質問主意書

第174回国会(常会)

質問主意書


質問第一一号

風力発電施設の建設及び稼働に伴う諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十二年一月二十九日

川田 龍平   


       参議院議長 江田 五月 殿



   風力発電施設の建設及び稼働に伴う諸問題に関する質問主意書

 NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)によれば、風力発電施設の導入は、二〇〇八年度末現在、建設施設基数で一五一七基、総設備容量は一八五万四〇〇〇キロワットとのことである。朝日新聞は、これらの施設は四〇都道府県、三七六ヶ所に設置されており、ほかに計画段階にある施設建設が四二ヶ所におよんでいると報じている。
 自公政権のもとで策定された風力発電の導入計画は、来年度(二〇一〇年度)末の短期目標においては三〇〇万キロワットとされており、現在のところ同計画の達成には、二〇〇九年度以降、設備容量で一一四万六〇〇〇キロワット、基数にして、二〇〇〇キロワット級の風車五七三基の建設が必要との計算になる。風力発電施設の建設は、この数年、年間一五〇基~二〇〇基程度のペースで推移しているから、来年度における目標達成はほぼ不可能である。
 しかし、京都議定書における温室効果ガス一九九〇年比六パーセント削減の国際公約達成のためには、目標年度を先送りしてでも、当面の短期計画を実現させる必要があるからであろうか、次々に新規計画が打ち出されている。これに伴い、稼働中、計画段階を問わず、全国各地で風力発電に反対する紛争が引き起こされている。
 風力発電に関しては、三年ほど前から、人への健康影響など、施設の建設、稼働に伴うさまざまな問題が全国各地域、各種団体から訴えられ、マスコミなどに採りあげられてきた。これらの問題については国会でも質問されてきている。所管省庁である資源エネルギー庁、環境省などには各種の訴え、要望書や陳情書などが全国各地の諸団体から届けられているはずである。これらの訴え、要望や陳情に対する納得のいく説明は政府から届けられていない。
 以上のことを踏まえて、風力発電施設の建設及び稼働に伴う諸問題について、以下、政府の見解を問う。

一 風車運転による健康被害と被害者の救済について

 風力発電施設の稼働により発生する超低周波・低周波騒音が原因と考えられる深刻な健康被害について、政府は「一般に、健康影響と風力発電施設の稼働との間の関係については明らかとはなっていない」としつつ、「騒音等の問題が発生した場合にも、個別事案ごとに、騒音等を含む環境影響について事業者から状況を聴取する」、「低周波音に関する検討を行っており、実態調査の実施を含め、知見の充実に努めている」という答弁をする程度である(内閣衆質一七一第二五六号、平成二十一年四月七日)。
 最近に至って環境省は、既設風車一五一七基すべてについて、四年間をかけて周辺住民への健康影響などの実態調査をするとの報道も見られるが、被害者は、四年もの間、眠れない状態に耐え、頭痛、めまい、胸や頭の圧迫感、吐き気、平衡感覚異常、鼻出血や口内出血など複数の症状が重なって発症する名状しがたい心身の苦しみに耐えていかなければならないのか。高齢者の中には、血圧の上昇が引き金になり、心筋梗塞や脳内出血などにより死に至ることもある。事実、静岡県東伊豆町では、二回にわたる短期間の風車試験運転期間中に数名の高齢者が倒れて入院、クモ膜下出血や心筋梗塞で四名もが死亡している。
 健康被害は風車の稼働によって発生する。運転が止まれば症状は解消ないし緩和される。これは風車による「環境影響」や「知見」の問題ではなく事実の問題である。補助金をつけて国の方針で建設されてきている風力発電施設である。風車の運転を止めるか、風向、時間等に応じた一定の運転規制をすれば被害者は救われるのである。
 政府には被害者を早期に救済する意思はあるのか。政府は、来年度予算を「命を守る予算」と名づけた。命を守るのは予算のみではあるまい。政策とその方向性の如何によって、命は守られたり損なわれたりする。風車による尋常ならざる健康影響に苦しんでいる被害者に思いを寄せる政府の真剣で具体的な対策について、政府の見解を明らかにされたい。

二 健康被害拡大の防止について

 各地で反対運動が起きることで一部計画の変更、見直しがなされてはいるものの、風車の建設は続けられている。九州長崎の離島、人口三二〇〇人強、畜産と農業、漁業、観光で生きる二五平方キロメートル弱の小さな宇久島に五〇基もの風車を建設する計画さえある。計画が現実のものになれば、島は壊滅的打撃を受けかねない。
 風車の超低周波・低周波騒音による人の健康への影響は一キロメートル範囲におよんでいる。地形によっては二キロメートル先でも被害が出ている。三キロメートル先でもその音響成分は測定されるという。風車の影響をまぬがれるには、距離による超低周波・低周波騒音の音響エネルギーの減衰をまつのが唯一の方法であり、二キロメートルの距離があればとりあえずは安全が確保されると考えられる。同時に環境影響評価の実施が不可欠である。中央環境審議会総合政策部会環境影響評価制度専門委員会は風力発電施設を環境影響評価法の対象事業として追加することを検討すべきとの中間報告を出している。環境影響評価法の対象事業への取り込みと同時に、新規の風力発電施設の建設には、健康被害未然防止の観点から距離規制が欠かせない。
 風力発電施設の建設に関しては、距離規制や環境影響評価の義務づけなくして被害の未然防止はありえない。「生活が第一」、「コンクリートから人へ」と国民の生活とその命を守る政策を基本に掲げる政府である。誠意ある政府の見解を示されたい。

三 生態系と景観への影響について

 近年、大型風力発電施設が山岳地帯に建設される傾向が顕著になってきている。一〇基以上におよぶ風車を建設するために、広範囲に森林が伐採され、尾根が大きく削られて形質が改変されている。そのうえ、自然インフラとして水害や土砂災害など地域の防災機能を果たしている保安林の指定さえ解除される場合も出てきている。「温暖化」による気候変動が原因とされる降雨の局地的集中化、集中豪雨の多発などが心配されているにもかかわらず、他方では森林を大量に伐採して一帯の保水力を弱め、ときには保安林の指定すら解除する。この矛盾をどう説明するのか。必要なのは森林機能の再生ではないのか。
 こうした事態の進行は、地域の自然災害防止機能を低下させるのみならず、一帯の自然生態系を損ない、生物多様性の理念に反する。本年は、野生生物とその生息環境及び生態系のつながりを含めて保全する生物多様性条約第十回締約国会議が名古屋で開催される。建設される風車の超低周波・低周波騒音は周辺の音環境を激変させ、ハビタット破壊をもたらしかねない。現に国内外を問わずウインドファーム周辺では、コウモリやヤギの大量死、野鳥の生息数の激減、牛の死亡や早流産という畜産への影響などが多数報告されている。風車によって人も動物も住めない環境へと激変するなら、それは、局所的であるにしても、土地そのものの壊滅的破壊であり、所によっては地域崩壊を招きかねないものである。
 景勝地などにおいては、国立公園の規制緩和により、普通地域とされる山岳地帯の尾根上に無機質な風車が建設され、自然とは不調和な巨大工作物群の出現で風景が毀損され、資源としての自然景観が損なわれて観光などの地域産業が打撃をこうむる可能性も大きい。すでに伊豆半島などでは、そのような事態が進行している。自然が織りなす山岳地帯の風景に巨大風車が乱立する光景を見るのは異様である。
 戦略的に観光を成長産業のひとつに位置づける政策を打ち出している政府は、こうした風力発電施設の建設をどのように考えているのか。①生態系と生物多様性、②自然災害防止、③景観と地域産業、観光立国などへの影響というそれぞれの観点から、政府の見解を具体的に示されたい。

  右質問する。