質問主意書

第173回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七七号

八ッ場ダム問題と費用対効果等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年十一月三十日

加藤 修一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   八ッ場ダム問題と費用対効果等に関する質問主意書

一 八ッ場ダムと河川法について

 現行河川法は、平成九年に、環境に配慮し、地域の実情に応じた河川整備を推進するために、「工事実施基本計画」に替えて長期的な整備の方針である「河川整備基本方針」と具体的な整備の計画である「河川整備計画」を定めることとし、「河川整備計画」について地方公共団体の長、地域住民等の意見を反映させるための手続を導入する等の改正がなされている。
 八ッ場ダムについては、実際に水没地域に居住している地元住民や、関係地方公共団体は建設中止に賛成していないにもかかわらず、大臣に決定権があるからといって、民主党の選挙公約を根拠にして、トップダウン的に政府の決定としてダムの建設中止を表明するのは、地方公共団体の長、地域住民等の意見の反映を重視する河川法の趣旨に反するのではないか。政府の見解を明らかにされたい。

二 河川法違反について

 さらに、特定多目的ダム法第四条第四項に、「国土交通大臣は、基本計画を作成し、変更し、又は廃止しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、関係都道府県知事及び基本計画に定められるべき、又は定められたダム使用権の設定予定者の意見を聴かなければならない。この場合において、関係都道府県知事は、意見を述べようとするときは、当該都道府県の議会の議決を経なければならない。」とある。
 特定多目的ダム法に基づく基本計画には、ダムの工期が記されており、今回のように事業中のダムの入札を中止すると、実質的には基本計画の工期が変わる可能性が大きく、基本計画に記されている内容に齟齬が生じ、いずれ変更せざるを得ないことは必至である。そうなると、地方議会の議決を経た上で知事の意見を聴くという手続も経ずに、八ッ場ダムの本体工事の入札中止の判断をしたことは、実質的には同法第四条第四項の趣旨に反するのではないか。政府の見解を明らかにされたい。

三 八ッ場ダム建設事業中止のコストと無駄の削減について

 前原国土交通大臣は、本年九月十七日の大臣記者会見で、八ッ場ダム建設事業を中止した場合のコストが、今後建設を継続する場合のコストを上回っても建設事業を中止するとしている。無駄の削減という観点からは大きく矛盾しているのではないか。そのようなことを承知しながら中止する意味はどこにあるのか。政府の見解を明らかにされたい。

四 公共事業の中止と科学的見地に基づいた判断について

 さらに、前原国土交通大臣は、同日の大臣記者会見で、八ッ場ダムの中止については、民主党のマニフェストに従い中止を判断し、かつ、「八ッ場ダム一つの得か損かという問題で考えるものではなくて、今後の河川行政、また公共事業のあり方を見直していくうえでの入り口」であるとしているが、このような象徴的事業であるという理由だけで、中止することは、それこそ無根拠な政治宣言に過ぎないのではないか。直接的に被害を受ける住民の立場を切り捨てかねないのではないか。公共事業の中止の判断については、科学的見地に基づき具体的に判断していくべきではないのか。政府の見解を明らかにされたい。

五 八ッ場ダムの建設中止の妥当性について

 八ッ場ダムの本体工事費は六二〇億円で、総事業費四六〇〇億円の約一三・四%に過ぎない。しかし、この工事が完成することを前提として、これまで三二一〇億円が投じられてきた。前原国土交通大臣は、八ッ場ダムの生活再建関連事業の未支出分七七〇億円について今後も継続するとしているが、合計するとダムの本体工事が中止であるにも関わらず、約四〇〇〇億円もの経費が投入されることになる。加えて、水源地対策特別措置法第十二条第一項に基づく水源地域整備事業費及び財団法人利根川・荒川水源対策基金の事業費についても合計一二〇〇億円程度が見込まれているが、これらも生活再建関連事業として継続されるとなると、結局、五二〇〇億円ものダムなき生活再建事業費が投じられることになる。六二〇億円の節約のために、五二〇〇億円もの事業費を無意味なものにしてしまう八ッ場ダムの建設中止が妥当な政策であると考えるのか、政府の見解を示されたい。
 また、生活再建は必要であるが、これまでの補償を前提ないしは上積むことで、ダム建設中止に向けて地域住民の翻意を促そうと意図していることは、これまで長年ダム建設に協力してきた地域住民の心情を軽んずるものではないか。政府の見解を明らかにされたい。

六 費用対効果と公共事業の経済合理性について

 八ッ場ダムの治水の費用対効果は、平成二十年度の関東地方整備局事業評価監視委員会の評価で三・四と評価されて、事業継続の判断を得ている。八ッ場ダムよりも治水の費用対効果の低い事業実施中のダムは、全体の九割をも占めている。費用対効果は、公共事業の必要性を判断する上での重要な指標の一つであると思うが、これだけの数値でも中止ということであれば、現行の費用対効果を全く無視しているものと考えるが、政府にとって費用対効果分析の意味とは何か。そして今後、政府は、何を基準にして公共事業の経済合理性を判断していくのか。政府の見解を示されたい。

七 「八ッ場ダム」と「胆沢ダム」の費用対効果について

 関東地方整備局事業評価監視委員会の「八ッ場ダム」の費用対効果は三・四と評価されているのに対し、「胆沢ダム」は一・七と評価されている。
 ところで前原誠司・現国土交通大臣は、二〇〇六年八月二十五日に岩手県の「胆沢ダム」を視察した際の感想を、自身のホームページ上の「前原誠司の「直球勝負」(9)ダムを考える」で、「そもそも、このダムの建設に大きな反対の動きはない。・・(略)・・このダムの必要性は、治水よりも利水にその本質があるように感じた。・・(略)・・ダムは全くいらないというつもりはない。しかし、地球の気候変動の影響もあって、局地的な大雨が短時間で降ることが多くなってきた。ダムによってすべての洪水を防ぐことは、もはや無理だ。昔は「百年に一度」だと思われた大雨が、より頻繁に降ったり、想定していた最大雨量をも超える長雨、大雨が大いにありうる。従って、予算の枠があるからと言って、ダムを作り続けることはナンセンスで、川は溢れるという前提で洪水対策、街づくり(特に地下街対策)を行わなければならない。これは、人間の本能を呼び覚ます取り組みでもある。」と述べている。
 「このダムの必要性は、治水よりも利水にその本質があるように感じた。」とあるが、費用対効果を検証した上でのことなのか、いかなる定量的判断に基づいて発言しているのか、見解を示されたい。
 また、費用対効果の低いダムを作り続ける必要はない。しかし、「川は溢れるという前提で洪水対策、街づくり(特に地下街対策)を行わなければならない。これは、人間の本能を呼び覚ます取り組みでもある。」と述べているが、国民の安全と財産を守るべき国土交通大臣に就任した今でも、この認識は変わらないのか、見解を明らかにされたい。

八 利根川水系の河川改修について

 政府・民主党が平成二十一年八月十七日に上田清司埼玉県知事に送付した回答文書には、民主党は、利根川の治水対策として今必要なことは利根川の脆弱な堤防の強化対策を速やかに進めることであるとしており、治水効果が希薄な八ッ場ダムを中止してその河川予算を堤防の強化工事に振り向けるとしている。
 ところで、脆弱な沖積層の上に形成されている利根川水系の中下流は河床が住居より高い天井川も多くみられ、さらに大増水時には、昭和五十六年の利根川の逆流による小貝川の破堤、平成十三年の加須市の利根川での漏水被害など、利根川水系では脆弱な堤防が多いと指摘されているところである。
 政府・民主党の主張するダムによらない治水対策を行うのであれば、その前提として、利根川水系の脆弱な河川堤防の長さ、堤高、河床部面積、それらを改修する場合に必要な強化基準と事業費の見積もり額、及び、仮に来年から事業調査に入った場合の事業完成の見込み年数について、政府の見解を示されたい。
 また、更にこれら代替措置をとることになれば、膨大な経費がさらに必要となるが、どのように財源を確保していくのか、政府の見解を示されたい。

  右質問する。