質問主意書

第173回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七六号

八ッ場ダムの治水・利水効果等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年十一月三十日

加藤 修一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   八ッ場ダムの治水・利水効果等に関する質問主意書

一 八ッ場ダムの治水効果について

 平成二十一年八月十七日付けの民主党『次の内閣』による上田清司・埼玉県知事への回答文書に、「八ッ場ダムは大洪水に対して役に立つダムではありません。カスリーンの再来に対して八ッ場ダムの治水効果がゼロであることは国土交通省自らが明らかにしています。」と回答しているが、これは平成二十年五月二十七日に石関貴史衆議院議員が提出した「八ッ場ダム問題に関する質問主意書」に対する答弁書(内閣衆質一六九第四三二号、平成二十年六月六日)を根拠に回答しているものと思われる。
 しかし、この答弁内容の後段の「なお、国土交通省において、昭和二十二年九月の洪水時と同程度の降雨量で、同洪水時を含む過去に生起した三十一の洪水時の降雨パターンを基に、八斗島地点における流出計算を行った結果によれば、そのうち二十九の洪水時の降雨パターンについて、八ッ場ダムは洪水のピーク流量に対する調節効果を有している。」と記載している部分には触れず、「大洪水に対して役に立つダムではない」と断じているのはいかがなものか。国民に誤解を与えかねない取捨選択である。
 前原誠司・国土交通大臣も自身のホームページ上の「直球勝負」で、「ダムは全くいらないというつもりはない。しかし、地球の気候変動の影響もあって、局地的な大雨が短時間で降ることが多くなってきた。」と述べている通り、今や我が国では異常気象による局地的豪雨とともに、一日降水量五〇〇ミリ超、三日間合計降水量一〇〇〇ミリ超の地点が増えつつあることも周知の事実であり、異常気象を踏まえた治水対策への対応、及び二十九の洪水時の降雨パターンにおける八ッ場ダムの調節効果について、政府の見解を明らかにされたい。

二 首都圏の浸水被害対策について

 国土交通省は、昭和二十二年九月のカスリーン台風による被害について、関東地方を中心に死者一一〇〇名、負傷者二四二〇名、家屋流出倒壊二万三七三六戸、家屋半壊七六四五戸、家屋浸水三〇万三一六〇戸、田畑の浸水一七万六七八九ヘクタール、氾濫面積約四四〇平方キロメートル、浸水域内人口約六〇万人、被害額約七〇億円と算出している。
 また堤防の決壊は、埼玉県大利根町付近で破堤したのをはじめ、荒川、江戸川等の支流でも破堤し、金町、柴又、小岩付近など多くの地域が水没し、水は東京湾へと注いだという。
 もし現在、昭和二十二年九月と同じ雨が降り、利根川右岸堤防が破堤した場合の氾濫シュミレーションによれば、氾濫面積約五三〇平方キロメートル、浸水域内人口約二三〇万人、被害額約三四兆円(平成十六年度推計)としている。
 ところで、カスリーン台風当時は利根川水系上流にダムは一つもなかったと聞いているが事実か。現在、ダムは何カ所設置されているのか。利根川水系八ダム計画の中で何故「八ッ場ダム」が必要であったのか、改めて政府の見解を示されたい。
 さらに、地下鉄網や地下街、変電所等の生活インフラの地下化が進んでいる東京では、一旦浸水してしまうと、その被害額は氾濫シュミレーションの様に約三四兆円に止まらず、想定を遙かに超える被害を被るのではないかと考える。また、政府・民主党の「緑のダム構想」で主張するような氾濫原や遊水池を首都近郊に確保することは困難と思われるが、政府の見解を示されたい。

三 「緑のダム構想」と森林整備費予算の後退について

 鳩山総理は本年十月三十日の参議院本会議で、森林整備事業の必要性について、「森林吸収目標の達成を図る上で大変重要な事業だと認識しております」、「森林の整備や木材の利用を通じて緑の産業を大いに育ててまいりたい」と答弁し、前原国土交通大臣は十一月六日の参議院予算委員会で、山の保水能力を高めるための間伐、除伐の必要性に言及し、さらに、十一月九日の同委員会で、菅副総理は「まさに路網を造れるかどうかが日本の林業を再生する一つの大きな要素だと思っている」と答弁している。言うまでもなく森林を整備することの意義は決して少なくない。治水の役目を一〇〇%森林に持たせることは無理である。
 しかし、この中で一方では、路網整備や間伐を進めるための平成二十一年度補正予算の「森林整備費」二四六億円を、未執行を理由に凍結し、更に、平成二十二年度予算の概算要求で「森林整備事業費」は対前年比一五・三%マイナスの一三七億円と大幅に減額しているが、これはいかなることか。森林整備に力を入れると言いながら予算を削減するとは、政府・民主党の姿勢に疑問を感ずる。言行不一致と言わざるを得ない。政府の見解を示されたい。

四 治水の費用対効果の分析について

 治水の費用対効果の分析はダム事業者、利水の費用対効果の分析は水道事業者がそれぞれバラバラに行っているが、ダムの効果を議論する際には、両者の効果を一緒に公表できるようにしておくべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五 八ッ場ダムの利水効果について

 関東地方整備局事業評価監視委員会が平成二十一年二月に行った八ッ場ダムの事業評価の資料においては、八ッ場ダムの完成により、取水制限が多数回避され、例えば、平成八年の渇水の場合、取水制限日数が一〇〇日も減少するとされているが、そうしたことも含めて、八ッ場ダムにおける利水の費用対効果はどのような値となっているか、政府の見解を明らかにされたい。

六 八ッ場ダムの必要性について

 八ッ場ダムの利水の効果について、下流の地方公共団体は、現行の暫定水利権では安定的な水の供給は難しく、新たに八ッ場ダムを必要としているが、利根川水系におけるダム設置の状況と渇水の発生状況との関係について明らかにされたい。
 さらに、八ッ場ダム建設中止の再考を改めて求めるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 危機管理上の首都圏の渇水対策について

 八ッ場ダム建設を中止した後に、渇水が発生し、暫定水利権による取水ができなくなったと仮定すると、約七四〇万人が断水し、約一二七〇万人が減圧給水となるとされているが、この数字に間違いはないか。その場合に、政府は八ッ場ダムなしで、危機管理的な観点からどのように首都圏の利水を確保していくのか、政府の見解を明らかにされたい。

八 渇水に対応すべき利水機能について

 気候変動による降雨の激しさばかりでなく、逆に少雨や日照りになることも十分考えられる。日本全体でみれば、将来、地球温暖化に伴い気温が上昇し、ほとんどの地域で蒸発量と年間降水量は増大すると予測されている。そこで生物が利用可能な水量の上限値である年間水資源賦存量(年間の降水量-年間蒸発量)を求め、温暖化が我が国の水資源に及ぼすマクロ的評価は、独立行政法人・農業食品産業技術総合研究機構によれば、南関東はマイナスを示している。今後精査が必要であるが、渇水に対応すべき利水の確保をどうするかが課題となると考えられるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。