質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第一八号

「子ども環境保健関係大臣世界サミット(仮称)」の開催や子ども環境全国実態調査などに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年二月八日

加藤 修一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   「子ども環境保健関係大臣世界サミット(仮称)」の開催や子ども環境全国実態調査などに関する質問主意書

 私は、一九九七年のマイアミサミットでの環境ホルモン等の国際的動向を受けて、公明党内にプロジェクトチームを設置し、化学物質、特に環境ホルモンなどの調査研究の推進を政府関係機関に申し入れるとともに、国立環境研究所における環境ホルモン棟の設置や国際会議の開催などを鋭意推進し、多くの成果を得てきた。また、内分泌攪乱化学物質問題に関する国際シンポジウムの第一回から第十一回、小児等の環境保健に関する国際シンポジウムの第一回から第四回のほとんどに出席し、挨拶の中で人間の安全保障を踏まえて疫学調査等の必要性を主張してきたところである。
 加えて、二〇〇六年、第一六四回国会の参議院予算委員会において、化学物質、特に有機リン系化合物や農薬による化学物質暴露が、環境弱者である高齢者や小児・妊産婦の健康に重大な影響を与えること、特に小児の化学物質に対する脆弱性や同物質による胎児の脳と中枢神経系への影響等により、多動障害や記憶障害などが起こり得ることについて取り上げたのを始め、環境委員会、経済産業委員会等においても頻繁に取り上げてきた。これらによって一部の県における農薬の空中散布の自粛にもつながっている。また、私が環境副大臣の役割を担っていた際には、環境ホルモン対策を含む子ども環境保健に係る事業の推進を図ってきたところである。
 子ども環境保健については、第一七一回国会における参議院本会議での公明党・白浜一良議員の質問に対し、麻生前総理は、「近年、少子化が進む中で、子供の健康問題と環境の関係を科学的に解明することは、安全、安心な子育て環境を確保する上でも重要になっていると考えております。このため、数万人規模の大規模な疫学調査を実施するための予備調査を実施中であります。今後とも、政府全体として、子供の健康と環境の問題への取組を充実してまいります。」と答弁し、子どもの健康問題と化学物質による環境の関係に重大な認識を示した。
 また、公明党出身の斉藤前環境大臣は同本会議において、「近年、子供たちの間でぜんそくなどのアレルギー疾患などの心身の異常が年々増加していることが報告されております。例えば、小学生のぜんそく罹患率は一九六〇年の〇・五%から二〇〇七年度、四%まで八倍に増えております。これらについては、化学物質など環境中の要因が関係していることが明らかになっております。成長過程にある子供は、母親の胎内や母乳の影響を強く受けるとともに、環境からの影響に対しても敏感です。この点は一九九七年にマイアミで開催されたG8環境大臣会合でも強く指摘され、欧米では十万人規模の疫学調査が実施されております。」と答弁された。さらに公明党は、二〇〇九年十二月、人道の先進国を目指すとの将来ビジョン(山口ビジョン)を発表し、この中において新しい教育として「子どもの幸福」を最優先する国にとの趣旨で「教育のために行動する社会へ」との方針を打ち出したところである。次世代の教育のための体制づくりには、あらゆる政策手段を講じることを躊躇してはならないのであり、敷衍するならば、子どもの成育過程における化学物質政策や保健政策についても拡充することの重要性を訴えているのである。そこで以下の項目について質問する。

一 「子ども環境保健関係大臣世界サミット(仮称)」の開催について

 私は長年、化学物質暴露による健康への影響、特に化学物質に対する小児の脆弱性や同物質による胎児の脳と中枢神経系への影響等の問題について再三取り上げ、更に、各種国際会議において、「予防的取り組み方法」や疫学調査研究の着手など多くの提言を行ってきたところである。
 また、斉藤前環境大臣が発表した第二イニシャティブは、子ども環境保健に関するもので誠に時宜に適ったものであり、これをG8環境大臣会合のアジェンダにのせたことは「未来の世界は、子ども達が創る」との視点から考えると重要な意義を持つとともに、国際的イニシャティブへと広汎に展開することとなった。
 そこで、これらの取り組みの経緯を踏まえて、「子どもの環境を守るのは大人の責務」であると同時に「行動する社会」との観点に立って、より本格的な取り組みを世界的に進めるべきと強く訴える。
 私自身がこの標語を必ずしも十分把握しているわけではないが、「コンクリートから人へ」を標榜する現政権において、我が国のリーダーシップのもと、「子ども環境保健関係大臣世界サミット(仮称)」あるいは、それ相当のサミットを日本及びアジア等において開催することは象徴的な意味を持つばかりか、今後の我が国のこの分野でのイニシャティブを明確にする上でも重要であると考える。
 この件に関しては、第一七四回国会の参議院本会議において、新政権による平成二十一年度第二次補正予算提出時の財政演説(菅財務大臣)に対する我が党の代表質問者、松あきら参議院議員の質疑に対し、鳩山総理は、「子ども環境保健関係大臣の世界サミット開催にかかわる御質問でありますが、昨年の四月に開催をされたG8の環境大臣会合の中でも、我が国の提案によって子供の健康と環境の問題を御議論いただいたところでございます。御指摘のような会合を現実に行ってきたところでございますが、今後とも、日本としてこういったものに対してリーダーシップを発揮していけるように国際的な連携を強化をしてまいりたいと考えております。」と答弁した。
 しかし、この鳩山総理の答弁は、質問の趣旨の把握において明確さに欠けるものであり、答弁不足は否めない。
 私も第一七一回国会の参議院環境委員会で同趣旨の質疑を行っているが、松議員の質問の趣旨は環境大臣だけの会合ではなく、「子ども環境保健関係大臣世界サミット」の開催を提案したものであり、環境、厚生労働、経済産業など子どもの環境保健に深くかかわる全ての関係大臣が一堂に会して真剣に議論する世界サミットの開催を求めるとともに、G8首脳会議においても各国首脳が子どもの環境と保健に関し認識を深めるためにアジェンダに取り上げることを求めたものである。改めて政府の積極的な見解を示されたい。

二 全国実態調査の実施について

 二〇〇八年、米国の国立環境センター(EPA)は十年間の子ども環境保健に関する研究プログラムの成果をまとめた報告書を公表したが、子どもの神経、免疫等の機能は未発達で、また、体重比率で大人に比べ食物、飲料を多く摂取し、呼吸量も多い上、子どもは床を這う、モノを口に入れるといった行動パターンによって暴露の程度も高く、環境汚染の影響を受ける危険性が高いと指摘している。
 そこで、環境省が実施するエコチル調査(妊婦の血液・尿等、胎児の臍帯血、一ヶ月検診での母乳等をサンプリングし、同省ホームページに掲載する「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)基本計画(案)」中、「表3.現在検討中の分析候補物質の一覧」を分析するというもの)とは別に、子ども環境(保育所、幼稚園、グランド、教室、遊具と公園、遊園地、子ども部屋、産室、公共施設など)における使用化学物質、塗料、脱臭剤、殺虫剤、ワックスなどの使用家庭用品等がどの様にどのくらい存在しているかについての全国実態調査を、環境省のみならず省庁横断的、日本列島縦断的なテーマとして連携して実施すべきと考える。
 この件に関しては、平成二十一年度第二次補正予算提出時の財政演説に対する松議員の質疑に対し、鳩山総理は、「政府は、環境の中の化学物質などが子供の健康に与える影響を明らかにするために、来年度から十万人のお母さんを対象に子どもの健康と環境に関する全国調査を実施してまいります。子供を取り巻く化学物質の実態調査については、こういった調査によって知見をしっかりと得た中で十分に積極的に検討していきたいと考えております」と答弁したが、質疑の取り違えがあることをまず指摘したい。
 全国実態調査の実施の意義・内容については、今まで詳細に述べてきたところであるが、その趣旨は、暴露の原因になる化学物質はどこに存在するのかを明確にするとともに、暴露の機会をいかに少なくするかを検討し、予防的取り組み方法や代替原則等の施策につなげる為の調査であり、エコチル調査の趣旨とは明らかに異なる。あえて言うなら「全国実態調査」は属地的調査であり、「エコチル調査」は被験者の属人的調査である。以上の趣旨に基づく全国実態調査の実施について、改めて政府の見解を示されたい。

三 子ども環境保健に関する法制化について

 第一七三回国会質問第七〇号「「子ども環境保健」に関する質問主意書」における、「子ども環境保健に関する各国の法整備研究と我が国における法制化の検討について」の質問に対し、政府は、「エコチル調査から得られた知見を、子供の健康に影響を与える環境リスクの低減に結び付けていくことが重要であると考えており、当該知見の環境基準への反映や、当該知見の事業者への提供を通じた当該事業者の自主的な取組の促進等により、当該知見を我が国における適切な環境リスク管理体制の構築につなげてまいりたい。また、御指摘の「法制化」や「各国の法整備研究」の実施についても、必要に応じて検討してまいりたい。」と答弁した。
 「エコチル調査から得られた知見を、子供の健康に影響を与える環境リスクの低減に結び付けていくことが重要であると考えている」としているが、エコチル調査は十万人を対象に胎児から十三歳になるまでの疫学調査を行い、二〇二五年に「中間とりまとめ」をするというものであるが、最終報告までにかなり長期間を要する調査である。
 現在、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)の採択や、欧州での化学物質管理に関する新たな規制(REACH)の成立による化学物質管理の強化が世界の潮流となりつつあること、また、国内において化学物質過敏症といわれる状況が依然として発生している現実があること、更に発達過程にある子どもは特に環境中の化学物質に対する感受性が強いことを踏まえ、子どもの生命・健康と環境を守る観点から、予防的取り組み方法や代替原則等の考え方を踏まえた「法制化」を早急に検討すべきである。「子ども環境保健の法制化」に対する今までの政府答弁は、かなり消極的との印象を持っているが、今こそ、直ちに検討会を設置し機敏に対応していくことが求められていると考えるが、政府の積極的な見解を示されたい。

  右質問する。