもので、保険法人の検査員によるインスペクション(建物検査)や瑕疵担保保険加入、住宅履歴情報の蓄積等への協力が要件となっている。
 ところで、現在の既存住宅流通市場では、売買の際、リフォーム等の履歴が資産価値として評価されていないのが現状で、リフォーム工事を直接対象とする法制度上の評価・表示制度はない。
 しかし、税務大学校法人税法(基礎編)によれば、事業用固定資産では使用期間が延びるような改良に要した費用を、新たな固定資産の取得価格として又は既存の固定資産の取得価格に加え、資本的支出として資産価値の変更として見るとある。
 そこで、事業用資産と同様に、既存住宅についても新たな資産価値評価の仕組みを導入、確立すべきと思うが、政府の見解を示されたい。

三 保険加入時のインスペクション(建物検査)について

 平成二二年度予算に盛り込まれた、瑕疵担保責任等をてん補する各種保険制度の構築を支援する「既存住宅流通円滑化事業」は、リフォーム事業や既存住宅の流通円滑化の推進に大きく寄与するものと思われ、住宅の資産価値を評価する上で画期的なシステムである。
 保険加入の際実施されるインスペクションの情報は、住宅の新築、改修、修繕、点検時において、設計図書や施工内容等の情報を「住宅履歴情報」として蓄積するもので、既存住宅の流通やリフォーム工事において品質を評価・表示する際に、過去の住宅に関する工事内容等の情報は極めて有益であり、消費者にとっても住宅の価値や品質を判断する際の重要な情報となるものである。
 リフォーム工事における評価及び表示には、マンション改修や耐震改修、設備更新など改修の規模的側面と品質基準などの性能レベル的側面がある。また、住生活基本法に基づく住宅の質も重要な要素となる。
 しかし今回は、保険加入時の簡易なインスペクションであると思うが、制度スタートに当たりどの様な内容のインスペクションを考えているのか、政府の見解を示されたい。

四 インスペクション(建物検査)制度の分離と既存住宅の「資産価値評価機関」の創設について

 平成二二年度「住宅のストック化に向けた支援施策事業」をスタートさせるに当たり、これを機会に、既存住宅流通市場を活性化するための、「既存住宅資産価値評価機関」の創設を検討すべきである。
 また、住宅ローンの評価や住宅履歴情報、ハザードマップ等の環境条件とリンクさせるなどの仕組みを構築するとともに、既存住宅やリフォーム工事におけるインスペクションは資産価値を評価できる内容のものとすべきであり、インスペクションの結果についての法的責任や保証についての内容や担保措置を明確にすべきである。
 現在、平成一四年に制度が発足した「既存住宅性能評価制度」の利用戸数は平成二一年五月末時点で一九五八戸と極めて低調である一方、住宅瑕疵担保責任保険法人の検査員は全国で約一六一万人、申込窓口も三〇〇〇箇所以上配置されている。
 そこで、既存住宅の住宅履歴情報など各種情報を蓄積するとともに、専門家の立場から、第三者機関として総合的に資産価値を評価する「資産価値評価機関」を新たに設置し、保険制度とは別に、こうした検査員を活用した既存住宅やリフォーム工事における検査制度を構築し、既存住宅の取引の際に「性能」や「評価」がなされた既存住宅であることを、マル適マークのように「認証」、「表示」する仕組みが必要であると考えるが、政府の見解を示されたい。

五 既存住宅購入ローン融資とセーフティネットについて

 私は第一七一回国会の参議院予算委員会において、住宅ローン施策に関し、より一層補強すべきことを主張したのに対し、金子前国土交通大臣は、住宅ローン減税のPRの必要性、瑕疵担保責任完成保証制度の更なる推進について言及するとともに、個人住宅の融資に際し金融機関の融資余力がかなり下がっていることにより住宅ローンで非常に審査が厳しい状況にあることに対応していきたいと答弁した。
 ところで、「新築住宅の購入は無理だが中古住宅なら購入したい。しかし、先行きの経済的不安と雇用不安で踏み出せない。」という若い方々の声を多く聞くが、既存住宅のストック化及び既存住宅市場の活性化には、環境・リフォーム推進事業や既存住宅流通円滑化事業の推進だけでなく、既存住宅購入層の不安に対するセーフティネットが必要であり、金融機関の融資に対する思い切った施策が重要であると考える。
 そこで既存住宅購入層に対しては、住宅ローンの借り手である購入者が、万が一、失業や病気などにより無収入状態になって担保である住宅を売却するような事態になって、残債が生じた場合でも、支払い義務のない仕組みを景気回復までの期間限定で新たに創設すべきである。
 すなわち、年収か既存住宅購入価格の限定条件を付して、売却後の残債の支払い義務が生じない「ノンリコースローン(不遡及融資)」制度を導入するとともに、併せて、その残債を補完する新たな「保険制度」を創設し、両者をセットにするなどの工夫を提言したいと思うが、政府の見解を示されたい。
 また、住宅関連融資特別経理(特別勘定)の設置を前提に民間金融機関に公的資金を注入し、既存住宅ローン融資を促進する必要があると考えるが、併せて政府の見解を示されたい。

六 「住宅のストック化に向けた支援施策事業」の実施と合併処理浄化槽への転換の促進について

 平成一二年の浄化槽法改正以降、単独処理浄化槽の新設は原則禁止されたが、現在でも、約六〇〇万基の単独処理浄化槽が存在している。
 「単独処理浄化槽から合併処理浄化槽への転換を促進」することは、公共用水域の水質保全というエコの観点からも焦眉の急であり、このような転換は、合併処理浄化槽が建築基準法上、建築物の付帯物であり、国土交通大臣の型式認定を受けているものであることから、住宅の資産価値の評価にも大きな要素を占めるものであると考える。
 そこで、「住宅のストック化に向けた支援施策事業」の実施に当たり、合併処理浄化槽の普及・促進を図るための施策を更に充実拡大していくことについて、政府の見解を示されたい。

  右質問する。