質問主意書

第173回国会(臨時会)

質問主意書


質問第四五号

PCB処理状況の情報公開と労働安全衛生の徹底に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年十一月十八日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   PCB処理状況の情報公開と労働安全衛生の徹底に関する質問主意書

 ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法、環境事業団法一部改正(二〇〇一年施行)により、二〇〇四年度から日本環境安全事業株式会社(以下、「JESCO」という)が全国五ヵ所の処理施設を順次、設立し、PCB処理を行っている。
 しかしながら、わが国が採用したPCB化学処理法は技術的に未完成の開発段階にあり、当初から事故の多発と、それによる国民負担増大が指摘されていたとおり、東京、豊田、北九州の各施設で漏洩、火災による操業停止処分が続いている。
 今回、JESCO北海道で聴き取り調査を行ったところ、現地室蘭市の監視円卓会議に報告している以外にも、事故、異常、トラブルが多発し、労働安全衛生対策も不十分な実態が明らかになった。
 目標年次である二〇一六年七月(平成二十八年)の約半分を経過して、高圧トランス約一〇%、高圧コンデンサ約一一%、その他機器約八%という処理状況の中で、環境省及びJESCOは今後、稼働率を上げるとしているが、環境省さえ把握していない事故・トラブルの全容解明なしに処理量を増大させればより大きな事故を誘発しかねない。
 事故・トラブル情報等の全面的な把握と分析、そして地元住民への情報公開が環境省、JESCOの責務であり、また事故の未然防止にとって不可欠である。
 そこで以下、質問する。

一 事故・異常・トラブル情報、財務状況等の各施設ごとの全容把握について

1 環境省は、JESCO北海道の事故情報については、監視円卓会議に報告されている七件しか把握していないが、JESCO北海道によると、「さまざまな初期トラブルとみられる事態」が起きており、また所内でまとめられた分厚い「事故報告」ファイルも確認された。同所は環境省からの求めがあれば提出するとしており、政府として事故・異常・トラブル・ヒヤリハット情報及び立入検査状況などのすべてを提出させ、全容を把握し、公開すべきではないか。
2 JESCO北海道は本格稼動前にパイプの接続の不具合という技術的理由で一ヶ月半稼動が遅れたが、さらに相次ぐ事故・トラブルによる部品取り寄せ等の度に数日間操業を止める事態となっており、これらが昨年度の稼働率四〇%という遅滞を招いているとみられる。
 同所では「設備的な日常トラブル」事例等を内部的にまとめ、改善しているというが、政府として「作業日誌」等も含めて提出させ、エリア別トラブル件数及び起因要素別トラブル件数など処理工程全体の実態把握を行うべきではないか。
 また五ヶ所の処理施設はそれぞれ異なる処理法を導入していることから、各施設ごとの処理状況、稼働日、稼働率を全面的に把握し、分析すべきではないか。
3 環境省は売上損失が増大しているにもかかわらず、JESCOの財務状況を五施設別には報告させていない。
 本来、事業者が処理責任を負うべき産業廃棄物PCBの処理について、補助金として約六九二億円の国費を投入する事業となったという経過からも、政府として、各施設ごとの経常収支を報告させ、あわせて各プラント、メーカーごとの特徴についても把握すべきではないか。

二 労働者の熟練と労働安全衛生対策の徹底について

1 JESCO北海道の本年十月七日の事故では、腕にPCBを含む液体がかかった労働者を翌日になって医療機関に受診させるという遅れた対応であった。急性毒性、皮膚毒性、肝毒性、神経化学的毒性、催腫瘍性、生殖・発生毒性、変異原性などが確認されている有害物質PCBを扱っている事業体として、きわめて杜撰な実態であり、こうした実態が看過されてはならない。
 政府としても、これまでに起きた人身事故について、その対応、医療機関での受診状況、検査結果を各施設ごとに把握し、公表する必要があるのではないか。あわせて労働安全衛生対策と現場での運用の実態、事故の際の対応について、各施設ごとに把握し、公表すべきではないか。
2 公表されている事故報告によると、たまたま熟練度の低い労働者が作業にあたったときに事故が起きたという説明が多い。稼働率を上げることによる大事故を防止するためにも、労働者の熟練度を高めること、熟練した労働者を雇用し続けることが重要な課題である。
 政府としても、各施設の処理事業の雇用形態別人数、業務年数、研修状況をJESCOに報告させ、熟練度を把握する必要があるのではないか。
3 JESCO北海道の処理作業は、運転会社MEPS(室蘭環境プラントサービス)一社が請け負っており、このMEPSは数社の派遣会社からの派遣社員も含め、本年十一月二日時点で百二十三名が作業にあたっている。
 政府は、百二十三名の雇用形態別人数、また研修状況、雇用年数について、把握しているか。
 PCB処理業務がとりわけ熟練度を必要としている実態に鑑み、業務経験年数の高い派遣社員で希望する者に対しては、三年目以降、正社員として継続雇用するよう、政府は、JESCOに対し指導すべきではないか。

三 監視円卓会議への情報の全面開示と機能強化について

1 室蘭の監視円卓会議では、これまでも委員から事故・トラブル情報の全面開示をもとめる声がくり返しあがっていたが、結局はあいまいにされ報告されてこなかった。
 このように第三者委員会自体が形骸化し、処理事業の安全性に懸念をもつ住民や科学者の声に十分応えていない実態となっていると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 当初、北海道では道内のPCBだけを処理するとしていたものが、結局、JESCO北海道は住民の反対がありながら東北・北陸信越など道外十四県のPCBをも受け入れさせた経緯がある。このことは地元住民に今なお強い懸念を残しており、環境省・JESCOが事故・トラブル情報の全容を日常的に明らかにすることは最低限の責務ではないか。
 今後、円卓会議など各地の第三者委員会には、これまで報告してこなかった「事故・トラブル情報」を含め、全面的に情報公開すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
3 PCB処理事業の基本であるPCB処理特措法、環境事業団法一部改正には、PCB処理における情報公開、住民合意の規定がない。このことが安全性の担保や情報公開について政府の責任を不明確にし、結局はJESCOと都道府県、市との協定に委ねてしまっている実態にある。
 有害物質PCB処理事業の特性にかんがみ、情報公開と住民合意を法的に位置づけ、また立入調査権など各地の円卓会議、第三者委員会の権限強化を検討すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。