質問主意書

第173回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七八号

薬事法施行の問題点に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年十一月三十日

又市 征治   


       参議院議長 江田 五月 殿



   薬事法施行の問題点に関する質問主意書

 改正薬事法が本年六月一日より施行された。私は、かねてより度重なる薬害や、身近な薬でも起きている副作用、乱用を防ぐため、改正法による資格制度や医薬品の三区分制に期待されるところは大きい、ただ、新法が社会に定着するためには、消費者の利便と、医薬品提供側の安全確保義務を両立させる必要があり、医療従事者や製薬業者はもとより、とりわけ消費者との接点に立つ販売者において、絶えざる資質向上が求められることを指摘してきた。
 この点から改正法施行後の一般用医薬品販売の現場をみると、関連の省令や通知等が曖昧なため様々な混乱が起きており、医薬品を安全・安心に提供し、また利用するには懸念が多い。厚生労働省による二〇〇八年度薬事監視の実績をみても、薬局について四八・六%、一般販売業について七六・六%で、これらも十分とは言えないが、配置販売業については「販売業」〇・九%、「従事者」一・二%と格段に低いのが実態であって、改正薬事法のめざす安全・安心な医薬品提供にはたいへん心もとないと言わざるを得ない。
 そこで、消費者に薬害が再び降りかからないよう、法令の趣旨の徹底および、その足らざる部分については再度の改正や、調査・指導による是正を求めるとの観点から、以下質問する。

一 改正薬事法および省令・通知の疑義について

 通信販売も配置販売業も共に実態が見えにくい閉鎖的な環境において行われる業態である。厚労省は今回の改正に際し、医薬品配置販売業や伝統薬の販売業に配慮し、曖昧な表現で既得権を確保したが、IT通信医薬品販売業に明確な法的根拠を規定していない。
1 対面販売の定義
 改正薬事法三十六条の六は、情報提供等について定めることを省令に委任しているだけで「医薬品の通信販売の禁止」の理由とした『対面販売の原則』を規定した言葉が見られない。この結果、医薬品の通信販売の禁止について「対面の原則」を規定する今回の省令は、「法律の授権を欠き、憲法第四十一条に違反する」として、IT企業からは訴訟が起きている。
 疑念・争点となっているIT販売、伝統薬等の医薬品通信販売、事業所を対象にした配置販売、医薬品の代理人による購入等々については、新法の原点に沿って、専門家による医薬品の対面販売の原則の定義を明確化し、その条件に適合するか否かで、対応をすべきではないか。
2 伝統薬の定義
 『伝統薬の通信販売』の継続が認められたが、昭和三〇年代以降に誕生し伝統薬と称するものには、漢方薬のみならず、漢方薬と西洋医薬との複合剤なども多く、アスタリスク(*印)付の第二類医薬品も存在し曖昧である。明確に伝統薬の定義をすべきではないか。
3 配置販売の定義
 配置販売は日本の特殊な商形態であり、医薬品を配置するだけでは商行為が完結しない。
 厚労省医薬食品局総務課は、特定商取引法が本年一二月より施行されることから、厚労省医政局経済課、経産省、消費者庁等と合議し、医薬品配置販売の定義を明確にすべきではないか。
 また、事業所を対象にした配置販売について、無資格者である当該責任者が従業員に医薬品を使用させることは、旧薬事法二十四条(医薬品の販売業の許可)違反となり得る場合がある等の理由により禁止されてきたが、改正後、突然認められたかに解される。しかしこれも定義に適合するものかどうかで判断するべきではないか。
4 情報提供の要否判断者は、薬剤師等たるべきこと
 改正薬事法三十六条の五において、「薬剤師又は登録販売者により販売させ、授与させなければならない」としているが、「消費者からの『情報提供の要否』を一般従事者が聞き取り、必要なら専門家に伝達すればよい」とも読める。
 これでは、「薬剤師または登録販売者が、直接、消費者の置かれている状況を消費者からの訴えだけではなく表情や状態などからも適切に情報提供し、相談応需を行なう」大原則が毀損される。
 よって、情報提供の要否の確認を「薬剤師または登録販売者が消費者と直接対面で行うこと」、「薬剤師または登録販売者が消費者と直接対面で情報提供し、相談応需により販売すること」を明確に規定すべきではないか。
5 事業所への配置について
 事業所を対象にした配置販売については、「事業所等の集団責任者に対して医薬品を配置し、当該責任者は従業員が医薬品を必要のときに使用させることを禁止する旧薬事法第二十四条違反となり得る場合がある」等の理由により禁止されてきた。
 しかし、今回の法改正に当たり通知が出され、『居宅その他の場所とは、一般家庭のほか、事業所であること。これに伴い、事業所への配置については、昭和四四年八月一二日付薬事第二〇〇号薬務局薬事課長通知「配置販売業の許可および販売について」において、「配置しようとする場所が事業所である限り、その規模の大小を問わず、昭和三八年一一月七日薬収第八八三号「配置販売業者の配置対象について」をもつて回答したとおりその配置は認められない。」とされていたところであるが、この取扱いを改めること。』になった。
(1) 「無資格な当該事業所の代表者」から「医薬品を使用する者」に医薬品の授与が認められたことは、新法の理念からして説明がつかないのではないか。
(2) 取扱いを改めた理由は何か。どのような環境変化があったのか明確な説明を求める。
(3) 医薬品を配置する場所が事業所の場合、一般家庭と比較し、入退社や移動等で医薬品を使用する者の変動が大きい。「当該代表者」と「医薬品を使用する者」との意思疎通が十分に確保されている事を無資格の一般従事者の配置員、薬剤師等の配置員、当該代表者の内、誰が判断するのか。
(4) 「事業所への配置」において、薬剤師等がその代表者に対面で情報提供を行うものとし、その範囲は当該代表者が医薬品を使用する者に十分な説明等が可能な単位(当該代表者と医薬品を使用する者との意思疎通が十分に確保される単位をいう)とすることとなったが、具体的にどのような範囲を言うのか。
(5) 「当該代表者」が「医薬品を使用する者」に十分な説明等ができず、事故が起きた場合の責任は誰が取るのか。
(6) 「当該代表者」が「医薬品を使用する者」との意思疎通を十分に確保しなかった場合、法令違反になるのか。
(7) 「当該代表者」に責任が発生する場合は、配置する前に、責任の所在を説明し、承諾書を取るべきではないか。
6 一般従事者による販売や代理人による購入
 ある調査によれば、チェーンドラッグストアでは、第一類医薬品の空箱をレジに持っていくと専門家でない店員が対応し、一切の情報提供も無く購入できたとも、また、薬局では初回に代理人が対面で漢方薬を購入、二回目は電話で代理人が注文し、やはり郵送で初回と同じ漢方薬を購入できたとも聞く。
 配置販売では、特定商取引法の関係から、厚労省医政局経済課や経産省は、「点検、精算、納品、情報提供、相談応需は配置販売において不可分であり、新法に移行したからといって分離できない」と言っている。
 また、新配置販売業者に移行しても、長年の商習慣によって点検、精算、納品、情報提供、相談応需は一体不可分であり、毎回訪問時の顧客との会話が重要視されてきた歴史がある。
(1) 「情報提供・相談応需」者と単純な販売者とを概念上区別する規定は、配置営業の実態とかけ離れている。厚労省は如何なる意図で規定したのか。
(2) 新・配置に移行しても「薬剤師等の専門家が一人いれば何人もの無資格の一般従事者が医薬品の配置に従事できるから」と、資格取得者が非常に少ない状況にあるとも聞くが、これを許容するのか。
(3) 配置販売は、消費者の居宅で行うため、実態の把握が難しく、結果として、法令違反を承知で一般従事者が従来通りの配置販売をすると言われているが、これを許容するのか。
(4) 新・配置販売業に移行後も、一般従事者に従来どおりの営業活動をさせると聞く。これに如何に対処し、指導するのか。
7 登録販売者等による速やかな情報提供の体制
 「顧客から情報提供の求めがあった場合又は相談があった場合に、速やかに、医薬品を配置する場所において薬剤師又は登録販売者に対面で情報提供を行わせることが出来るよう、一般従事者を管理及び指導する薬剤師又は登録販売者が当該一般従事者と直ちに連絡を取ること」、「当該薬剤師又は当該登録販売者を医薬品を配置する場所の近隣に従事させる等の適切な体制」をとることになった。
(1) 二〇〇九年九月四日の規制改革要望再検討への厚労省の再回答で、「購入者側が求めた情報提供は即時に行うこと」とある。
 「速やかに」、「配置する場所の近隣」とは、「即時対応できる時間・場所」と思われるがどうか。具体的に示されたい。
(2) 前掲「速やかに…連絡を取ること」が守られなければ、無資格な一般従事者による単独配置、そして情報提供・相談応需を容認することになるのではないか。

二 配置販売における資質向上規定の励行

1 新配置販売業者、登録販売者の現況
 「既存配置販売業」において、講習、研修等を受けることで改正薬事法附則第十条による経過措置が永久に続くと誤解し、資格取得の求めに移行しない者が多いと聞く。
 日本薬剤師会より七月末時点で一八都道府県で五〇件の許可が出されていると公表されたが、現在の配置販売業界における新配置販売業者は、何件か。
 また配置販売業界における、登録販売者は何人か。
2 教育されない無資格者による販売のおそれ
 既存配置販売業者が取り扱う医薬品の中には、厚労省自ら「第二類医薬品の中で、第一類医薬品に準じて積極的な情報提供や陳列・販売方法を選択するべき」としているものも含まれ、参議院厚生労働委員会の附帯決議〔九〕、改正薬事法附則第十二条、薬食発第〇一三一〇〇一号厚生労働省医薬食品局長通知、薬食総発第〇三三一〇〇一号厚生労働省医薬食品局総務課長通知(以下「課長通知」という。)で「配置員の資質向上につとめなければならない」とされた。
 だが、通知の曖昧な表現ゆえに、既存配置販売業者にとって都合の良い、形だけの講習、研修等が実施されており、他の薬業界や薬害被害者団体、薬害オンブズパースン会議等からは、経過措置について「配置販売業自体を廃止すべきだ」との反対意見や強い懸念がある。
 そして現に既存配置販売業者に就職し、申請だけで簡単に「既存配置販売業者の配置員」として無資格・未経験の者でも医薬品が販売できる現状では、課長通知の「業務経験期間が短い配置員を対象とした講習、研修等が実施されることが望ましい」の部分は、強制力が無いため、全く実施されていないとの例も聞かれる。
(1) 医薬品販売の経験者でもなく、薬学的知識等は一般の消費者と何ら変わらない業務経験期間が短い配置員が、講習、研修等を終了する前に一般用医薬品の販売に従事し、消費者に対し情報提供、相談応需を行っている。これを容認してよいのか。
(2) 業務経験期間が短い配置員を対象とした講習、研修等は、『消費者の安心・安全』の立場から、配置現場に従事する前迄に終了しなければならないのではないか。
3 販売業者に都合の良い、形だけの講習、研修でよいか
(1) 受講対象者自身が講師等となることについて
 受講対象者自身が実施者や講師となって、試験問題の選定・実施・監督・採点等の評価、受講状況・出欠・早退・遅刻等の管理を行っている講習、研修等の実態が存在する。このように受講対象者自身が評価、管理等を行うことを許容するのか。
(2) 医師法違反のおそれのある講習内容について
 配置薬メーカー、配置卸会社から講師が派遣され、「見立てができる薬屋めざし一人年商一億円へ切磋琢磨しよう」と講演するような、販売至上主義が優先され、また医師法違反の可能性を否定できない講習がある。このような講習を許容するのか。
 また、歴史的に配置薬メーカーが主であり配置販売業者が従の利害関係にある為、配置薬メーカーが、配置販売業者にその副作用を十分に周知せず、過去に薬害に加担したこともある。配置薬メーカー、配置卸会社等からの講師派遣を許容するのか。
(3) 講義録の消費者への公開について
 「実施される講習、研修等の内容が適切であることは、その講習、研修等の内容を公表することにより、第三者がその適切性を評価できるようにしてまいりたい」と厚労省は答弁している。国民的視点に立って、客観性等が確保され実施されているか、適切性が評価できるように、一般消費者に対し、実施者や実施内容等も含め、講習、研修等の実態が分かるよう詳細な講義録を公表すべきではないか。
4 通信講座について
(1) 課長通知1の(4)に講習、研修等の形式として、通信講座を認めている。社会教育法第五十条の通信教育の定義では、「「通信教育」とは、通信の方法により一定の教育計画の下に、教材、補助教材等を受講者に送付し、これに基き、設問解答、添削指導、質疑応答等を行う教育をいう。通信教育を行う者は、その計画実現のために、必要な指導者を置かなければならない」とあるが、課長通知にある通信講座と文部科学省が考える通信教育とは、異なるものか。
(2) 右の通信講座では、教材の改善の企画、学習指導の円滑な運営その他の学習指導に関する事務を司り、教育に関し識見を有し、かつ、当該通信講座の内容について教養を有する教務責任者は必要ではないか。
(3) 右の通信講座では、内容および受講者数に応じて、学習指導を迅速かつ適切に行う、十分な専門的知識を有し、かつ、受講者を教育するに相応しい学習指導者が必要ではないか。
(4) 右の通信講座では、教材は、通信による学習の特性を考慮し、受講者の自学自習を容易にするよう配慮されたものとすべきではないか。
(5) 右の通信講座では、学習指導は、教材による指導、添削指導、質疑応答等の方法により受講者の学習過程および学習能力に応じて適切に行い、また、そのための体制を整えるべきではないか。
(6) 厚労省医薬食品局総務課の担当官は「本当に資質向上したか、確認する必要がある」と述べていたが、教育計画にしたがって通信講座の全課程を受講した者に対して試験を実施すべきではないか。
(7) 通信による学習の特性を考慮し受講者の自学自習を容易にするよう配慮された教材も無く、登録販売者試験の過去問題等より三六〇問を渡し、自宅での解答をもって一二時間の通信講座とし、その採点を以て資質向上の確認試験の代替とすることは、課長通知で示された通信講座と認められるか。
 また報道によると、ある団体において、研修内容を「一二〇問で一五時間」と更に薄めるような考えが示されたと聞くが、これで通信講座と認められるか。
5 テキストについて
 厚労省の『登録販売者試験問題の作成に関する手引き』をコピーして主テキストとしているところがあると聞く。同「手引き」は、講習、研修等の座学、通信講座のテキストとして使用することを想定して作成したものか。
6 講習、研修等の時間数について
 課長通知1の(7)について、実施者または実施団体の異なる複数の講習、研修等を受講し、カリキュラムに関係なく三〇時間だけをこなそうとしている者があると聞くが、このように一貫性の無い研修は無効ではないか。
7 都道府県職員の講師参加について他
 都道府県薬務主管課によっては、指導監督に専念するところと、係官が特定の業者団体の研修に講師として参加協力しているところがある。
 課長通知の内容から解釈すると、職員はその講習の実態が適切なものか、客観的に判断するべき立場と思われるが、選手と審判を同時に行う状況を許容するのか。
 また、都道府県薬務課OBが特定の団体の学術委員となり、さらにはその団体が実施する講習を、一定水準の講習、研修等のレベルの如何にかかわらず、都道府県に認めさせると発言しているところもあると聞く。厚生労働省はこうした癒着を許さない体制をとるべきではないか。
 また、教育、学術等の関係者及び消費者等が参画しているといいながら、参画の実態がないと聞く。参画者の責任を明確にするため、氏名の公表、実施実態の公表を義務化することが必要ではないか。
8 都道府県ごとの研修、講習の現況把握について
 都道府県では「実施内容が不十分と感じ、指導、監督しようにも、通知が曖昧な為、検証無しに認めている」との戸惑いの声が、薬務主管課の係官からある。結果、業者に都合の良い、安易で形だけの研修、講習等が実施されているのではないか。
 厚生労働省は、各都道府県の薬務主管課の対応状況や講習、研修等の実施状況がどうなっているか調査すべきではないか。
9 明確な基準による講習、研修の必要性について
 医薬食品局の担当官からも「どんな研修、講習をされるかは勝手だが、透明性、客観性に基づく消費者・国民の判断、結果責任が全てです」とのコメントもある。
 既存配置販売業者に義務付けられた講習、研修等の必然性を理解せしめるべく、明確な基準を示すべきではないか。
 法が施行された現在、好ましくない調査事例について早急に是正を求め、安易で形だけの研修、講習等の既成事実化を許さないため、平成二一年度末迄に、やり直しを含め、通知に基づいた厳格な指導をするべきではないか。

三 安全・安心な医薬品販売のために

1 改正薬事法を実効あるものにする為に、店舗販売、配置販売、業界等にかかわらず、新たに誕生した登録販売者の研修体制の早期確立が必要ではないか。
2 厚労省は、「専門家が不在であったり、適切な情報提供が行われていない実態に鑑みると、リスクの比較的高い医薬品に関して対面で情報提供を義務づける規制がどうしても必要である。規制することは合理的な制約であり、憲法二十二条には違反しない。」と述べている。国民の生命の安心、安全の立場から、生命に関わる物資については理由を明らかにして規制を強化し、規制を守らない業者には、強く指導すべきではないか。

  右質問する。